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少年と空気

「さて、と」


 家から出た俺は、学生の本分である自由恋愛の義務を果たすため学校へと向かうことにした。


 この空気読みのスキルを使って原田を平伏させるという目的はあるが、その他にも女の子とイチャイチャしたいし、まずはこれの効能がどんなもんか見極めねばなるまい。


 そう思いながら俺が通学路を歩いていると。


「ヒラク兄~」


 頭の後ろに穴が開いてそこから雛鳥が鳴いているのではないかと思わせるような、ピーチクパーチクとした声が聞こえた。


 俺が耳をほぐしながら振り向くと、そこにいたのは俺のいとこで小学生の我聞夕であった。


 奴は両手に荷物を抱えながら、こちらへ向かって走ってくる。


「何だ、お前か」


「えへへ、おはよっ」


 声を聞いた時には大体察していたが、それでも夕の声帯を移植した絶世の美女が声をかけて来たのではないかと期待した俺にとって、それは残念な結果であった。


 しかし邪険な表情をした俺に対して、夕は何が嬉しいのかニコニコとしている。


 全くお気楽な奴だなどと俺が嘆息していると――。


 ぴんぴろりん。

 とおかしな音が鳴った。

 いつぞやのように悪魔のえんま帳かと思いそちらを見るが、悪魔はそれを取り出してすらいない。

 そもそも俺が向けた視線の意味が分からないようで、珍しくキョトンとしたアホ面を晒している。

 

「なんか、変な音が鳴ったんだけど」


 夕にちょっと待てと合図をして、俺は悪魔に囁きかける。

 すると悪魔は俺の質問に、顎に手を当て、少々考え込むような仕草を見せた。

 それから、はっと顔を上げると一つ頷いてから答える。


「おそらく雰囲気が一段階上昇した音ですね」


「え、これそういう方式なの!?」


 悪魔のあんまりな言葉に思わず大きな声を上げる俺。


「ひ、ヒラク兄?」


 すると再度、テレレンと、夕から別の音が鳴った。

 悪魔の言葉に従うなら、これは場の空気つまりは夕の俺に対する好感度が一段階下がった音だ。

 ……マジか。マジなのか。


「空気の読みかたというのは人それぞれです。ヒラク様の場合こうなるということでしょう」


「ううむ、我ながら随分とゲーム脳な」


 悪魔の解説に、俺はうなり声をあげた。


 仮想がこんなにも現実を浸食してきている。

 全ての事柄がヴァーチャルリアリティで済まされる時代が、すぐそこまで迫ってきているのかもしれない。


「ヒラク兄って最近、一人でひそひそ喋ってるよね」


 などと俺が夢想していると、気がつけば夕がこちらをじと目で睨んできていた。


 そして奴のじめっとした雰囲気に当てられるように、その背後の空気――そう空気が淀んでいく。

 それはその内黒色へと変色すると、なんと一文字が夕の頭と同じほどの大きさの書き文字へと形を変えていくではないか。


 その内容は「疑っています」だ。


「……なんだかなぁ」


 それを見て、俺は思わず呟いた。


 これも空気読みスキルの一環なのか。

 いや間違いなくそうだろう。そうだろうが、これで良いのか非常に不安になる。

 空気を読めると評判の人間は、こんなものが人の背後に見えているというのか。 

 それとも俺が空気を読むためには、もうこれぐらい分かりやすくなくてはダメだというどっかからのお達しなのだろうか。


「またぼぉっとしてるし」


 俺が何だか疲れた気分になっていると、返事が無いことをいぶかしんだ夕の視線がよりきつくなる。


 同時に奴の背後の文字が、一段と大きくなった。

 つまりより強く疑っているということなのだろう。


 やばい。別に悪魔のことを秘密にしろなどと言われている訳ではないが、正直に言えば間違いなく正気を疑われるのがやばい。


 ていうかなぜ俺がそんなことに頭を悩ませなければならんのだ。思いつつ、俺が夕の背後にある書き文字を睨んでいると、そこに「疑っています」以外の文字も浮かんでいるのに気づいた。


