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XIII 水底への招待

 頭が重い。

 意識が混濁している。


 何かに揺られる感覚と、そして優しく包まれる肌の(ぬく)もり。

 遠い昔に戻ったような気分だった。


 ……俺は、何をしていたんだっけ?


「お、記者さんはお目覚めか?」

 聞きなれない声。男の声だ。

 声の調子からするとまだ若い。血気盛んな感じがする。


「おはよう。ゴローさん」

 俺に声をかけるその女を、俺は知っていた。

「着物……女」

 目を開けると、着物女が俺を上から覗き込むようにして微笑んでいた。


「気分はどう?」

 優しく、労わるように慈しむように俺にそっと触れている。

 寝ている状態から正面に彼女が見えるということは、頭の裏の柔らかい感触と合わせて、膝枕でもされているのだろうか。

 何だか俺の知っている着物女じゃないみたいだった。


「俺は……」

 自分が今どういう状況にいるのか確認しようとして、腹部の痛みに顔をしかめる。

「まだ動かない方がいいわ。ベタだけれど」

 にこりと着物女が笑う。


「一体ここはどこだ」

「ヘリコプターの中よ。何処へ行くかは、ついてからのお楽しみ」

 突拍子のない答えに俺は戸惑った。


「ヘリって、確か俺はパーティーに遊姫と……」

 はっと意識が覚醒する。

 腹の痛みなど気にせず、俺は飛び起きた。

「ゆ、遊姫はっ!?」

「騒ぐなよ記者さん」

 声のする方を向けば、俺の向かいには男が座っていた。


 見知らぬ男だ。

 

