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鍵付き剣の少女 ~ダイヤモンド越しにキスをして~  作者: MADAKO
第5章 サイレントレボリューション
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XIX 罪人たちの見る夢

 銀髪は悠然と構えていた。両手を前に出す格好で筒の先をこちらに向けている。

「おおっと、記者さんも動くなよ。姫山の口をこいつで塞いでやることも出来るんだぜ」

 最悪のタイミングだった。

 白衣の男を無力化したと思った矢先にこいつが現れるなんて。


「お前、気絶してたんじゃ……」

「いやー、効いたぜ。こいつら手加減ってモンを知らねえみたいでよ。今も体が(きし)むぜ」

 そんな軽口を俺に返しながら銀髪はゆっくりとこちらに近づいてくる。


「ふん、お前の自業自得だあれは。あたしだって結構痛かったんだかんな」

「おいおい、あれだけしておいておあいこだ、なんて言って済ます気かよ」

 一歩一歩こちらに近づいてくる。

 今の状況ではこいつが圧倒的に有利なのは間違いない。


「けどまあ安心しろ。俺は女には優しいからよ」

「どの口が言ってやがる」

「口の利き方に気をつけな。おとなしくしてりゃ可愛がってやるって言ってんだぜ?」

 銀髪の口がにやりと歪む。


 まずい、本格的にマズイ。


「君がここに来たのは、彼の指示か?」

 今まで成り行きを見守っていた白衣の男から声がかけられる。

 銀髪は底の見えない笑い方をしながらそれに応えた。


「いいや、違うな。お告げなんて聞いてないぜ。ここにいるのは俺の判断で、俺の意思だ」

「ならば何をしに来た。君には特に指示がなければ待機の命令が出ているはずだ」

「おいおい、皆まで言わすなっての旦那」


 その腕は白衣の男へと向けられた。


「こういうことだよ」

 銀髪の顔がその言葉の意味を雄弁に語っていた。


「な、なあゴロー。これって……」

「ああ」

 どう考えても仲間割れだ。


「こんなことをして、君に一体何のメリットがあると言うんだ」

「おいおい旦那、あんた頭良さそうな顔してそんなこといちいち聞くなっての」

 銀髪は腕を白衣の男に向けたまま歩み寄る。

「俺はあんたのポジションが欲しいのさ。神様と直に話せる立場ってやつがな。それで俺の思い通りのことをする。神様のお力をお借りしてなら、きっとやれるだろうさ」


 そう言って銀髪は、野望の頂点、非現実的にして実体のない妄想の言葉を口にする。


「世界征服ってやつだ」

「バカなこと言ってんじゃねえよ。そんなこと出来るわけねーだろ」

 遊姫の冷静で現実的な指摘にも銀髪はどこ吹く風と言った顔をしている。


「つまらねーこと言うなよ姫山。これだからロマンを理解出来ねえ女は困るぜ」

「俺も理解したくないな。そんな馬鹿なこと言ってないで、遊姫の体を拘束してるやつをとっぱらってくれないか?」

「それは後でな。抵抗する気がなくなるまではたっぷりと体に教えてやらなきゃな」


 俺はどうすべきかを冷静に考えていた。

 銀髪は油断している。かといって俺が何かしたところでどうこうできる相手かどうか。


 そんな時、不意に、俺の手の甲に何かが触れた。


 弱々しくて気づくかどうかというくらいの軽い刺激。


 そっと指で優しくなぞられたような、そんな感覚。


 視線を移す。小さな赤い雫がつぅ、と流れている。

 俺はこの雫の送り主にそっと目をやった。


 血だまりの中、かすかに動く手が鉄塊を握り締めるのを見た。


「どんなに殴られたってあたしはお前の言うことなんか聞かねーよ」

「そうだ、その粋だぜ。じゃあゲームをしようか。俺に逆らったらあの記者さんの指を一本ずつへし折っていくってのはどうだ?」

 銀髪は俺を人質に遊姫を屈服させるつもりらしい。

 白衣の男といい銀髪といい……よく考えれば白妙もか。


 どいつもこいつも俺が遊姫の弱点だと思って舐めやがって。


「だったら俺は何をされたってお前の思い通りになんてなってやらない。これなら俺を例え殺したって遊姫を手に入れられないな」

「おーおー言うねえ記者さんよ。じゃあ三人で我慢比べといこうか。まずは姫山をサンドバッグにして記者さんの気が変わらないかの実験だな」

「言わなかったか。お前の思い通りになんてさせてやるかっての」

