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俺はステ振りを間違えた  作者: ごぼふ
出会い編
4/38

少年とステータス

「木島京香。バスト七十七、ウェスト六十、ヒップ八十。数学が得意。レベルは十二」


 悪魔が次々と読み上げる数値を、俺は耳を澄ませて聞いていた。

 席は窓側の一番後ろ。主人公にのみ許された位置であり、けして友達が少ないから端に追いやられたわけではない。

 机の上には定規を置き、悪魔が席順に読み上げるバストのサイズを前に読み上げられた女子との差分だけ指で形作り、その大きさをよりリアルに味わう。

 俺も見るだけで女子のスリーサイズを凡そ把握する事はできるが、悪魔の保証つきである正確なデータというのは更にこの心を躍らせた。

 データには研究資料のように正確であるほうが価値ある物と、曖昧であるほうがワクワクするものがある。スリーサイズというものは研究資料であるから、当然前者である。


「ワタクシとしては乳の大きさよりスキルのほうに興味を示して欲しいのですが」


 悪魔が苦言を呈すが、そんな物に構ってはいられない。

 目線で次の女子を読み上げるように促す。

 ――羽が生えた背中丸出しサスペンダー男を伴って教室へと帰ってきた俺だったが、誰一人男を気には止めなかった。ついでに誰一人俺の心配をしてはくれなかった。だが、これはけしてその復讐などではない。

 あくまで学術的興味という奴だ。


「笠町あげは。バスト八十六。ウェスト五十七。ヒップ八十三。特技、水泳。レベル十三」


 ……って凄いな笠町。さすが水泳で鍛えられているだけはある。大きさ自体は把握していたが、実際に他人の口から聞くと妄想力エンジンのかかり方が違う。

 前に覗きに行った水泳部の練習でも、確かに一際輝きを放っていたものだ。

 ――しかし、皆なんだかんだで特技があるものだな。

 悪魔の計略に引っかかっているようで悔しいが、やはり自分を省みずにはいられない。 

 