 銀髪のまだ若い、ちょっとそこらじゃ見かけないくらいのイケメンだった。

 美形というよりは男前という感じの顔で、着崩したスーツはどこかだらしないのに様になっている。

 ワイルド系というやつだ。


 そして、その男の脇には――。


「遊姫っ!」

「だから騒ぐなっての」

 男は呆れ声でそんなことを言ったが、そんなことはどうでもよかった。

「お、お前、遊姫に何をしたっ!」


 男のとなりに遊姫は座らされている。

 体中あちこちボロボロになって、ところどころ痛々しく肌も露出している。

 右頬が内出血しているのか真っ赤に染まり、口の端からは血が流れた跡があった。


「おいおい勝手に俺のせいにするなよ記者さん。っていうか見てたろ、コイツがボコボコにされるとこ」

「あ……」

 そうだ、段々と冷静さを取り戻した俺は気絶する前の出来事を思い出した。


 遊姫は着物女に負けたのだ。

 飛び込んだ末にフェイントにかかり、蹴りにパンチにと攻撃を浴びせられて。

 遊姫がボロボロになって床に転がる映像がフラッシュバックする。


「まあ、俺のほうはこれから何かするんだけどな」

 男はそう言って遊姫を抱き寄せるように後ろから手を回す。


 そしてその手は遊姫の背中を一周して、迷うことなく遊姫の女としての膨らみに触れる。


「な……」

「ん~、悪くねえな。記者さんもこいつは堪能済みか?」

 そう言って無遠慮に遊姫の胸を揉みしだく。

 遊姫は気絶しているのであろう、時折小さく呻くだけで全く抵抗できずにいる。


 よく見ればその手は白い土のような、泥のようなもので手錠のように拘束されていた。


「こっ、このっ! その手をどけろっ!!」

「おいおい、記者さんは自分の立場がわかってないみたいだぜ」

 男は小馬鹿にするようにそう言った。


「そうね。ゴローさん、私とお話しましょうか」

 ひたり、と俺の喉元に何かが当てられた。

 着物女の手には、彼女の愛刀が握られている。

「……くっ」

 冷たく、そして鋭い刃が少しだけ俺の首の皮を削ぐ。

 着物女がその気になれば俺の首をはねることなど造作もないだろう。


 どうやら俺は拘束らしい拘束を受けていない。だというのに、目の前で遊姫が辱められているというのに何も出来ない。

 かつてないほど無力感を味わっていた。


「くそっ」

「気持ちは分かるけど落ち着いて、ゴローさん。何もユウキちゃんをとって食べようっていうんじゃないのよ」

 着物女は俺をなだめるようにそう言った。

「ゴローさんが大人しく私の質問に答えてくれるなら、この刀だってどけてあげるわよ?」

「そんなものより、遊姫に気安く触れてるあのバカ野郎をどうにかしてくれ」

 俺にバカ呼ばわりされた銀髪のバカ男は多少機嫌を悪くしたようだったが、すぐに優位な立場を利用して切り返す。


「本当に自分の立場が分かってねえんだな記者さんは。なんだったら今目の前でこの女の」

「分かったわゴローさん、あのおバカさんは取りあえず大人しくさせておくわ」

「っておいお前な」

 銀髪男と着物女の若干コントじみたやり取り。


「デリカシーのない男ね。今は私がゴローさんと話しているんだから、ユウキちゃんで遊ぶのはやめなさい」

「そらねぇだろ。せっかく手に入れた戦利品なんだからよ、楽しまなきゃやってられねえよ」

「ユウキちゃんを手に入れたのは私でしょうが。あなたは一般人のゴローさん殴って気絶させただけのくせに偉そうにしないでよ」

 気絶する寸前に視界に映った銀髪は、やはりこの男だったらしい。


「それに気絶している女の子に手を出すなんて男としてどうなのかしら?」

「男としてクズだな」

「おい、何便乗してんだそこの記者」

 俺もコントに参加しつつ銀髪を罵る。さっきまでの暗雲とした気分が少しは晴れる。


「そういうわけだから、ユウキちゃんの心配はもういいでしょう? これ以上のワガママは受け付けないわよ」

 強調される俺の喉元の刃。

 着物女の凄みもいくらか増して、俺の退路は完全に断たれる。


「……質問っていうのは何だ」

「ユウキちゃんのことよ」

 着物女ははっきりと告げた。

「ユウキちゃんは一体何者なの?」

「何者って、そんなこと俺に聞かれたって分かるか」

 抽象的な表現に本気で答えかねると、着物女は質問を変えてきた。


「だったら質問を変えるわ。ユウキちゃんは、どうやってあの超人的な強さを身につけたの?」

「遊姫の、強さの秘密?」


 俺は言い淀んだ。

 確かに誰もが気になることであろう。遊姫が何故あんなにも強いのか。

