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童話シリーズ

竜を倒して英雄となった悪役令嬢の話。

昔々、ある所に小さな国がありました。

その国は深い自然に守られて、なにひとつ他国の脅威に晒された事はありませんでした。

そんな彼等が恐れていた事はたったひとつ。


山に住む竜の存在でした。


初めは追い出そうと努力したものの、今ではすっかり諦めてしまいました。

そうして、その小さな国はいつか竜が襲いかかってくるかもしれないという恐怖が

何処かしら纏いつくようになりました。


そんな小さな国には王子様と婚約者の女の子がいました。

女の子は将来の王妃にふさわしい人間になろうと必死に努力をしました。


彼女だって本当は同い年ぐらいの子供と遊びまわりたかったのです。


けれど、我慢をして礼儀作法や政治に加え、美容も一生懸命頑張りました。

そうして、彼女の何処か冷たさを感じる美貌はますます磨きがかかり、

教養も高められ、すっかり隙はなくなりました。


これなら、王子様も自分を好きになってくれるだろうと女の子は思いました。

けれども、彼はそんな彼女に息苦しさを感じ始めたのです。


女の子は小さい時から勉強しかしていなかったので対等な友人の作り方を知りませんでした。

自然、彼女には取り巻きの人間しか残らないようになりました。


そんな女の子を見て、王子様はますます遠ざかりました。

彼女は寂しい気持ちでいっぱいになりました。


そんな時、地位の低い女性に王子様が熱を挙げていると言う噂が流れました。


女の子は悲しいことに自分の醜い気持ちに負けてしまいました。

彼女は初めて自分の為に取り巻きを使い、その女性にたくさん酷い事をしたのです。


王子様はそのことを知り、カンカンになって怒りました。

国王陛下は実の娘のように思っていた彼女に裏切られた気持ちになって、国外追放を命じました。


貴族のお嬢様だった女の子が国の外で生き延びられるわけがありません。

森の中で死のうと、代々一族に伝わる猛毒を持ってたった一人で国から出ました。


女の子は自分の心根の醜さを恥じて、森の中を我武者羅に歩きました。


その道中に旅人に会いました。

何でも彼は世にも珍しい竜のうろこを取りにその住処まで行くと言うのです。


女の子は死ぬ前に竜を見るのも悪くないかと思い、

一緒に連れて行ってほしいと言いました。


旅人はひどく驚き、それでも訳ありと悟ったのか静かに頷きました。

その男の人と彼女は道行きの途中、一杯何気ない話をしました。

そんな風に人と話をするのは女の子にとって久しぶりのことでした。


そうして住処にたどり着くと竜がいなくなったのを見計らってうろこを探しました。

女の子も協力して一生懸命さがして、ようやっと幾枚か見つかりました。

そのとき二人にふと影が差しました。


彼女が後ろを振り返ると灰色のうろこがてかてかと光ったおぞましい竜が

その金色に光る目を見開いてこちらを見ていました。


女の子は咄嗟に旅人の前に出ると、

竜がその柔らかそうな肉を食べようと大きな口を開けました。


その竜の口に彼女は力いっぱい毒を投げ入れました。

その毒は大きな動物でもあっという間に死んでしまうとても強いものでした。


竜は叫び声をあげて、暫くのたうち回りましたが泡を吹いて動けなくなりました。

女の子は安心して、気を失ってしまいました。


次に目を開けると彼女の住んでいた国のお城でした。

何故私がここにと、女の子は首をひねりました。

それから暫くの間、彼女はショックで熱を出し、寝込んでしまいました。


やがて、旅人の男が訪ねてきました。

彼は女の子が竜を倒した事を伝えたことを話しました。

竜の死体からは彼女の一族に伝わる毒が検出され、今では貴方は英雄扱いだと言いました。


当然君の国外追放も許されたよと旅人の男は続けました。

女の子は自分のしてしまったことを彼に知られたことが分かりました。


私のことを軽蔑しないかと恐る恐る彼女は尋ねました。

旅人の男は黙って微笑みました。


私のやったことは許される事じゃない。

それでもそこで立ち止まったら駄目なんだと女の子は思いました。


そうして彼女は正式に女性に謝罪すると、

貴族の生活に戻れると言う話を断り、旅人の男と一緒に国から出て行きました。


二人は幾つかの国を回り、その中でも素朴な国に彼女は定住することにしました。

女の子は小さな診療所で一生懸命働き始めました。


時々ふらりと旅人の男がやってきて、

色々な国の話をして、穏やかな時間を過ごしました。


彼女はお婆さんになっても、

彼が立ち寄るのを楽しみに待っていたと言います。



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― 新着の感想 ―
[一言] 王子様ひどい、ひどすぎる!と、思いながらも、女の子が 実はさらにバイタリティがあって、嬉しかったです。 やっぱり女は強くなくちゃね、って思いました^^
[一言] 人生どこでどうなってしまうのかは、わからないものですね。 王子様のために一生懸命頑張ったのに、国外追放されて、でも龍を倒して今度は英雄。 彼女はジェットコースター並みのアップダウンの激しい人…
[一言] 前回も酔った勢いで書きました。前回の書き込みに不快では無いのですが、今回も酔った勢いで一言。 まず、王家と上位貴族家の政略結婚に、下級貴族の子女(若しくは平民の娘)が介入する場合、王家と上…
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