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ワンダーインザダイス 〜全てがサイコロによって決められる能力〜

作者: 如月 和
掲載日:2026/05/06

 私、アリスミラが生を受けた世界では、十五歳になると神殿にて神託を賜るのが習わしだった。


 それは宗教と言われるようなものではなく、この世界の仕組みとも言うべきもの。つまり、支配者は神であり、神託を受けることで、神のために働く戦士となり得る。そう言ったものだ。


 だから神託を受けるとそれぞれ固有の能力が開花され、それが戦闘に向くものならば戦士に。向かないものならそれを支えるものに。そう言った役割分担が生まれる。


 戦士と言っても、直ちに戦場へと駆り出されるわけではない。神の住まう天界へ、生きて誘われることはない。必ず、死したときに迎えが来るようになっている。


 この世界において生きることというのは、力を磨く期間なのだ。


 そのような世界で、私はいったいどのような能力を手に入れたのか。それがよく分かる出来事というものを、少し紹介してみよう。


 ※


 蒸気機関車に揺られて、私は寝台車の個室でゆったりと寛いでいた。


 物を燃やし、電気を産み出す。そういった仕組みは完成されて久しいが、未だに太陽光や地熱といった物を活用する技術は産まれていない。せいぜい風車や水車。エネルギー事情としては、そのような世界観だ。


 だから、電気釜だとか、電気式の扇風機だとか、そう言ったものは存在している。それを見て、私はレトロだなーと子供ながらに思ったものだ。


 現代日本で生活をしていた私にとっては、見るもの全てが新鮮だった。


 蒸気機関車に興奮をする男の子の気持ちが分かった気がするし、さほど興味を示さなかった絡繰といったものが、一周回って最先端に思えてしまって。


 時計がどうやって動くかも知らなかった自分が、なんだか恥ずかしくなってくる。


 スイッチを押して、部屋の電気を消す。奮発して個室のチケットを取った。冒険者専用の列車は屈強な男の人が多いので、相部屋は少し敬遠してしまうのだ。


 窓から差し込む月明かりを頼りに、ベッドに潜り込む。


 そうして私は夢を見る。それが、――私の能力だ。


『列車での旅を楽しむ。クリア、おめでとうございます』


 そこは、板張りのワンルームのような部屋だった。


 木製のデスク、木製のスツールが壁際に置かれ、部屋の中央には大きな一枚板のテーブル。座り心地の良さそうな二人掛けのソファーもある。


 冷蔵庫、電子レンジ、ガスコンロ。何故かいつの間にか補給される食用品は、まさに夢の世界といったところか。


「ありがとう」


 返事が来ないことは分かっているが、私はデスクに置かれた止まり木で声を上げるタイハクオウムに礼を言った。


 そしてテーブルの上に広げられた一枚の大きな紙を見る。


 一面を埋め尽くすようにして、蛇行するように幾つものマスが続いている。それは私が現代日本で生活していた頃にも遊んだことのある、双六と差異はない。


 そのうちの一つのマスに、人を象った駒が置かれている。


 これが私の能力だ。夢の世界へと運ばれ、サイコロを振ってマスを移動する。止まったマスのお題をクリアするまで、次のサイコロを振ることはできない。


 他にも、些細な行動の結果の成否もサイコロに問わねばならず、その都度私の意識は夢の世界へと運ばれる。


 名付けて『ワンダーインザダイス』。この能力により、私は戦う力を身に着けた。


 剣の才能の有無、こんな魔法が使いたい。サイコロの目次第でそれも可能となるのだから、逐一ここに運ばれるのも嫌ではない。


 けれど、一年が纏められた双六を上がらなければ歳を取ることが出来ないというのは、何とかならなかったのかと。五年を経ても未だに少女といった風貌の自分に、深くソファーに座った私はため息をついた。


『サイコロを振ってください』


 テーブルの上に置かれていたサイコロを一つ手に取る。


 マス目には、三マス進むだとか、4四マス戻るだとか、そういった双六らしいお題から、指定されたモンスターを倒すだとか、指定された場所に向かうだとか、そういったものもある。


 今回クリアしたのは、列車で旅をする、というお題だ。だから、この流れでクリアー出来るお題が提示されれば、ラッキーといったところか。


 順にマス目を見ていこう。


 一マス目、一週間の休養。

 二マス目、三マス進む。

 三マス目、ご褒美ハンバーガー。

 四マス目、ご褒美スイーツ。

 五マス目、五マス戻る。

 六マス目、指定モンスターを倒す。


 ご褒美とつくマスは、私の記憶にある物がプレゼントされる、というものなので、これは前世で慣れ親しんだメニューが食べられるチャンスなのだ。


 久し振りに、馴染みのある、チェーン店のハンバーガーが食べたい。その一心でサイコロを振るう。


「ちっ」


 出目は二。


 五年をかけて一歳。それしか歳を取っていないくらいには苦戦しているのだから、無条件で進めるのはありがたい。けれど――、と、思わずため息をついてしまう。


 気を取り直して、もう一度振ろう。現実世界で達成されるべきお題が提示されるまで、此処から出ることは出来ない。


 サイコロを振るう。出目は――、二だ!