 身体能力だけ取ってみても並みのスポーツ選手は軽く凌駕している。もはや素人の俺にすら明白だった。

 そんなびっくり人間、超人と呼ばれてもおかしくない遊姫の体の秘密。


「俺は……知らない」

「あら」

 俺はそう答えるしかなかった。

「ゴローさん、こんなことを言うのもあれなのだけれど、こんなところで嘘をついたり隠したりしてもいいことないわよ?」

「悪い……本当に分からないんだ」


 俺は何も知らない。


 遊姫の傷のことも、過去も何もかもほとんど。


「おいおい記者さんよ、あんたコイツの彼氏なんだろ?」

「……勘違いするなよ。俺はそんなんじゃない」

 そんないい関係にはまだ程遠い。


 遊姫があのパーティー会場で着物女に対して『覚悟はある』と言ったとき感じた寂しさの訳が、ようやく分かった。


 やはり俺は、遊姫のことをまだ知らない。


 遊姫は自分のことを話したがらないが、それは結局、俺のことを信頼していないということではないだろうか。

 近くにいるのに、その心の内が分からない寂しさ。

 想いを寄せても返ってこない虚しさ。

 俺が感じていたのはそういう類のものだったのだ。


「ついこの間、フラれたばかりだしな」

 自虐気味に囁いた言葉は、自分で自分の胸をえぐるための言葉だったのかもしれない。

「……そう」

 着物女は俺の喉元に当てていた刀をすっと離した。


「ゴローさんに聞いて分からないとなると、ユウキちゃんに直接聞くしかなさそうね」

「結局そうなるのかよ。だったら最初から女のほうだけさらってくりゃよかったじゃねえか」

「あら、ユウキちゃんとっても頑固よ。ゴローさんをダシにしないと口を開かないわ」

「心配いらねえよ。女の口の開かせ方ならよーく知ってるからな」

 銀髪の男は先程から俺を挑発しているかのような言葉を並べている。

 この男が無意識に言っているのだとしても、俺の頭には確実に血がのぼりつつあった。


「何だったら今から……」

「残念だけど、またお預けみたいね」

 ヘリがいつの間にか高度を落としているのに気がついた。

 恐らく、目的地に着いたのだ。


「ったく、そりゃねえぜ」

 銀髪の男は悪態をつく。

「時間はあるのだから構わないでしょう」

「まあいいか。こんなところでするよりマシか」

 ヘリはそのまま着陸し、ドアが開かれると冷たく、そして独特の匂いのする空気が俺の肌に触れた。


「……海?」

 ヘリが着陸したところからは夜の海が見えた。

 月の光が明るく照らす夜空と対照的に、光を全て飲み込んでしまいそうな暗く広大な海が、地平線の果てまで広がっている。


「それじゃあついてきてもらうわよ」

 着物女は再び刀を抜いてそれを俺の首に押し当てる。

「そんなことしなくても、大人しくしてるさ」

 悔しいが、今こいつらに逆らってもどうにもならないだろう。

「私はユウキちゃんに言ったの」

 その言葉に、俺もそして銀髪の男もはっとして遊姫を見た。


「……バレてたのかよ」

 言葉通り遊姫は既に意識を取り戻していた。

 少しだけ辛そうな顔をしているのは、怪我した場所が痛むからだろうか。


「なんだお前、いつから起きてたんだ?」

「お前に胸を触られるあたりからだよ」

 遊姫は殊更(ことさら)不機嫌そうに言葉を返す。

 それはそうだ、あんなことされれば。


「へへ、じゃああれか? ずっと知らないふりして我慢してたってワケだ」

 芝居がかった下品な口調で銀髪は遊姫を煽る。

 遊姫の顔を横から覗き込むように肩を抱いて。

「それともそういうのが好みだったか? ひょっとして感じ」

 銀髪の言葉を遮ったのは遊姫の肘打ちだった。腹にドスンと綺麗に決まって銀髪が(もだ)える。

 心の中でざまあみろと呟く。


「あなたも懲りないわね。ユウキちゃんにちょっかい出したいのは分かるけど時と場所をもう少し考えたら?」

 特に味方のフォローもしない着物女。

「いや、気の強い女は嫌いじゃねえ」

 銀髪は遊姫の攻撃に対して一瞬苦しむ素振りは見せたものの、もう平気なのか相変わらずの減らず口を叩く。

 言っていることは負け惜しみなのだが。


「誰だか知らねえけど、気安くあたしに触んなヘンタイ」

「おいおい、お前も立場ってやつが分かってない口か?」


 ドスン、と鈍い音が響いた。


「かふっ」

「口の利き方には気をつけろよ」

 遊姫の口からは乾いた声が漏れる。

 銀髪の拳は深々と遊姫の腹に突き刺さっていた。


「遊姫っ!」

「まあ、これからじっくりとその『立場』ってやつを教えてやるんだがな」