「赤坂未夏。バスト七十五。ウェスト五十四。ヒップ七十六。お嫁さんレベル十」


「お嫁さん?」


 そんなことを思っていた俺だが、よく分からないスキルが挙げられ、つい声を上げてしまった。隣に座る中見沢(バスト六十六)が俺を床に落ちたガムを見るような目で見る


「この娘は嫁にしたい。もしくはお嫁にしたら毎日仕事もがんばっちゃうのになぁという条件に当てはまる女子レベルです」


 それに俺がちょっと興奮していると、悪魔がその「お嫁さんレベル」について語りだした。

 その嫁にしたいとかは誰基準で調べたんだ? 悪魔調べなら相当アレな娘なんじゃないかと件の女子を見る。

 しかし名前が挙げられた赤坂未夏はぽわぽわふんわりした、確かにクラスでも地味に人気の女子である。

 肉づきは多少薄いが、小さいお弁当を自分で作ったりしてきて、クラスではおかーさん呼ばわりする女子も多い。


「なるほど、納得はできる」


 隣の中見沢に不審がられないよう、顔を窓に向けて話す。

 やはり独り言をぶつぶつ言っているような感じは免れないが、あんなちびっちゃいぺたぺたにどう思われようが知ったことか。


 スケベレベルが高いなどと揶揄されるが、俺は凹凸には拘る人間なのだ。赤坂も嫌いではないがもう少しボリュームが欲しい。

 その前に呼ばれた笠町と比べると……オウ。

 しかし、方向性自体は悪くない気がするな。


「そのお嫁さんレベルとやら、校内では誰が一番高いんだ?」


 尋ねると、悪魔は端末をぽちぽちと操作し始めた。

 このタッチ閻魔帳とやらは、人間を映してそいつの能力を見る他、該当の能力で絞込み検索もできるらしい。

 あまり広い範囲から検索するとフリーズするとか、若干がっかりするような事も言っていたが。


「これですね。西暮長春」


「男じゃねーか!」


 悪魔が挙げた名前に、俺は思わず大きめの声でつっこみを入れてしまった。

 おかげで中見沢だけでなく、クラス中の何人かがこちらを見る。

 その腹いせに、俺は背後に立つ悪魔を見上げてむっと睨んだ。


「ヒラク様。余計危ないモノを見るような視線を投げかけられていますよ」


 言いながら、悪魔が俺に覆いかぶさる形で閻魔帳を俺の前に掲げる。


「うぎゃあああ!」


 閻魔帳に映ったモノに対して、俺は反射的に悲鳴を上げてしまった。

 周囲の冷たい視線が刺さり、俺のクラスでの地位はまた一つ下がった。


「お、お前……」


 それを浴びながら震える俺が声にならない抗議すると、悪魔はニコニコと微笑みながら小首を傾げた。


「失ってしまったものはどうしようもありません。未来に目を向けましょう」


 そうしていけしゃぁしゃぁと言う。

 こいつ、悪魔か。悪魔だ。

 周囲の視線もそうだが、よもや、あんな恐ろしいものを見せるだなんて。

 しかしこのままではいられない。俺は片手を上に挙げた。

 そんな事をしなくても注目を受けていたが、形式的にと言う奴である。


「せ、先生。先程僕は体調が悪くて保健室に居たんです。今も物凄く体調が悪くて平素の状態ではないんです。頭痛が痛くて体調が悪いんです。だから……」


「お、おう、そうだな我門。今日は早退すると良い」


 俺が必死で普段どおりではないことをアピールをすると、教師は若干引きながら早退を薦めてくれた。


「その訴えは逆効果だと思いますが」


 悪魔が少々可愛そうなものを見る目で俺を見る。周囲の生徒も大体同じような表情をしていた。

 隣に居る中見沢だけはいつも通りじゃないですか? みたいな表情をしている。

 この女、いつか俺好みの凸凹ボディーにした上で辱めちゃる。

 そう決意しながら、俺は目元をぬぐいつつ急いで荷物をまとめ、教室を飛び出した。




「その閻魔帳とやらの性能。疑わしくなった」


 思わぬ早下校をする羽目になった俺は、悪魔に対してうすうす感じていた疑惑を突きつけた。

 周囲から見れば一人で話す危ない奴だろうが、今は人通りの少ない校舎裏を通っている上に授業中なので、聞いている奴はいないだろう。


「酷いことをおっしゃりますね。何故です?」


 それに対して悪魔は飄々としている。俺の非難に傷ついた様子はない。


「俺の取り得がスケベ心だけというのも大概納得がいかんが、なんだあの恐ろしい男は。あれが校内一お嫁さんにしたい人間だと? 故障でなければお前ら悪魔は皆ホモかバイではないか」


 その態度が気に食わず、俺は自らの不満を一気にぶちまけた。


「恐ろしい男とは、この西暮長春さんのことでしょうか?」


「ええい見せるな! 男の顔! しかも怖い男の顔など何度も見たくはない!」


 悪魔が液晶画面を俺に向けてくる。俺はそれに対し全力で顔を背けた。

 あんな恐ろしいモノ、二度と見たくない!

 俺が背けた視界の先には花壇。そしてそこで、俺は出会ってしまった。

 先に言った、二度と見たくないと宣言した顔に。

 それは、眉の無い男だった。その瞳は小さく白目は青白く、不自然に釣り上げた頬からは吸血鬼のような牙が覗いている。

 あれも悪魔か? いや、悪魔の紹介によるとあれも人間のはずだ。

 何より恐ろしいのは、そんな男が軍手をつけ、シャベル片手に花壇の世話をしていることだった。

 いや、もしかしたら人を埋めようとしているのかもしれない。もしくは、あそこに咲いているチューリップに見える植物は、麻薬……いや、どんな人間をも喰らってしまう悪魔の食人植物かもしれない。


「俺は何も見てな……!」


「見たな」


 何にせよそれが見てはいけない光景であることは、俺にも本能で察することができた。

 全力で通り過ぎようとする俺が言い終える前に、男――西暮長春の姿が掻き消える。

 そして奴は、気付けば俺の肩を掴んでいた。

 馬鹿な。彼我の距離は二mは離れていたはず。そして俺達を隔てていた花壇には足跡一つついていない。

 ドアをすり抜けた悪魔と同じ――いや、こいつはワープ系能力を持った悪魔なのか!

 脳をバトルマンガのように素早く回転させながら逃げようと試みるが、その度に肩へとクローが食い込む。


「ま、待って! 殺さないで!」


「来い! いいから来い!」


 俺は恥も外聞もなく命乞いをする。むしろそれらと引き替えに誰か助けてくれと天に祈った。

 今助かるためなら悪魔とも契約する! ってもう契約してた助けて! と視線を向けると、奴はニコニコしながら事の推移を見守っている。


「この悪魔!」


「誰が悪魔だ!」


 思わず叫ぶと、俺の肩をつかんでいるほうの悪魔が恐ろしい声で反論した。

 違うんです。そっちのほうの悪魔に言ったんじゃないんです。

 死を覚悟する俺。だがしかし、その前に俺の肩をつかんでいるほうの悪魔が急に手を離し、地面に伏した。

 え、何? どんな処刑方法でくるの? と俺が戦々恐々としていると、

西暮は地面を振動させるような声で叫んだ。


「頼む! この事は内緒にしてくれ!」


「はい?」


 その姿勢が土下座という物によく似ていると気づいたのはしばらく経ってからだった。

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