 「ちょっと心配」とか「お腹減った」とか「重い」とかである。

 心配は良い。お腹減ったも朝飯は食ってきたろうにとも思うがまぁいいとしよう。


 「重い」? 重いってなにが……と夕の姿を見返して、俺は奴が大きな荷物を抱えていることを思い出した。

 よくこいつが髪型を変えてきても気づかないなどという事案が発生するが、その類の出来事だ。


「おぉ、その荷物はどうしたんだ?」


「え? あぁ調理実習の材料」


 俺が尋ねると、夕は一瞬戸惑ったようだが、ぶぅっと頬を膨らませながら答えた。

 同時に、「疑っています」の文字が小さめになり、「荷物重い」の文字が大きくなる。


 非常に単純な奴だが、それが今はありがたい。


「一人分でその重量か。最近のお子さまはよく食べるな」


「違いますー。授業の一環で班のみんなで買い出しに行ったんだけど、ジャンケンで負けて家で預かることになっちゃっただけですー」


 そりゃ腹も減らしてくるなと思って俺が呟くと、夕は頬に入れた空気をぶふぅと吐き出しながらそう答えた。


 何時の世もジャンケンの強弱というのは、人間のヒラエルキーを大きく左右するものらしい。

 ジャンケンの魂があるならば、交換候補に入れても良いかもしれない。


 とはいえまぁそれは置いといて、この流れに乗れば先ほどの話を誤魔化せるだろう。


 俺の中の空気読みの魂が、そう告げていた。


「しょうがない。貸せ」


 仕方なく俺は、両手に荷物を抱えた夕に対して、手を差し伸べた。

 この場合のしょうがないは、夕が不憫だからという意味ではなく誤魔化すためにはしょうがないという意味である。


「え、いいの?」


 すると夕からまた「ピンピロリン」という音がした。

 空気が読める俺はその音の意味を察することが出来る。これは好感度が上がった音だ。


 できればこいつからではなく他の女子から聞きたかった音だが、この際しょうがない。


「俺のような見るから紳士が、女児に荷物を持たせたまま隣を歩いていたら、その辺のお姉さま方に申し訳がたたんからな」


 ただ持ってやるというのも癪なので、自分なりに納得できる理由も足しておく。


「え~」


 夕はあからさまにがっかりした顔をするが、先ほどの雰囲気降下音はしない。


「ま、ヒラク兄らしいけど」


 なんだか不本意な臭いはするが、納得していただけたらしい。

 言って、奴は俺に抱えていた荷物を寄越した。


「お、お!」


 意外にもその中はずっしりとしており、日々のトレーニングで鍛えていなければぎっくり腰になっていたであろう重量を誇っていた。


「だ、大丈夫ヒラク兄? やっぱり持とうか?」


 そんな俺の様子を見て、夕が慌てて申し出る。


「い、一度持った物をおめおめと返せるか! と、と」


 俺は何とかバランスを取ると、夕の提案をはねのけた。


「ふぅ……俺は将来世界中の女性を抱っこする男だ。この程度で潰れるか」


 そうして、荷物をきちんと持つことに成功した俺は通学路を通る不特定多数の女子に向け、決めゼリフを放った。


 紆余曲折はあったが、まぁおかげで「やっぱり怪しい」の字が夕の背後から消えたので良しとしよう。