 俺は精一杯の虚勢を張った。自由に動ける体でも、あいつをぶん殴るだけの力がないことが情けないから。

 せめてここでだけは負けない。譲れない。


「かっこいいじゃねえか記者さんよ。じゃあどうする? 姫山をかばって盾になるか? それともいっそのこと俺と勝負してみるか?」

「ぶん殴ってやりたいのは山々だけどな。悔しいけど俺じゃ二秒で倒される自信がある」

「ご、ゴロー、そんなバカ正直に言わなくても」

「遊姫、少しはフォローしてくれ」


 俺は遊姫にそう突っ込みながら、遊姫をじっと見つめた。


 俺は目で訴えた。

 俺を信じろと。


 伝わったかどうか分からない。

 実際、こんな状況で何をどう信じていいのかも分からないだろう。


 だが遊姫は目を少しだけ見開き、そしてふっと笑みをこぼした。


 俺たちの間に言葉はなかった。だが確かに遊姫からそれを受け取った。

 目に見えない、形もない、不確かで確証も裏付けも持たない、『信頼』という印を。


 それがこんなにも心強いものだと、今初めて知った。


「アイコンタクトはそんなところでいいか? 記者さんよ、何する気か知らねえが」

「遊姫……」

 銀髪の言葉を遮り、俺は静かに告げた。


 俺はまっすぐ銀髪を見つめた。

 こんな状況で、きっと先程までの俺なら気圧されていた。

 だが今は遊姫の信頼がある。遊姫が信じてくれている。

 だったらこんなところで、負けたくなんてなかった。


 手の甲に、再び雫が触れた。


 それが、恐らくは合図だ。


「しゃがめっ!」


 俺の叫びに呼応して遊姫は出来うる限り姿勢を低くした。


 そのすぐ真上をあの禍々しい鉄塊が唸りを上げて通り抜ける。

 風が遊姫の髪を巻き上げ、吸い上げた血を飛び散らせながら、真っ直ぐに銀髪を目指して飛んでいく。


「何っ!?」

 銀髪は激突すんでのところで白い塊を鉄塊にぶつけた。白い塊はぶつかった直後に膨張する。だがそんなものをものともしない重量で直進し、銀髪へとぶち当たった。


 鈍い音が響く。

 あの白い塊がクッションのようになっているものの、その衝撃はかなり激しい。軽乗用車にでもはねられたかのような勢いで銀髪が吹っ飛んだ。


「遊姫っ!」

「分かってる!」

 その隙に遊姫は左腕の白い塊を斬り、右足、左足と順に拘束を解いた。姿勢を固定されているせいか、かなり手間取りながらではあったが。


「ちっ、やってくれやがってっ!」

 銀髪はそう言って、飛ばされた勢いそのままに逃げ出していた。この状況を不利と見たのだろう。遊姫が自由になっただけならまだしも、二対一なら部が悪いと。


 だが二対一、などというほどこちらの状況が思わしくないのは明らかだった。


「おい、白妙っ!」

 鉄塊をぶん投げた白妙は、そのまま自らの流した血だまりに倒れこんで動かなくなった。


 この場に似つかわしくない表現だが、それはさながら赤い絨毯に寝転がった少女のようで、横顔はこの上なく穏やかなものに見えた。


「着物女!」

 遊姫も白妙に駆け寄り、血まみれになるのも(いと)わず白妙を抱き上げ仰向けにする。俺も手に触れるが、かなり冷たくなっている。


「おいっ、おい!」

「ユウキちゃん、うるさいわ」

 白妙は息も絶え絶えながらもそう言った。俺たちは心底胸を撫で下ろした。

「よかった、まだ息があるな」


 そうは言ったものの白妙の顔には生気がなかった。

 血の気の引いた顔で何とかまだ息をしている、という表現が正しい。


「待ってろ! 今止血してやるからな」

 遊姫は自分の体の包帯を解き、器用に素早く白妙の怪我に巻きつけていく。先程拘束された左腕の包帯は使えなかったのか、そこを残して腹と右腕の分を白妙に分け与えていく。


「捨て置き……なさい」

「バカなこと言うんじゃねえっ! 傷は大したことねえから助かるっ!」

「血が抜けすぎたわ。どの道……これじゃあ」

「おいゴロー、コイツの口も塞いでやってくれ」

「無茶なこと言うな、あれはお前限定だ」

 こんな時にそんな提案をする遊姫も遊姫だが、ここで突っぱねた俺も結構ひどい男かもしれないと今になって思う。


「なあ白妙。ここを生きて出られたら、俺たちとどこか出かけないか? ショッピングでも散歩でも何でもいい。普通のことをしよう。血なまぐさい戦いとか、命のやりとりだとかは無しだ。俺、お前とはいい友達になれると思ってる」