 銀髪が得意げにそう言うのに対し、遊姫は歯を食いしばってぐっと睨みつける。恐らくそれが今の遊姫に出来る精一杯の抵抗なのだろう。


「それとも、『傷モノ』のお前にはこの程度じゃお仕置きにならねえか?」


 一瞬、銀髪が何を言っているのか理解が追いつかなかった。

 追いついた途端、今まで抑えていた沸点はあっさりと超えてしまう。


「こ、このっ、変態銀髪っ!」

 あらん限りの声で叫んだ。

「ふざけるのもいい加減にしろよっ! それ以上口にしてみろ、タダじゃおかねえっ!」

「ゴローさん……」

 着物女の刀が首に当てられていることすら忘れて俺は銀髪にくってかかった。

 着物女が腕を掴んで止めたせいで殴りかかることは出来なかったが。


「ああ、止めなくていいぜ。男ってのはそういうもんなんだよ」

 着物女にそう話しかけた後、銀髪は俺に近づく。


「だから少し寝てろよ」

 パーティー会場で受けた衝撃と同じものが、再び腹部を襲った。


 あっさりと意識を手放していく俺の耳に、遊姫の叫び声が響いた気がした。



――



「ここに到着してから、随分とかかったな」

 私は彼らを一通り眺めてから続ける。

「ひと悶着あったのか」

「まあな。そっちの記者さんといい、えーっと、姫山遊姫だったか? この女も頑固でな」


 二人はそれぞれ気絶したスーツの男とボロボロのドレスを纏った少女を連れていた。


 それぞれ峰岸悟郎、姫山遊姫だろう。姫山遊姫の方は今しがたまで暴行を受けていたのだろう、息も荒く額には汗も滲んでいる。

 口の端から漏れる血が痛々しい。


「あなたの先導の仕方が下手なだけでしょ。私がユウキちゃんを連れてくれば良かったわ」

「おいおい、俺はそっちの記者さんになんか興味はないぜ」

 軽口を交わす二人をよそに、私は例の少女をじっと見つめる。


 顔には焦燥感が見て取れる。

 この状況に対して危機を覚えているのだろう。人質に加え自分は拘束され、相手は頭数だけで見れば三人。

 武器も取り上げられて絶体絶命なはずだ。


 だがその瞳は、決して諦めているようには見えなかった。


「姫山遊姫、君には訳あってここまで来てもらった」

 鋭い目で、焦りはあっても決してひるむことなく見つめ返してくる。

 意志のこもった力強い視線。


「君の強さの秘密を知りたい」

「そんなものの為に、ゴローまで巻き込んだのかよ」

 静かな怒気。

 この少女は自分の身のことより先に、彼を巻き込んだことに怒りを抱いていた。

 彼女は一度この男を振ったということだが、それでも大切な人間には違いないのか。


「私にとっては重要なことだ。素直に話してくれれば悪いようにはしない。話さないようなら、その時は対応を改めさせてもらうが」

 逃げ道を示しつつ脅しをかける。

 この状況では万に一つも勝ち目はないのだ。諦めないつもりなら妥協点を探してやれば乗ってくるはず。


「お前らに話すことなんてなんもねえよ」

 だが意外なことに、この提案をあっさりと彼女は突っぱねた。

 今の立場を理解しているなら、決して賢い選択ではないはずだが。


「……ならばここは専門家に任せるとしよう」

 私はモニターに向かって‘call’のサインを送る。すぐに目的の人物の部屋と回線が繋がる。

「博士、仕事をお願いしたい」

『ああ、例の娘だろう。準備は出来ているから連れてくるがいい』

 音声だけがこちらに伝わる。

 秘密主義の博士は部屋にカメラを入れようとしなかったためだ。尤も、博士の仕事を考えれば、公開するべき部屋でもないのだが。


「じゃあ俺もお楽しみに混ぜてもらうとするかな」

「あなたはお呼びじゃないでしょう。しばらく待ってなさいよ」

 その一言で、銀髪の彼の纏う雰囲気が僅かに変わった。


「ああ? さっきからどういうつもりだよ、これ以上邪魔しようってんなら……」

 二人のあいだに剣呑な空気が流れる。

 内部分裂は避けたい所だが、そうなればそれはそれで私は止めないつもりであった。


「あなたがいると話がややこしくなるわ。私もユウキちゃんとゴローさんに聞きたいことがあるから、三十分後に来ればいいわ」

「随分とこいつをかばうじゃねえか。言っとくがこいつはあの博士に預けられるって時点で無事じゃすまねえんだぜ」

「そんなことは知っているわ。あなたたちの趣味を邪魔するつもりはないもの」


 二人とも戦闘の実力に関しては相当なもののはずだ。

 どちらも一方的に強気に出ることは出来ない。

 彼女の方は恐らくそれを踏まえたうえで妥協点を挙げたのだろう。


 彼女の狙いは何なのか。