「記念すべき第一号になってあげようか?」


「お前なんか十年前とっくに抱き上げたわい」


 ニヤっと笑いながらそんなことを提案してくる夕を、俺は一蹴した。

 こいつの抱っこなんぞ幼いときに美鶴さんの好感度を上げるためさんざん引き受けている。

 おかげで赤ん坊が好きというそのまま貼っておくと犯罪者のレッテルを貼られたがまぁおいておくとして。

 以来特に女子を抱っこした記憶もないので、十周年記念としてどこかに抱っこさせてくれる女子はいないかと探す毎日である。


「ところでヒラク兄」


 などと俺が考えていると、夕が俺の抱えている袋の底の辺りを見つつ呟いた。


「どうした?」


 袋の底でも破れているのかと手で探ってみたが、そのような綻びは感じられない。


 俺が諦めて問いかけると、夕はあっけらかんとした調子でこう言った。


「チャック開いてるよ」


「なぬ!?」


 その声に、通学路を歩いていた他の学生たちがこちらへと視線を向ける。

 そして俺の股間から真っ赤なパンティーが覗いているのを目にするや。


 テレレレン。テレレレン。テレレレン。


 と、まるでぼうけんのしょが消えたときのような連続した不吉音が、周囲から響いた。


 そして彼らは、ひそひそと言葉をかわしたりしつつ足早に去っていく。


「お、お前そういうのはこっそり言え! 空気の読めない奴だな!」


 こちらは両手が塞がっているのでおいそれとチャックを上げられない。

 しかし食べ物は大切にしなさいと美鶴さんからも言われているので荷物も降ろせない。


 そんな困った状況の中、俺は夕に抗議した。


「ヒラク兄にそんなこと言われたくないなぁ」


 だが、それに対して夕は不満顔である。まるで俺に八つ当たりでもされたかのような態度だ。


 バカお前、今の俺は魂を引き替えにしかけて世界でも有数の空気が読める男になって……たぶんなっているのだぞ。

 そう言いたいが、また疑われても困るのでそんなことは言えない。


「あっ」


 俺が煩悶していると、夕がふと声を上げた。

 そして奴は真剣な顔になると、指を立てて俺に提案をした。


「チャック上げてあげようか?」


 ぴろりん。顔は真面目くさっていても、軽妙な音が奴が上機嫌になったのを伝える。


「この色ボケ!」


「た、他意はないもーん」


 夕はそんな風に言い訳するが、空気が読める俺には奴の邪な考えが筒抜けなのである。


 俺は予定より早めに夕へと荷物を返すと、美鶴さんに説教してもらうことを誓いつつ奴と別れた。


「チャックが開いた様を見ても好感度を下げない女性というのは、希少なのではないでしょうか?」


「いらんわいそんな希少価値」


 その後、アホなことを呟く悪魔にそう返して、チャックを上げると学校へ向かったのだった。



◇◆◇◆◇



「おぅい原田」


 時は流れて放課後、俺はノースリーブ短パン姿の犯罪的な格好をした男に声をかけた。


 すなわちこれから陸上部の部活を始めようとしている原田にである。

 同じクラスなのに何故こんな時間を選んだかと言えば、夕とのやり取りで空気を読むという技能がかなり疲労するという事実に気づき、敢えて封印してきたからだ。

 

