男ならドワーフ……だろ?
脇役じゃないドワーフを書いてみたかったんです
エルフだ、獣人だ、ドラグニュートだ?
男ならドワーフだろ?
酒と仕事と時々バトル。
魔法だ?
スキルだ?
男ならガチのぶん殴り合いだろうが!?
……そんな前世でガチ物理系のドワーフプレイヤーだった俺は目出度く異世界転生を果たし、念願のドワーフの体を手に入れた。
ゲームの世界に来た訳でも、ゲームキャラの能力値を持って生まれたわけでもなかったがな。
神様の名前とか全然違ったし、ステータスが見えるなんてことも無かったしな。
にしても凄えな、ドワーフは……。
手も口も顔もでけえ。
力も強え。
前世の俺じゃ両手でもきついだろうってハンマーを片手で軽々扱える。
髭だってボサボサのワッサワッサでドワーフの中じゃイケメンだ。
年寄りになると禿げて来る奴が多いんだが、俺はまだまだ髪の毛もフサフサ……いや、ボッサボサだ。
あー、なんだ、冒険者とかやってる連中なんかだと、変な洒落っけを出して、髪や髭を編んだり、整えたりする奴も居るみてえだな?
モヒカンで「ヒャッハー」とか言ってるヤツまでいるみてえだ。
鼻はきかねぇな、あんま。
ドワーフ以外の連中に会うと顔を顰めてる奴もいるから、ドワーフはたぶん男子更衣室を濃縮した様な臭いをさせてるんじゃねえかな?
あ、ただ「いい石がありそうだ」とかそういう勘的な意味での鼻はきくぞ?
腹は出てるが相撲取りとおんなじで体脂肪率は低い。
大人で素手でリンゴジュースが作れない握力の奴なんて、病み上がりの奴しか居ねえぞ?
で、力が強いだけじゃねえ、人間が力の加減の目盛りが10刻みでしか無いとしたら、ドワーフの場合、0.1刻みで目盛りが付いてる感じで加減が効くんだ。
これがあるから、人間より遥かにでけえ手でもって、ちんまい細工物なんかも作れるんだな。
魔法は使えねえが、魔力は感じる。
石には石の、鉄には鉄の、火には火の、水には水の、それぞれ魔力ってもんがある。
鍛治なんか、そのへん口で説明すんのは難しいんだが、魔力をきちんと感じて、行きたがってる方へ、変わりたがってる感じに叩いてやらねえと、見てくれだけの代物になっちまう。
ドワーフの目で見ると人間の町で見る武器の7割は武器と呼んじゃいけねえ代物だな?
形だけ整えても仕方ねえだろ?
まあ「凶器」って名乗るならいんじゃねえか?
俺もさんざん親父にぶん殴られて覚えたんで、最初は叩かれ過ぎて頭がおかしくなったのかと思っちまったもんだが、魔力が見える奴は魔法を使う方に行っちまう人間の場合、仕方ねえことなのかもしんねえが……。
酒か?
物心付いた頃には、もう飲んでたな。
大体乳離れと初酒は同じ時期なんじゃねえかな、ドワーフの場合。
俺自身のことは覚えてねえが、周りの後から生まれた子どもなんか見てるとそんな感じだ。
まあ、大人が飲む様な強い酒じゃねえが、人間なら簡単に酔っ払うくらいには度数の高い酒だな。
水に関しては岩肌から湧いてるやつでもなけりゃすぐにダメになっちまうしな。
それに鉱山で湧く水なんてのは毒と言っていい成分も珍しくないしな。
果物なんかは干したものでも手に入れば上等って感じだ。
それに果物があれば、絞って醗酵させて酒にしちまうのがドワーフだしな。
俺の鍜治場にも麦酒が樽でおいてあるぞ?
水分&栄養補給だ。
岩塩も転がしてあるが、たまに間違えて普通の石を齧っちまうこともあるな。
ドワーフの顎の力はけっこう強いから、その辺の石くらいなら噛み砕ける。
採掘してる奴の中には岩の欠片を齧って、どんな金属が含まれてるか判断する奴もいるしな。
鉱毒に関しては人間より遥かに耐性が高い。
じゃなきゃとっくにドワーフは滅んでるぞ?
