表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はステ振りを間違えた  作者: ごぼふ
出会い編
7/38

少年とメインヒロイン

「痛ぇよ! なんだよあれ!?」


 で、ばっちり決まったのを確認してから、俺は悪魔に叫んだ。


「失礼しました。もう少し早く使いたかったのですが、人間の魂を削り即移植するソウルキャッチアンドリースは、契約者に危害が及んだときのみ使用できる奥義なのです」


 悪魔はそんな俺の抗議を厳粛に受け止め……ると見せかけてまるで聞いていないことを説明しだした。


「そういう事じゃねぇよ! 痛い! 痛かったの! ほら、血が出てるだろ!?」


 つむじを拭って俺が再度抗議するが、奴はまるで聞いていない。

 同じ痛みを味あわせてやろうかと俺がスコップを振りかぶった時である。


「おごごごご」


 またしても胸の辺りから何かがせりあがってくる感触。

 顎が内側から勝手に開かれる。


「おげろろろろろろ」


 そうして限界まで開かれた俺の口から、ソフトボール大の玉が、にゅるりと這い出てきた。


「出てきましたか。さすがにレベル二十五ともなると大きいですね」


 のほほんと悪魔が解説する。

 俺はといえば、う……げれげれげれ。

 ちょっと描写を差し控えさせていただいてから、落ち着いたところで事の推移を確認する。

 俺の口から出ていったおっさんの魂だが、中々持ち主の下に帰ろうとしない。

 しばらくすると意を決して近づこうとするのだが、まるでおっさんの周りにバリアが張られているかのようにポヨンと弾かれてしまうのだ。


「ううむ、ヒラク様に否定されたことによって、彼の体がスコップ術の魂を受け入れられなくなってしまったようです」


 どういうことかと悪魔を見ると、奴は顎に手を当ててううむと唸りつつそう言った。

 ただし目元はなんとなく笑って見える。


「俺のせいだというのか」


 その言葉に、俺も流石に悪い事をした気分になった。

 正直適当こいただけなのにこの惨状は、ちと申し訳ない。

 このおっさんは脅迫犯だし、俺も殺されかけたのだから同情の余地はまるでないのだけれど、さすがに魂がもげたままというのは恐ろしい。

 いやそもそもこれをやったのは隣にいる悪魔のような悪魔なので俺が責任を感じる必要もまったくないはずなのだが……。

 俺が複雑な気分でいると、件の悪魔がえんま帳をぽちぽちと操作して、スコップ魂の前にかざした。


「仕方がありませんね。しばらくは預かっておきましょう。ヒラク様の護身のためにも」


 すると惑っていたおっさんの魂が、閻魔帳のほうをくるりと向く。

 そうして奴は、おそらく嬉しそうに体を揺すると閻魔帳の中へと自ら入っていった。

 悪魔が確認のためか画面を見るので俺も覗き込むと、先ほどのスコップ魂は確かに画面の中に入っており、既に入っている魂たちは、迷惑そうに端へと追いやられていた。

 ……住み心地が良いのか悪いのか判別がつかない。が、どうやらスコップ魂は悪魔の手に預けられたようである。


「だが、それ使うにはスコップ持ってなきゃいかんのだろ?」


 相当汎用性の低いスキルである。用務員のおっさんならともかく、学生服来た高校生がスコップ担いでたらかなりの不審人物だ。


「持っていってくれ……今の俺にはスコップを振るう資格はねぇ……」



「いや、そういう問題でなくて」


 俺の悪魔への問いかけをどう解釈したのか、おっさんがそんなことを言い出す。こんなもんもらってもしょうがないんだけどなぁ。


「いただいていきましょうヒラク様。彼を倒した貴方には、スコップ魂を受け継ぐ義務がある」



「そんな義務ないわい。ていうかこれ備品ではないのか?」



「私物だ……」


 俺が不安に思って呟くと、おっさんが膝を折ったまま答えた。


「良かったですね。ネコババにならなくて」



「お前、その魂ネコババする気じゃなかろうな?」



「そうしたいのは山々ですが、契約者の魂以外は頂けないようになっておりますので」


 ……そうはしたいんかい。

 まぁ、こんなことやり放題なら、こいつもこんな回りくどい手段を採らなくて済むだろうしな。

 悪魔と神様談合しているというくだりでどうしても理不尽なものを感じてしまう。だが、一応は恩恵を受けている身……いや、恩恵を受けられたら良いなと思っている身なので、非難するのは美味しい目にありつけないと分かってからにしよう。