「お、ヒラク。いいところに来た」


 声をかけると、奴はニコニコと笑って俺に応える。

 ぴんぴこりん。


「よ、寄るなこのホモ野郎!」


 その音を聞いた途端、こちらに歩み寄ってくる原田へ、俺は全力で拒絶の姿勢を見せた。

 一応友達だと思っていたが、俺の尻を狙っているとなれば話は別である。


「自分から声かけたくせに何言ってんだよ。いいからこれ手伝ってくれ」


 しかし、空気の読めない原田は自らの恋心にも気づかない。

 そう言って奴は、両脇に抱えているハードルを少し持ち上げた。


「はぁ?」


「いや、部活前に片づけ頼まれたんだけど量が多いんだよ。お前が来てくれて助かった。お前のこと好きになりそう」


 意味が分からず疑問符を浮かべる俺に対し、原田は気持ち悪い言葉を混ぜつつ説明した。

 なるほど、めんどくさい雑用を押しつけられたところに俺が来たから、好感度が上がっただけか。

 とりあえず貞操の危機が回避され、ほっと息を吐く俺。


「お前に好かれても一切嬉しくない。よって手伝いもしない」


 それはそれとして、俺が手伝う理由など無い。

 先ほどびっくりさせられたから尚更だ。


「いいじゃないか。お前も陸上部だろー」


 テレレレン。と奴の好感度が下がる音がするが知ったことか。俺はお前となんてイベントを起こす気はないのだ。


「仮入部でしかもこの前追い出されただろうが! 女子の尻を見せない限り二度とこの部に戻るつもりはない!」


 というわけで俺は、原田の頼みをきっぱりと断った。


「お前がその要求をする限り、この部にお前の居場所はない」


 交渉の余地は残してやったのにそれも突っぱねるのだから、自業自得と言われてもしょうがないはずだ。


「ていうか可愛い後輩を助けようって気がお前には無いのかよ」


 心の内で俺が舌を出していると、原田がおかしな事を言い出した。

 はて、かわいい後輩とはどこぞや? などと俺が周囲を見回していると、原田は「ここだここ」などと言う。

 なんだ留年でもするのか。かわいそうだから今のうちに顔だけは覚えておいてやろうと俺が奴をよく見ると、その脇に薄ぼんやりとした陽炎がある。

 いや、違う。俺がよく目を凝らすと、そこにはおかっぱの少女が控えていた。

 スレンダーだが陸上部らしいスラっとした足をしたヤマトのナデシコである。

 おどおどとした瞳が俺にもサドレベルを発症させるのではないかと思わせるほどムクムクと来る。


 ぴろりん。


「ヒラク様。サドレベルが1上昇いたしました」


 というか発症した。


「こ、こんにちは」


 そんな俺に初体験をさせた少女が、俺にぺこりと頭を下げる。

 それに対し、俺は無言で悪魔に視線を送る。

 すると奴も無言で首を横に振った。

 ……あまりの存在感の無さに、こいつの眷属ではないのかと考えたが違うようだ。


「こんにちはお嬢さん。お茶でも如何でしょう」


 それを確認した俺は、少女に対して紳士的に手順を踏んだ告白をし、彼女の手を握ろうとした。


 が、彼女はさっと原田の後ろに隠れてしまう。


「……ところでこの子はどなた?」


 何か細い棒でもないと原田からは引っ剥がせないと判断した俺は、奴に問いかけた。


「練習でも何回か顔を合わせただろ。同じ陸上部員の朝霞だよ」


 すると原田は、心底あきれたような表情でそんなことを言い出す。

 名前を聞く前に手を握ろうとしたからか、俺と知り合いらしいからかは分からないが、前者なら男として当たり前の行動だし、後者ならば俺がこんなかわいい女子を覚えていないはずがない。


 つまり非難される謂われはまるでないはずなのである。


「朝露雫。気配消去レベル20を所持していますね。間違いなく陸上部員で、ヒラク様とも何度か面識がございます」


 首を捻る俺の背後で、悪魔が彼女のデータを読み上げる。

 あらやだ。普通にゲームで使えそうなステータスだわ。

 なるほど気配消去か。そのせいで俺はこんな美少女の存在を認知できなかったらしい。


「ちなみにスリーサイズは、バスト77ウェスト54ヒップ78ございます」


 うむ、スレンダー万歳。

 俺としてはそちらの方がずっと価値がある。

 だがしかし、やっぱり女の子の存在を俺が知覚できなかったというのは癪に触る。

 というか彼女に対して失礼である。

 そう思い、俺は彼女の全身をぺろぺろと眺めた。


「女子を舐めるように見るな。失礼だなお前は」


 原田は失礼な抗議をするわ彼女は恥ずかしがってより一層体を隠すがとりあえず気にしてはいられない。

 というか、俺は彼女をやっぱりどこかで見たことがあるのだ。

 どこかで……。

 俺は自らの脳を隅々まで探索した。

 

