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俺はステ振りを間違えた  作者: ごぼふ
出会い編
1/38

少年と恋愛相談

「俺の良いところってどこだと思う?」


 俺が問いかけると、隣を歩く友人の原田城男は目をぱちくりとしばたたかせた。

 それはただ目が乾いただけかもしれないし、夕日が目に染みたせいかもしれない。

 しかしそんなことはどうでも良かった。男の表情の変化など、いつか使うと取っておいてある予備のマウスぐらいには価値が無い。


「そういうことを、臆面も無く唐突に尋ねられるところだな」


 奴は俺がそんなことを考えていたのを察したのか。俺に対しそんな冷たい言葉を返すと、若干歩調を早めて俺と距離を離した。


「そういうトンチは期待してない。俺が喜ぶような答えを返してくれ」


 詰襟を着たその背中に小走りで追いつくと、俺は奴の顔を覗き込みながら別の回答を催促する。

 原田はそんな俺の顔を汚らわしい物のように指先で押しのけると、ため息を吐きながらそれに応えた。


「……今の答えで、俺がお前の喜ぶような答えを用意できないことを察してくれ」


 どうやら先ほどのやりとりは、友情の発露だったらしい。


「そうだったのか。めんどくさいから適当にあしらったんだと思った」


「それもある」


 それもあるらしい。とんだ謝り損だった。


「じゃぁもう一回真剣に考えてくれ。俺の良いところってどこだと思う?」


 再度問いかけると、原田はうんざりしたような表情になる。

 それでもさすがは友人。うんざりとした表情から無理やりに口元を引き締め、うーんと唸った後で俺に提案した。


「分かった。消去法で行こう」


 それが苦肉の策であることは、奴の表情から察せられた。


「あぁ、頼む」


 しかしそれに頼らざるをえないのも、我が現状である。俺はそれに頷いた。


「まず学力だ。お前の成績は?」


「赤点は一つで済んだ。補習は免れたぞ」


「おう、お互い危なかったな」


 先週の中間テストは、赤点ギリギリが三つに答案返却後のネゴシエーションによるランクアップが二つで、何とか土日を潰される悪夢の補習授業は免れる事ができた。

 原田も似たような点数だったので優しい目をしている。今更ながらこの男に人生相談を持ちかけたことを不安に思わないでもないが、まぁ置いておこう。


「じゃぁ次に体力だ。持久走どうだったっけ?」


 尋ねられ、俺は鼻息を荒くした。


「うむ、あれは大体中間ぐらいまで行った」


「いやせめてゴールしろよ。ちなみに俺は三位だった」


 自信を持って俺が答えると、原田は呆れたような表情でそう返した。

 ついでに自分の頑健ぶりを見せ付ける補足。というか自分の自慢がしたかっただけではなかろうか。

 こう見えて原田は、陸上部において部長を務めている男である。それで三位というのも如何かと思うかもしれないが、奴の上半身は上腕二等筋凄まじく、とてもランナー体型とは言えない。本人曰く砲丸やハンマー投げもこなす、マルチタレントなのだそうだ。

 俺も何度か部活を見学に行ったが、男の走る姿など記憶に留めてはいない。

 その内女子部員から「目つきがいやらしい」

等の中傷を受け、陸上部へは出入り禁止となったので、恐らく今後奴の短パン姿を目にすることも無いだろう。


「とにかく、体力に関してもダメダメと」


 俺が悲しい記憶をリフレインさせていると、原田は若干強引に話を締めくくった。

 まぁ、その点に関して異存は無い。実際俺の体は平均的男子より鶏がらに近く、原田と並ぶと貧弱なボーイっぷりがより際立つ。


「あとはそうだな……モテ力は?」


「そんなもんがあったら、こんなこと聞いとらんわ」


 原田がふざけたことを言うので、俺は若干キレつつ奴に言い返した。


「じゃぁ無い。お前には何も無い」


 すると今のは奴にとっても癇に触ったらしい。原田は下校中だというのに帰れ帰れと俺を追い払おうとした。


「ちょっと待て。三つしか消去してないだろ」


 しかしここで匙を投げられては、何の為に相談したのか分かりはしない。とりあえず俺は真っ当なつっこみを以って奴を制止しようとした。


「この三つがない奴は、どう取り繕ってもどうしようもない。あ、あとはコネ力だな」


「お前に相談してる時点でそれは察しろ」


 しかしそれ以上に真っ当な言葉を返され、にっちもさっちもいかなくなった。

 優しさなどを挙げる軟弱者もいるだろうが、これでモテたら草食男子など絶滅しているのである。


「……今度は誰に振られたんだ?」


 俺が意気消沈していると、原田は少々優しい声音で問いかけてくる。その優しさが多少むかつく。


「二組の芹沢」


 むかつきながらも俺は答えた。


「前に振られなかったっけ?」


 人のレンアイ事情をよく把握している男である。


「一ヶ月ぶり二回目の出馬でした」


「随分とショートスパンだったな」


 肩を落としつつ俺が返答すると、原田は軽く目を見開いてそう言った。


「で、だ。彼女に精一杯の告白をしたところ、『貴方の何処に魅力があると思うの?』と返されてな」


 そのリアクションが気になりはしたが、愛の形など人それぞれだ。さらっと流して話を先に進める。


「一度振られたくせに臆面も無くもっかい告白できる図々しさと返せば良かったじゃないか」


「それだ」


「やめとけ」


 珍しく有用そうなアドヴァイスだったが、俺が乗った途端提案した本人に却下された。

 はしごを外されるとは、おそらくこうしたことを言うのだろう。


「その無駄な前向きさも長所かもしれないな……」


「採用」


「不採用で」


 原田がため息を吐きながら呟く。なるほどと思って俺がその案を採用すると、即座に不採用通知が来た。これもダメか……。


「あと一ヶ月。それまでに俺は自分の良さを彼女に教えなければいけないのだ」


「おぉ、一応猶予はもらったのか?」


「いや、三回目の告白のために」


「あ、そ」


 とりあえず二回目の告白は、言葉に詰まった俺に対し芹沢が「それじゃ」と短く告げて敢え無く終了となった。だが、まだ完全に振られたという感じではない。

 試合終了の笛はまだ鳴っていない。俺はそう考えていた。


「お前の特技はアレだな。並外れたスケベー」


「そんな特技があるか」


 アガペーみたいに言うな。愛なら確かに人並み以上に溢れているが、その言い方ではエロス満載みたいではないか。

 確かに芹沢に一回目に振られてから一ヶ月、様々な女子累計三十二人に告白したが、やましい気持ちはない。

 俺はただ、色んなところに刺激がある学園生活を送りたいだけなのだ。

 それはこう、できれば甘い痺れのある学園生活ならなお良いなと思ってはいるが。


「まずは真っ当に生きようぜ、我門ヒラク」


「うるさい。俺は悪魔と契約してでも素晴らしい人生を手に入れてみせる」


 何か恣意的に俺の名を呼び肩を叩く原田の脛を蹴り、俺は宣言した。

 後にその選択を後悔する羽目になるとも知らずに。

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