土や岩から出たもんはドワーフに害を与えねえみてえだ。
生物毒や魔法的な毒は人間やらヒョロっちいエルフなんかとあんま変わらねえけどな。
俺らが接する可能性のあるモンスターは三通りだ。
一つ目は元々閉鎖されてたり、別の出入り口に繋がったトコとかに住んでた奴ら。
これは採掘を進めた結果ぶち当たるってパターンだな。
二つ目は湧いて出てくる奴。
魔力溜りとかなんかが死んだ後とかだな。
三つ目は外から入り込んでくる奴。
まあ、わざわざ俺らの住処に入り込んでくる奴ってのはそうそういないが、モンスターって言ってもちんまい、それこそネズミより小さい奴らなんかも居る。
食い物をそういう奴らに根こそぎ食い荒らされてやっていけなくなったドワーフの集落もある。
うちのひい爺さんがそんな経緯でここに引っ越して来たって話だな。
俺が戦った事があるのはゴブリンとか大ネズミとかロックワームとかくれえだ。
前世の知識とかは役に立たねぇな、あんま。
魔力や魔法があるせいもあって、まんまで活かせるってことが少ねえんだわ。
ミスリルだの魔鉄だのアダマンタイトだのはあるわ、宝石には属性が付いてるわ、刻んだルーンで付加は付けられるわで、特に俺がやってる鍛治に関しては下手な知識は害にしかならねえな。
自然の中に存在する原子や分子自体からして違うんじゃねぇかな?
電子と陽子と中性子に加えて魔力子とかあってもおかしくねえぞ?
自分でハンマー叩いてて前世の目で見ると「なんでこうなるんだ?」って結果が出ることも多いからな。
ま、前世日本人としては食い物関係ぐらいか? 多少は役に立つ知識は。
ドワーフの顎の力だと前世のまんまの食いもんは歯ごたえ無さ過ぎなんだがな……。
ただ、あえてプラス面をあげれば偏屈で人見知りなのをぶっきらぼうさで誤魔化してる連中の多い、言ってみりゃコミュ障がデフォのドワーフの中では、そういう前世の感覚で他の種族と割と構えずに接することが出来る俺は、ドワーフ以外の外の連中との接触役を押し付けられることが多い。
あれ?
これ厄介ごとが増えてるだけだよな?
役に立ってねえじゃねえか!
チートだぁ?
んなもんねえだろ、普通?
ゲームじゃねえんだぞ?
鍛治だって一から自力で身に着けたもんだ。
人間から見りゃドワーフの鍛治はチートじみて見えるだろうが、苦労して磨いた腕を「チート」で片付けられたくはねえわな?
あー、ただ……岩とか硬えトコを掘んのは上手えみてぇだ。
他の奴に掘れねえトコでも俺だと掘れたってことが結構あってな。
こっちは鍜治場から離れたくねえってのに「固くて手に負えねえ」なんて時に呼び出されんだわ、これが。
いい鉱石を優先的に回して貰えるんだからお互い様っていやあお互い様なんだがなぁ……。
こう、興が乗ってきたトコで呼び出されたり、いい温度に炉が暖まって来た時なんかに呼ばれんとなぁ。
ムカっとくるわな?
岩掘る時に使ってんのは自分で作った黒鉄鋼製のピックアックスだ。
片側はハンマーになってるから応急の装備の修理くれえなら出来るヤツだな。
板金鎧が凹み作って動きづれえなんて時に裏っ側からガンガン叩くんだ。
擦れるくれえなら「どこのお坊ちゃまだよ、気にすんな!」で済ませられるんだがな?
戦いとなると「動く筈のところが動かない」なんてちょっとしたことでも命取りになるんだ。
良く冒険者の必需品としてナイフをあげるヤツが居るが、同じくらい鉄のハンマーも使えるぞ?
鏨もあると、なおいいな!
まあ、俺の場合はピックアックス一丁で平気なんだがな!
そんな俺は何の因果かダンジョンなんかに居る。
いやよ、毎度の「頼むわ」の一言に、いい鉱石も手元に無くて暇だったから「おうよ!」って答えて固ぇ岩を掘ってたのはいいんだけどよ?