 きっと世の中の腐敗が中々正されないのは、こういった事情があるせいなのだろうな。


「それはともかく。これで事件は解決です。さぁヒラク様」


 それはともかく。この魔法の言葉で、お互いに都合の悪い情報は流される。

 しかし省みてはいけない。己のエゴを直視しし続けるだけでも、他の物事が見えなくなってしまうのだから。

 それはともかく、俺は本来の目的に到達する為の鍵を手に入れたのだ。


「あぁ、愛しのお姉様に会いに行こう! ヒャッホー!」



 ◇◆◇◆◇



「というわけで、やってきました西暮邸」


「べんべん」


 一時間後。悪魔の解説どおり俺達は西暮の家へとやってきた。俺はスコップを担いだままである。

 しかしその外観を見、俺は若干気後れしていた。


「でかいな」



「大きいですね」


 まず門がでかい。

 ナントカ寺かお前はってほどの、トラックでも楽々通れそうな木製の両開きの扉が俺を威圧している。

 しかし他の進入口はと言えば、城壁と許容するにふさわしい高い壁に囲まれており進入は不可能に思えた。

 この正門にたどり着くまでぐるっと回る羽目になって一苦労だったぞまったく。

 しかしそんな時代錯誤な門構えだが、きちんとインターホンはついている。

 もちろん躊躇いはしたが、これもバスト100の為だと思い、俺はそれを彼女の胸だと言い聞かせて押した。

 ぴんぽーん。と、金持ちの家であっても個性のない音が鳴る。

 こういうところに拘らないのはきっと成金に違いない。

 俺が金持ちになったら有名女優の声を使って、ボタンを押すたび「あっは~ん」という音声を流させるのだ。ピンポンダッシュが心配だが、有名税というやつだろう。

 俺とお姉様の恋路次第では、この家の玄関から色っぽい声が響くようになるかもしれない。

 そんな妄想をしていると、いきなり門が開かれた。


「アンタか。どうしたんだ?」


 その中から、恐ろしい顔の西暮が現れ、それに備えていなかった俺は体を跳ねさせた。

 が、やつは別に俺を殺したいとか埋めて犯したいとか考えているわけではなく、普段通りでこの表情らしい。

 一歩引いた俺を、不思議そうに見ている。


「いや、犯人分かって事件も解決したから報告に来た」


「あぁ!?」


「ひっ!」


「あ、すまん。え、解決ってどういうことだ?」


 西暮が恐ろしい顔で睨んでくるので、俺は思わず悲鳴を上げた。

 だが、奴は別に俺を脅そうとか、固めてドボンして犯そうとかそういうことを考えた訳ではないらしい。

 まぁ、あれから二時間も経ってないのに解決と言われたら、確かに不思議に思うだろう。不思議に思ってその表情はどうかと思うが。

 俺は間違っても「自作自演でした!」なんて思われないように丁寧に経緯を説明した。

「えーっと……要するに用務員のおっさんが犯人で、そいつは改心したから問題はない……でいいのか?」


 が、今の俺ではイマイチうまく説明することが出来ず、何か西暮を逆に混乱させる結果となった。いや、そもそも花壇を守る凄腕スコッパーというのが話に登場する時点で、説得力のある説明はあきらめた方がいい気がするのだが。

 あれ、もしかしてヤバい? などと俺が冷や汗を流していると。

 ガシッ。と、唐突に西暮が俺の手を握ってきた。


「とにかく、事件は解決なんだな! ありがとう!」


 そうして奴は、俺の手を上下にぶんぶん振る。


「や、やめろ! 男と握手する趣味は無い」


 男に感謝されてもまるで嬉しくない。俺は慌ててそれを振りほどいた。

 西暮は振り払われた手をぼんやりと見る。

 つい本能に従って行動してしまったが、もしかしてまずかったか?


「アンタって、よく分からない奴だな」


 そんな風に俺が心配していると、そんな事を言って西暮は笑った。悪魔的な笑みだった。

 ふん、ビビらないぞ。こっちはさっきからずっと、本物の悪魔が見えてるんだ。

 などと、何やら微笑んでいる悪魔をにらみつける俺。


「ところで、お姉様は?」


「え、姉さん?」


 唐突に名前が出たように思ったのだろう。西暮は不思議そうな顔をする。

 だが俺は一貫してお前の姉狙いなのだ。とっとと嫁に寄越せ。

 などと俺が口に出しかけたその時である。


「……長春」


 などと女性の声が聞こえた。

 振り向く俺。するとそこには……ええと、とりあえず女性が立っていた。

 黒く艶やかな髪。なのだがそれを顔の前にまでばっさりと被せており、手入れをしているのかしていないのか判別がつかない。一瞬一昔前のホラー映画を彷彿とさせるが、そこから覗く形の良い鼻と肉感的な唇が彼女の美しさを語っている。