 そして――ポンと手を叩く。


「あぁ、ランニング中、よくブラ紐を直してる子ね」


「えぇ!? あ、はわ、ほわっ!?」


 俺が指摘すると、彼女は感動のためか奇妙な叫び声をあげた。

 とっさに肩に手が伸びたところを見ると、やはり当たっていたようだ。


 名前や顔は覚えていなかったが、彼女のあの仕草は俺の無意識にしっかりと刻まれていた。

 おそらく気配消去などというスキルを持っていたために、周囲の目を気にする必要が少なくかなり油断しながら直していたのだろう。

 大きくないのにズレることが多いというのは、やはりちょっと大きめのサイズをつけているせいなのだろうか。


「お前はなんていうか、モテないとか空気読めないとかそれ以前の問題が山積みだな」


 などと俺が学会にでも発表できそうな高尚な考察をしていると、原田が苦い顔でそう呟いた。しかし口元が若干にやけているのはコイツが男の子な証拠である。 


「失礼しました朝露雫さん。今のはもちろんちょっとしたジョウクです。貴女のために働きましょう」


 それを肉眼でも確認した俺は、悪魔情報を利用してさりげなく名前を覚えていたことにすると、朝露ちゃんに向かって胸に手をやり騎士の如く宣言した。


「あ、はい……」


 テレテレン。

 だがそれをした直後、何故か例の好感度が下がる音がする。

 最初は原田から鳴ったかと思った……思いたかったが、俺の空気読みスキルは的確に彼女の好感度が下がったことを告げていた。

 え、なんで? 思わず股間を確認するが、チャックが全開ということもない。

 存在を中々認知しなかったから……にしてはタイミングがおかしい気もする。

 ブラヒモに関してでもそうだ。


「どした?」


 原田が首をひねっている。首をひねりたいのは俺も一緒だ。


 そんな俺に、悪魔がつついと寄って囁いた。

 どうせ目の前の二人には聞こえない見えないのに律儀な奴である。


「要するに、お邪魔虫ということではないでしょうか」


「んん?」


 そう言われて、俺は改めてじっと朝露さんを見る。

 するとその体の周りから、もやもやと太陽のコロナのような幻影が立ちのぼり、文字を形作っていった。


 内容は「先輩大好き」。なんだ、彼女は俺に惚れていたのか。

 更に「セクハラ男」「邪魔」「せっかく先輩と二人きりなのに」と続く。

 ハハハ原田めひどい言われようだ可愛そうに。

 ……と、彼女の口から言われたならそう思えるのだが、今の俺は空気が読めるので、それが自分に向けての言葉だとはっきり理解できてしまった。


「なるほど……」


 事態を、というか彼女を取り巻く空気を察した俺は呟いた。

 つまり彼女は俺を邪魔に思っており、その理由はなんとまぁ原田に惚れているからだと……。


 うん。


「ちくしょー覚えてろ!」


 全てを理解した俺は、気づけば彼らに背を向け走り出していた。


「あ、おい!」


 原田が背後から制止するが、足が止まるはずもない。

 こうして俺は、原田から完全敗北を食らってその場から逃げ去った。



◇◆◇◆◇



 俺が正気に返って足を止めると、そこは昨日ランニングの途中で寄った公園だった。


「原田様との思い出が、ヒラク様をこの場所に運んだのでしょうか」


「おぞましいことを言うな」


 ここが昨日のランニングコースだったからである。

 相変わらず涼しい顔で俺の後をついてきている悪魔につっこみを入れると、俺はふぅと息を吐いた。


 思わぬところで運動をしてしまった。

 しかし原田に惚れている系の女子がいるとは。いずれ奴の手から救い出すために策をろうじねばなるまい。

 スポーツに青春を燃やす熱血男には、女子の影など悪影響にしかならないに違いないのだから。


「おっと、ヒラク様」


 俺がそう決意していると、悪魔がふと声を発した。


「なんだ?」


「あれをご覧くださいませ」


 悪魔が指さす方向を見ると、そこには俺たちが昨日座っていたベンチがある。

 そして、その場所に一人の女子が座っていた。


「中見沢……」


 その少女の名は中見沢あげは。

 奴はその小さな背中を更に丸めて俯いており、そしてその背中には書き文字が浮かんでいる。

 

 その内容は「悩んでいます」だった。

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