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第二話

 高い音が聞こえて、それがメロディーになっているのだとしばらくしてから気がついた。

 『ありがとう』

 またあの女性だった。

 彼女の手の中にはオルゴール――メロディーはそこから流れてきているようだ。

 『うれしいわ……私がこの曲が好きって覚えていてくれたのね』

 『              』

 『本当に嬉しい』


 まただ、また、言葉が空白になっている。一体彼女は誰と会話をしているのだろう?

 そして、映像はまた消えてしまう。

 


 「あのオルゴール」

 部屋の棚には映像に出てきたオルゴールがあった。

 多分鍵はあの中に入っているだろう。

 「凄い!順調じゃないか」

 サキチはニコニコとまるで自分の事のように嬉しそうに笑っている。

 「あんたの見るリアルな夢ってどんなの?」

 ふとそんな疑問が浮かび上がりウツロはサキチにそう問いかけてみる。

 「現実と寸分変わらない。痛みも味も匂いも色もある。まるでそこが本当に自分の世界なんじゃないかって思えるぐらいリアルだよ」

 サキチは言いなが『「ねじまき』を手の平から取り出した。ブリキのおもちゃに着いているような、時計の螺子を巻くようなやつだ。

 「そんなリアルな夢見てる割に、あんたはなんだか夢みたいだな」

 思った事をそのまま言ってしまうのは自分の悪い癖だとウツロ自身も自覚していた。口に出してからずいぶん失礼な事を言ってしまったと少し後悔する。

 「そうだね。ここは夢の中だしそう思うのかも」

 けれどサキチは気に留める風もなくそう言ってウツロの言葉を聞き流した。

 (そうか、夢の中だから)

 だから、サキチに『生物』っぽさを感じないのかとウツロは彼の言葉に納得した。

 会った時からサキチにはずっと違和感を覚えていたのだ。

 なんだか『生きてる人間』のような感じがしない。まるでデータのような無機質な感じがする。けれどサキチの言うようにここが夢の中だからと言われたら納得もできる。

 そもそも、システムによって夢の中に潜入してるのだから多少無機質な感じがして当たり前なのかもしれない。

 渡された螺子をオルゴールの裏側の穴に入れるて回す。すると箱の蓋がぱかりと空いて先ほどの映像で聞いたメロディが流れだしてきた。

 そしてオルゴールの中には黒い鍵――その鍵で再び匣を開ける。

 「じゃあ、俺もあんたにとっては夢みたいに感じるんだろうな」

 きっと、この名乗っている名前の通り自分も虚ろな存在に感じられているのだろう。仕方ない。だってこれは夢だし、現実ではないのだから

 「いや――」

 けれどサキチは首を横に振る。

 (え?)

 瞬間に映像が広がって、サキチの言葉の続きは聞く事ができなかったけれど。



 ミャー…… ミャー…… ミャー……

 鳴き声が聞こえる。

 (猫だ)

 そうこれは子猫の鳴き声だった。

 『よしよし、もう大丈夫』

 またあの女性が現れて白い子猫を抱き上げ微笑んでいる。

 子猫はまだ本当に小さい、片手に乗ってしまいそうなぐらいで毛がふわふわしていて鳴き声からようやく猫と分かるけれど大きな鼠と言われたってウツロは信じてしまうと思う。

 『     』

 ――また言葉は聞こえない。

 『ねぇ、飼ってもいいでしょ?可哀想だわ』

 猫は捨て猫なのだろうか、そう言えば彼女の足元には薄汚いダンボールの箱があった。

 『        』

 『大丈夫よ!それに案外みんなこっそり動物飼ったりしてるのよ?三階の人が犬の散歩しているの私見たもの』

 彼女の言葉から察するに聞こえない言葉の内容は子猫を飼う事に対してのものだろう。おそらく連れて帰るだろう場所がペット不可なのだ。

 『          』

 『ありがとう!あなたって、いつも私の事を一番に考えてくれる!だから――』


 



 ――ォ!


 「ウツロ!」

 大きな声で名前を呼ばれウツロは我に返る。

 「よかった……」

 目の前には明らかに安堵した表情のサキチの姿。

 「ウツロ”見過ぎ”は駄目だ」

 サキチは険しい表情をしてそうウツロに言った。

 「相手の意識に侵食し過ぎて自分と相手の区別がつかなくなってしまうからね。ヒントを得たら速やかに引き返してこないと」

 まるで子供を諭すようにサキチは言うけどさっきまでウツロは何の意識もせずに映像を見終える事が出来ていたのだ。

 別に自分の意思で見続けていたわけじゃない。

 「それで、次はどこか分かった?」

 「あっ……」

 確か映像に出てきたのは白い子猫と薄汚れたダンボール――…だがそんなもこの部屋にはない。

 「部屋の中を少し探してみよう」

 サキチに言われてウツロは引出をあけてみたりソファーの下を覗き込んでみたりしてみた。

 しかし、それらしいものは見つからない。

 「あんたも手伝ってよ!」

 さっきからサキチはただ立って見ているだけなのだ。

 ウツロはその様子にイラついて思わずそんな言葉をぶつけてしまう。

 「最初に言っただろう?俺は触れないんだ。夢が混ざってしまうから」

 確かに最初にそんな事を聞いた。

 でも、しかし――

 「見るぐらいいいだろ!見て回って、妖しいものがあったら言ってくれたら俺が」

 「見る事も”触る”事と変わらない。俺が見たものがこの夢に俺の夢として混ざってしまうから、そうしたら鍵を探せなくなってしまうよ」

 サキチは困ったように肩をすくめてみせた。

 「なんだそれ、まるで今は何も”見て”いないみたいに」

 「見ていない。それどころか聞いてもいない」

 あまりに真剣な顔をして、馬鹿らしい事をサキチが言うものだからウツロは思わず言葉を飲み込んだ。

 「何、言ってんだ――さっきからあんた、俺と会話してるし、最初に缶詰妖しいって言ったのもあんただし」

 「感覚だけ、感覚だけで君とこうして会話してる。今、俺事態はずっと真っ黒でひたすら冷たい場所にいるから」

 サキチの言っている事がウツロは半分も理解できなかった。

 サキチの目はちゃんと開いているし、自分が話しかけたら答える。直接触れる事はしていないが、渡されるアイテムはちゃんと触れるしそもそもそれはサキチが出してくれなければウツロは手にする事ができない。

 サキチは今、ちゃんとここに一緒に居るようにウツロには見えているけれどサキチが違うと言っているのだろうか。

 分からない。

 よく分からないけど

 「なんかそれ、すごく寂しい場所じゃない?」

 そう言ったウツロにサキチは少し悲しそうに微笑んだ。

  

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