ガラガラと崩れてその固い岩の先はがらんどうだ。
里帰りして来た冒険者だったヤツとか、冒険者あがりのおっさんとか居れば話は早かったのに、生憎と鉱夫か職人しか居やがらねえでよ、俺が様子見を押し付けられたって訳だ。
初めて入ったが鉱山と違ってダンジョンってヤツは面白みがねえな。
周りの石が死んでいるって言うんか?
生き物で言えば剥製みたいな感じだって言えば、俺の感じてる気持ち悪さが分かってもらえるか?
なんだよ、骨か……。
別に動いてるからって珍しくもねえだろ?
流石にドラゴンの骨とかならビビるが、人間の骨なんか、そこら中に埋まってるじゃねえか。
魔力貯まってるところ思い切りぶっ叩けば、ほらな……こいつ、生前ちゃんと小魚とか食ってたんか? 脆過ぎだろ。
動きもとれえし、子供の練習相手にわざわざ掘り返すヤツも居るくれえだぜ、ドワーフの鉱山じゃ。
まあ、あんまこいつらの相手ばっかしてると無常さに目覚めるんだかなんだか、僧侶とかになっちまうヤツも居るから、何事もほどほどが一番だけどな。
今度はストーンゴーレムか。
ゴーレム系もカモだな。
俺ら魔力の流れが見えるだろ?
で中心も分かるわけだ。
ぶっ叩けば壊れるのはスケルトンと同じだな。
アイアンゴーレムとかも鍛造じゃなく鋳造みたいなもんだからな。
コアにいいものを使えば手ごわいが、普通に作られたヤツはスカとかが出来て構造的に脆いトコがあったりするからな。
案外、ハンマー一丁でも倒せたりするんだよ、これが。
スチール以上は攻撃に魔力を乗せられないヤツは厳しいんだが、鍛治をやってるヤツで魔力を乗せられないヤツはまず居ないしな。
コアが届かないくらい高いトコにある巨大なゴーレムでもない限り、ゴーレムはドワーフにとってはさほど脅威じゃないんだ。
鉱山掘ってて繋がっちまう古い遺跡で遭遇することも多いから、ドワーフって種族全体に色々と知識や情報が拡散されても居るからな。
厄介なのは……出たか。
こういうアンデッドは僧侶とか神官じゃねえと厳しいな。
俺のピックアックスは「おばば様」が加護付けてくれたから兵器、じゃねえや平気なんだがな!
「おばば様」は言ってみりゃ長老って感じか?
外の連中とはまた別な、山に生きるドワーフの独自の信仰の担い手でもある。
ややこしいことになると面倒なんで、外向けには外で信仰されてる神様と一緒だってふりをしてるが、実際のトコは精霊だのの自然信仰だの祖霊信仰だのが混ざった独自のものだ。
主に女性が中心になってこの信仰は脈々とドワーフに受け継がれている。
治癒と加護と祝福が主な仕事だ。
何かあって役立つことを悲しみ、何も無く自分たちが注目されない平穏を好む、俺ら男衆からするとちょっと眩しい存在だな。
うん、俺としてもその有り様は好ましいと思うぞ。
べ、別にちょっと可愛い子がおばば様の世話役に居るからじゃないからな!?
いいか、そこは勘違いするなよ!!
……そうして進んだ俺の前には壊すのが勿体無いほどの細工が彫刻された扉。
ん? なんで壊すのが前提かって?
開ける為の取っ手も無けりゃ呼び鈴も付いてねえんだぞ?
鍵穴もねえし、鍵開けの魔法とかドワーフに使えるわけねえだろ?
なら壊すしかねえだろ?
ぶっ叩いたら壊れた。
まあ、当然だな?
「我の研究を盗みに来た魔術師か? それとも薄汚い盗賊か? ……え? ドワーフ? まじ、なんでドワーフ?」
わたわたと慌てるローブ姿の……なんでタヌキ?
この世界ってタヌキ居るの?
これは予想外……。
塩漬けにしてた話ですが、他の作品が書けているんでドサクサで公開