「まあいいぜ。三十分後にはお前がどう言おうと始めさせてもらうからな」

 彼女は姫山遊姫と峰岸悟郎を連れてこのメインルームを後にした。

「あいつ、どういうつもりなんだ?」

 先程までのちゃらけた態度を一変し、この男は何か逡巡するかのように腕を組んだ。

「さあな。彼女の行動原理は最も把握しづらい所だからな」


 彼女は自らの行動原理を、『娯楽』と称していた。


 個人の趣向が大きく関わるそれを、他人が予想、定義することは難しい。


「なあ、裏切り者はどうしたっていいよな?」

 銀髪の彼は顔を嬉しそうに歪める。

 この展開も彼にとっては好ましいことらしい。

「構わないさ。内部分裂は避けたいところだが、私はあくまでそれを『監視』するだけだ」

「ご理解いただけて助かるぜ」

 彼女とて彼に匹敵する使い手のはずだが、それでも勝てる見込みがあるのか。


「じゃあ、博士の部屋の様子を観察させてもらおうか」

「聞いていないのか。あの部屋にはカメラはない」

「隠しカメラくらい用意してるんだろ?」

 彼は自信満々にそう聞いてくるが、何を根拠にそんなものがあると思ったのか。


「無いものはない。あそこに出入りしていた君なら知っていると思っていたが」

「……おいおい、マジで言ってんのかよ」

 彼は信じられないという風に顔をしかめる。

 モニターに向き直って答えを仰いだようだが、そこにも‘Nothing’の文字が映るだけ。


「あんたらも随分のんきなことで」

 彼はそう言って踵を返し部屋をあとにしようとした。

「ついでだから確認しておくけどよ。姫山遊姫のほうは聞き出すこと聞き出したらもうどうしたって構わねえんだろ?」

「ああ、君の好きにして構わない。壊すにしろ弄ぶにしろどちらでも問題ない」

 銀髪の彼は機嫌よく部屋をあとにした。

「さて」

 私は一人モニターに向かってつぶやく。当然独り言ではなく声を聞かせる相手はいる。

「姫山遊姫に、一体何を求めているというのだ君は」



――



 あたしは乱暴に用意されていた椅子に座らされていた。

 手の白い粘土みたいなやつがとっぱらわれて、代わりに金属のがっちりした鉄の輪で両手両足を椅子に固定させられる。


「さーて、君に残された道はたった二つだ」

 機嫌の良さそうな白衣のオヤジがニタニタしながらあたしにそう話しかけてくる。

「大人しく情報を吐くか、ここで死ぬまで体と心を壊されていくか」


 部屋には気絶したゴローも運ばれている。奇妙なベッドに寝かせられているが別に何かされているわけじゃあない。


 その脇には私の剣と、あの着物女も一緒だ。


「まずはどっちを選ぶ?」


 大ピンチだった。

 さっきのヘンタイ銀髪もここに来ることを考えればそろそろ逆転しなければ本当にマズイ。


「なあ着物女」

「あら、何かしらユウキちゃん」

 着物女はどういうわけなのか、さっきはあたしとゴローをかばってくれたように見えた。


 それに賭けるしかなかった。


「手を組まないか」

「あらあら、魅力的な提案じゃない」

 着物女はふふふと笑っている。

「手を組む、つまりギブ&テイクよね? それはお互いに何か差し出すものがあるときに成り立つ関係よ」

 着物女はゴローに近づいて、ベッドに腰を下ろす。


「私はユウキちゃんを助けることが出来るとして、ユウキちゃんは私に何をしてくれるの?」

 そしてしなしなとした動きでゴローに手を伸ばす。

 胸のあたりを下からなぞるようになでる。

 その仕草はけっこう色っぽかった。


「ゴローさんを私に譲ってくれるとか?」

「……ゴローはあたしのもんじゃねえ」

 正直、ゴローはあたしのせいでこんなことに巻き込まれてしまったのだ。

 それなのにゴローの身をどうこうなんて口が裂けても言えない。


「着物女、あのヘンタイ銀髪はあれで丸腰か?」

「そうよ。いつもの武器らしきものもつけてなかったし」

「……そう思ってるなら、お前あいつに負けるぜ」


 着物女は私の言葉が意外だったのだろう。

 ニコニコしていた顔から笑顔が引っ込んだ。


「どういうことかしら?」

「教えてやるよ。その代わり……分かるだろ?」


 着物女の視線があたしを射抜く。


 着物女の判断が、全てのカギを握っていた。


連続投稿三日目。今週も火曜日まで連続で投稿する予定ですので、お付き合いください。


感想、意見はいつでもお待ちしていますので、よろしくお願いします。

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