 俺は白妙の手を握りながらそう呼びかけた。

 血にべっとりと濡れた冷たい手を、少しでも温めようとしながら。


「だってお前、結構いい奴だもんな。俺がカッとなって白衣の男の前に出ようとした、あの時だって本当は俺を助ける為に割って入ってくれたんだろ」

 俺がそう言うと、白妙は弱々しく応えた。

「買いかぶりすぎ……私はそんな、立派な人間じゃないわ」

「いいや、俺はそう信じてる」

 そう言って俺が白妙の手を強く握ると、白妙はふっと笑みをこぼした。


「馬鹿な人ね。ゴローさん」

「馬鹿って言うな。いいから、今は少し黙っておけ」

「そうね……そうするわ」


 そう言って白妙は目を閉じた。


 頭が遊姫の体にとん、と乗せられる。一瞬焦ったが、どうやらちゃんと息もしている。気を失ったのか眠ってしまったかのどちらかだろう。


「こいつとゴローと三人で出かける、か。どこ行くんだ?」

「さあな。希望は聞いてみないとな」

 そう言うと遊姫もふっと笑う。そうして包帯を巻き終え、とりあえずの止血を終えた。


「ゴロー、こいつ担げるか?」

「ああ。さっさとここから出よう」

 遊姫は剣と鞘を拾い上げてしまう。

 ぱちりという音が小気味よく響いた。


 いつの間にかあの白衣の男はいなくなっていた。混乱に乗じて逃げ出したのだろう。

 あとに残ったものは、白衣の男のバラバラになった拳銃と、遊姫を拘束していた白い塊と、別の塊の中に沈んでいる白妙の鉄塊、血だまり。


 遊姫はそれに一瞥(いちべつ)することなく、颯爽と駆け出していた。


 俺は白妙を担いで、その後に続いた。



――



「やはりここか」

 男の声に俺は振り返る。そこには予想通りの人物が立っていた。

「おい、なんでここに来たんだあんた。俺に殺されるとは思ってなかったのか?」

 俺は容赦なく砲身をこの男に向ける。

 俺が反旗を翻したことなど、この男は分かっているはず。


「私には、見届ける責任がある。それに彼も私を止めなかった」

 男は相変わらず無感情に、けれどどこか風格を感じさせる様子でそう言った。

「運命論か。あんたもよっぽどこいつに心酔してんだな」


 俺は巨大なモニターを眺める。

 ここはこの施設の中枢にして分離可能なブロック。ここから世界を睥睨(へいげい)することが出来る、まさに神様の席ってわけだ。


「何故彼を悪用しようとする。君が世界というものに執着する人物にも思えなかったが」

「あんたの言うとおり、別に世界なんてどうだっていいさ。ああ、世界征服って言葉を使ったのは俺か。あれはなんだ、言葉のあやってやつで深い意味はねーんだ」

 俺は別に隠すこともなくそう言ってやる。


「俺はただ、人生を面白おかしくしたかっただけだ。こんなつまらない毎日、こんなつまらない世界に飽き飽きしてたんでな」

 俺は冗談交じりでそう言いつつも、このブロックを浮上させるよう命令を打ち込んだ。


「直接話せるんだからこんなことをする必要ないんだろうけどな。こっちのほうが気分は盛り上がるだろ」

 俺がそう言いながら返事を待っていると、二つの文章が俺に提示された。

「ほう、世界をもらうための条件ってワケか」


 一つは、俺の世界征服にそこの白衣の男の同席を認めること。

 そしてもう一つ、なかなかに意外な課題を出してきた。


「こりゃあいい。ついでにあいつを嫁に取れとでも言ってんのか?」


 姫山遊姫を屈服させること。


 それが神様の示した俺の覇業への道だった。


連続投稿2日目、今回はここでまた一旦ストップしておきます。続きは次の土曜日から再開していきます。


感想、意見はいつでもお待ちしていますので、よろしくお願いします。

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