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幕間2

 『黒い』影。

 それは、空間を抉りだして虚無に染めたかのような、果ての見えない『黒』で。

 それは、全てを超越したあらゆる欠落そのものの象徴で。

 だから僕は、見た瞬間に悟った。

 目の前にいるこれは、次元の違う存在なんだと。

「……――」

 身体の震えが止まらなかった。

「……っはは――」

 笑いを堪えることができなかった。

「兄さん、何を――」

「――だって、いたんだぞ」

 僕は、自分の声が興奮で上擦るのを抑えきれなかった。

「死神は本当にいたんだ! 都市伝説や根拠のない妄想なんかじゃなくて、本当に存在したんだ!」

 そんな僕に、樹は、恐る恐る訊く。

「恐く……ないの?」

 恐い? そんなもの、あるはずはない。だって僕は、この瞬間を待っていたのだから。

 僕の見る世界は、小さくて、狭くて、つまらなくて。

 僕が僕自身を試すには、何もかもが、弱すぎて、脆すぎて。

 だけど今――世界は、限界を超えた。

 僕が感じていた世界の果ての――その先を見せてくれた。

 だから――

「――いくぞ、死神」

 僕は、物言わぬ漆黒に。両手を掲げ、できる限り巨大な霊気弾を形成し。

 自分の力の全てを、叩きこんだ。


 ――爆発。


 僅かに実体化した爆発の余波が、周囲の木々を大きく揺らし、そして――

「うそ、だろ……」


 ……無傷。


 いや、そもそも。死神という存在に『生や死』なんて概念が存在するのか。

 そこにあるのは、変わらずに存在する――黒い影。

 それはさながら、空間そのものに穿たれたような――漆黒の穴。

 物言わず動きも示さず、ただそこにあるだけのそれは、まるで全てを次元の果てまで吸い込んでしまう奈落の穴のようにも感じ、

「ひ――……ッ」

 恐怖の赴くがままに、僕は再び両手を上に掲げて霊気を収束――

「…………………………………………え?」

 気付けば――腕のように伸びた影が、自分の胸に突き刺さっていて、

「――兄さんッ!!」



 ――その日、俺は半身かたわれを失った。



 それ以上のことはもう、覚えていない。

 ただわかったのは、俺は何とか一命を取り留めたこと。

 そして、もう二度と、あいつの笑顔を見られなくなったこと。

 それは、俺があいつを殺したようなもので。

 だから、だろう。

 気付けば俺は、霊術を――霊気弾を操る根源的な力を失い。その代わり、魂の動きを感知するという、力とも呼べないあの性質を得た。

 僅かな力は、裏を返せば死神の刻印という大きな傷痕であり。

 あの日から俺は、決して死神の影から逃れられなくなったのだ。

 だから、俺は思うことにした。

 これは――死神の呪い。

 そして、自分自身への――罰なのだ、と。


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