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幕間1

     幕間1



「なんだ、楽勝じゃん!」

 正面の悪霊に向けて右腕を突き出す。掌から放たれたのは、明るい空色の輝きを放つ光弾――霊気弾。敵に向かってまっすぐに飛んだそれは、避ける暇さえ与えず着弾。瞬間、ロクに形すら取れていない黒くモヤモヤした霊体は爆発し、霧散する。

「……相変わらずアグレッシブだよね、渉兄さんは」

 隣から話かけてくるのは、神楽樹。僕――神楽渉の双子の弟だ。二人して森を歩いて進み、出てくる悪霊を片っ端から倒していく。

「僕はただ、無駄が嫌いなだけさ。敵は先手必勝。牽制や防御みたいなまどろっこしい小細工で、自分の霊力を使うなんてゴメンだからね。これだって一応、生命力なんだろ?」

 横から攻めて来た二体に対し、樹としゃべりながら霊気弾を叩き込む。なす術もなく霊体を散らせる悪霊を見るのは、退屈ではあるが清々しいものだ。

 『神楽無双』。巷ではそんな言葉もできた。祓霊師――悪霊を倒すことを生業とする霊術師を数多く輩出している名門、神楽家。その中でも、特に優れた能力を持つ僕ら二人の活躍を指す言葉だ。

 もっとも……僕らが双子である時点で、それはもう『無双』ではないのだけれど。

「でも、兄さん。霊気弾……誘導とかしないの?」

 隣を歩く樹が、そんなことを訊いてくる。

 霊気弾とは、自分の生命力である霊気を球状に固め、それを射出する技だ。慣れれば、複数の同時射出や連射、そして誘導も可能になるのだが……

「そんなの、大して意味ないだろ? その分、速度や威力が下がるわけだし。誘導に集中するくらいなら、強くて速い霊気弾を叩き込めばいいさ。先手をとって撃ち込めば、まず一撃で決着はつくわけだしね」

「はぁ……。ま、渉兄さんらしいね」

 樹はそう言って、掌を上に向けた。そのすぐ上に、薄い緑色に輝く三つの霊気弾が出現する。僕のものとは異なり、一発あたりは拳ほどの大きさしかないけれど、見た目ほど威力に差があるわけでもない。単に、収束率――つまり好みの問題だ。

 樹は、頭上から襲い掛かってくる悪霊三体に向けて……――

「ん? 撃たないのか?」

「ま、……見ててよ」

 そう言ってニコッと笑う樹は、そのままの姿勢で悪霊三体を十分に引きつけた後、タイミングを見計らい――霊気弾を発射。宙を漂いながら待機状態を維持していたそれらは、襲い掛かってくる三体に向かって別々に飛翔、着弾する。二体は消滅。もう一体は、木陰から新たに出現した別の一体に向かって吹き飛び、互いにぶつかる。直後、同時に霧散。……今度はちょっぴり得意気に笑う。

「よくそんな細かいことできるよな。僕なら、一発ずつ撃ってさっさと片付けるけど」

「ぼくの霊気弾は、兄さんほど大きさも威力ないしね。それに、こういう工夫って面白くない?」

 樹のこういう器用な技術には、素直に感服する。こいつは昔から、そういうのが得意だった。力より技術、動くよりもまず考える。……自分とは正反対の性格だ。

「でも、僕たちは祓霊師だぞ? 工夫とか難しいこと考えるよりも、確実に仕留めることの方が大事だと思うけど」

 樹の言葉に反論しながら、視界の端で捉えた獣の形の悪霊に向けて霊気弾を放つ。しかし……それは呆気なく回避された。

「ほら。そうやって適当にやってるから……」

 少し呆れるような声とともに樹の放った複数の霊気弾は、緩やかな弧を描いて同時に飛翔。悪霊を包囲するように動き、周りから次々と着弾する。

 しかし、仕留めるには至らない。

「樹だって倒せてないだろ。さっきのはちょっと油断しただけ。手出しは無用さ」

 今度こそしっかりと狙いを定めて放った霊気弾は、寸分違わず悪霊の腹に命中し、霊体を霧散させた。並の祓霊師なら数人がかりで攻撃を続けてやっと倒せるレベルのものなんだろうけど、僕ら兄弟にとってはただの雑魚でしかない。

「でも、本当にここなのか? 死神が出るのって。全然そんな気配ないけどさ」

「ぼくは……出て来てほしくないけどな。だって、死神ってすっごく恐いやつなんでしょ? いくら、渉兄さんとぼくでも……」

「だから、面白いんだろ? そのために樹を連れてきたんじゃないか」

「そりゃ、僕に寄せられて悪霊はたくさんくるけどさ……。吸引体質なんて僕からしたら、たまったものじゃないよ」

「樹なら問題ないって。雑魚がいくら寄ってこようがすぐ蹴散らせるんだから。あ~あ、早く出てこないかなぁ、死神」

 きっかけは、些細な噂だった。祓霊師の界隈では有名な『悪霊の森』に出るという――『死神』の噂。

 悪霊というのは、自分と霊気の波長が合うものに寄り付きやすいという性質があり、特に祓霊師なんかは、その仕事柄か、この吸引体質の者が比較的多い。このあたりは単なる体質の問題で、言うなれば、犬に好かれやすいとか子供に好かれやすい体質というように、悪霊に好かれやすい霊気というだけだ。そのため、比較的強い悪霊がうじゃうじゃと出る、この『悪霊の森』に近づこうという祓霊師はほとんどいない。

 樹なんかはまさにその吸引体質の典型で、両親の言うには、樹が生まれてからというもの、町全体にかなりの悪霊が寄り付くようになったそうだ。人間と違って幽霊は他者の霊気に極めて敏感なため、遠くからでも樹の霊気を嗅ぎつけてくるのだろう。まあその分、祓霊師としては、わざわざ悪霊探しに行かなくても済むようになったわけだけど。

 まあとにかく。だからこそ、この死神の噂はただの都市伝説のようなものでしかなかったわけが、その辺の悪霊退治に飽き飽きしていた僕らにとっては、これ以上ないほどの遊びの種だった。

「……兄さん」

 突然、樹に手首を掴まれ、くいっと引き留められる。

「わっ! ……ったく、何するんだ」

 僕は樹に向かって抗議の声を上げるが――しかし。

 いつの間にか樹は表情を険しくして、虚空を睨んでいた。

「……どうしたんだよ、急に――」

「――しっ……気をつけて」

 僕の言葉を遮り、樹は人差し指を口元に持ってくる。

 そこで――やっと気付く。

「悪霊の気配が……薄くなってる?」

「……そうじゃないよ。これは――」

 樹が何かを言いかけた――その時。


 ――ソレは姿を現した。


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