 そして胸。大きくはあるがメロンのようにまるまるとしている。

 おそらく全体を収めるために仕方なく選んだような機能性重視のブラジャーを着けているためだろう。

 それでもその膨らみは、ブレザー越しから圧倒的な存在感で俺に訴えかけていた。

 来るなら来いと。

 その導きに従い、気づけば俺は彼女の胸……いや、ぎりぎりで手を取っていた。


「結婚してください!」


 そして、その手をぎゅっと握り、全身全霊の告白をしていた。

 一瞬の沈黙。世界が凍りついた。

 俺に投げ捨てられたスコップが、がらんがらんと音を立てる。

 数秒してから自らの行為に気づくが、これが間違いだったとは一片も思わない。


「これが、レベル三十の行動力ですか」


 悪魔が呟く。だがしかしこれほどまでに一瞬で嫁にしたいと思った方は、俺の人生でも初めてだった。

 確かに先に見せられた映像とは大分違う。しかし、恋の痛みに胸がきゅんと疼いてしまったのだ。


 だが、俺の一世一代の告白に対して、彼女は何の反応も示さない。髪の間から覗く湖面のような瞳で俺を見つめるのみだ。

 あ、でもやっぱりその瞳も美しい。

 俺が見蕩れている隙に、彼女はまるで実体のない幽霊のように、にぎにぎと手の感触を堪能していた俺の手をすりぬけた。


「いや」


 そして素っ気無いにも程がある応答をしていただいた。


「そう言わず」


 しかしその程度でくじける俺ではない。俺はすり抜けられた手を再び掴むと、彼女にプロポーズを再開した。


「いや」


 だが彼女はそんな俺の手をするりと抜け。

 これではどうどう巡りである。分かっていながら、俺は再び彼女の手を握った。


「あー、姉さん」


 そんな惨状を見かねてなのか、西暮弟が姉に呼びかける。


「……何?」


 俺の手をすり抜けながら、お姉さまは弟に応える。


「こういう時はいつもやってたアレをすれば良いんじゃないかな?」


「アレ?」


 その手を掴みながら、俺が疑問符を出す。


「私に勝ったら付き合ってやる云々ってやつ」


「ぷっ」


 その台詞を聞いた途端、俺は噴出してしまった。

 何だその前時代的な台詞は。

 というか勝負ってなんだ。

 こういう人相の悪い奴は時たまこういう訳のわからないことを言う。

 などと考えながらももう奴の顔を見る気もしないので、姉上のほうに視線を移すと――。


「おぉ、おぉあぉ」


 震えていた。先ほどまでまるで柳の下の幽霊の爆乳版のような様子だったお姉さまが、ぶるぶると震えていた。

 乳も震えていた。

 口からはまるで水をかけられたジャミラのようなうめき声が漏れている。


「うがぁ!」


 うがぁ!っつった!


 そして彼女はうがぁと叫びながら、俺の手を力任せに振りほどこうとする。


 しかし俺も伊達に助平レベルが三十ある訳ではない。

 離すまいと力を込める。

 

 だが、先輩の力はそんなものを遥かに超えていた。


「うおお!」


 結果、俺の体はぶぅんと振り回され、軽い浮遊感の後道路へと尻から着地した。


「いたたた……」


 だが、それでも先輩の暴走は止まらない。彼女は門扉に頭をつけると、そのままガンガンと何度も頭を打ちつけ始めた。


「ね、姉さん! 俺が悪かったからやめて!」


「うがぁっ!」


 西暮弟が彼女にそれをやめさせようとするも、俺のようにうがぁと吹き飛ばされる。

 そうして奴は、どすんと俺の横に尻餅をついた。


「な、何が起きたのだ」


 まるで状況が分からない。俺は原因であろう西暮弟に尋ねる。


「姉さんは昔尊大系武道少女をやっていた過去を、すごく後悔してるんだ!」


 すると奴は、何やら突拍子もない単語を叫びつつ説明した。

 説明はされたが、それでもさっぱり事情は分からない。


 俺が頭を混乱させていると、やがて、彼女はその痛々しい振る舞いをやめた。


「勝負、しても良いけど……」


 そうして、呟く。

 同時に場違いな春風が吹いて、彼女の髪を揺らした。

 そこから、俺を見下ろす先輩の冷たい目がのぞく。


「怪我をしたくなかったら、関わらないで」


 冷たい瞳。だが、それ以上に美しい瞳、美しい貌である。

 長いまつげも厚い唇もすっと通った鼻筋も、全てが神の造った彫像のよう。

 おでこがちょっと赤くなっているさまが、また、愛嬌があった。

 彼女のレベルを見る為か、悪魔がぽちぽちとえんま帳を操作し始める。

 だが――。


「分かりました。お受けしましょう」


 それよりも早く、俺は彼女に答えていた。

 一目ぼれ。人生で……恐らく二回目の、彼女を初めて見たとき以来の一目ぼれであった。


「はぁ……」


 先輩が重々しい、この世の終わりのようなため息を吐く。

 だが、俺は引く気などない。

 こうして、俺のマリッジをかけたバトルが始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