「やった、ご褒美スイーツ! 和菓子がいいかなぁ、洋菓子がいいかなぁ」


 悩んでいると、タイハクオウムが『ご注文を』と急かしてくる。


 この世界はどちらかと言うと西洋風な街並みが広がる世界だ。食べ物も洋食に近い物が多い。プリンもあるにはあるのだが、どちらかと言うとイタリアンプリンのようなもので、日本で流行るような柔らかくてなめらか~、なものはなかったり。


「じゃあ、プリン・ア・ラ・モード」


 この手の盛り合わせ的なスイーツも、あまりないのが少々寂しい。


 いつの間にかデスクに現れたそれを手に取り、ソファーに戻って平らげる。最近、フルーツを食べていなかった。


 私達が神の戦士として力を磨くのと同時に、天界と敵対する冥界の陣営も、同時にこの人間界で戦士の養成を行っている。それが、モンスターだ。


 お互いに戦争へ向かうまでに食い合う宿命を持っており、その勢力図は一進一退。私も所属する冒険者という役職は、モンスターに奪われた土地の奪還。モンスターによって改造された土地の調査を任されている。


 新たな土地へ旅から旅へ。そんなのだから、その土地ゆかりのものは食べられるけれど、なかなか新鮮なものを食べられる機会も減っていき。


「あぁ、幸せだった」


 このような機会は、本当にありがたい。


 私は心からの笑顔を浮かべて、再びサイコロを振った。


「五、だ。五は何だ? とりあえず、モンスターの討伐はスルーできたかな?」


 二マス先のモンスター討伐はスルー。地味に厄介な次のマスの戻る指令もスルー出来たのは僥倖だ。


 三マス目、六マス戻る。最悪な目をスルー出来た。

 四マス目、振り出しに戻る。これが、私が歳を取ることの出来ない最大の理由。

 五マス目、……何かを成して金貨を得る!?


「何このお題、最悪」


 この世界の通貨は、銅貨、銀貨、金貨に分かれている。日本の通貨で表すなら、銅貨は硬貨。穴の空いていないのが五百円。一つ穴が空けば百円。三つの穴が開けば十円といったところか。


 銀貨は紙幣だろう。穴が空いていなければ一万円。穴が一つで五千円。穴が三つで千円。


 日本の通貨で表せばここでおしまい。ならば、金貨はどのくらいの価値があるのか。


「五百万の仕事、かぁ」


 一枚で五百万円なり。穴は空かない。


 つまり、サラリーマンの年収ほどの金額を稼がなくてはならないわけだ。それも、金貨と指定されているから分割で貰うという選択肢はない。


「強力なモンスターとの戦闘手当で、銀貨十枚だもんなぁ」


 それでも大金というのがこの世界だ。もしも存在すれば、白物家電も銀貨一枚で充分こと足りるだろう。高級住宅の家賃だって、銀貨一枚が相場。


 それが、金貨? そんなもの、企業や規模の小さい村々の予算だろうに。


 これは少し、考えなければならないな。夢の世界から追い出されるようにして、私は深い眠りに落ちていく。気が付いた時には、車窓から朝日が覗いていた。



 降り立ったのは比較的大きな都市だった。冒険者のサポートをしてくれている役場の規模もそれなりに大きく、様々な情報が集まっていると予想し、ダメ元で金貨を得られるような仕事はないかと問う。


「あります。鉱山の街マルスにて、モンスターが坑道を占拠したそうなのです」

「その解決で金貨? 重要な場所なんだ」

「オリフェリオンの鉱脈なんです」


 この世界において特別な鉱石だ。硬く、しなやかで、研げば鋭く魔法を使うための生体エネルギー、魔力の増幅もしてしまう。


 仕事の内容としては、モンスターの討伐とモンスターによる変化が起こっているかどうかの調査。


 もしもオリフェリオンが採掘できない状況に陥ってしまえば甚大な損害となってしまうため、確実に仕事を果たせる冒険者にしか紹介をしていないらしい。


「アリスミラ様はEXランクの能力を保有していますので、問題なくお受けいただけます」

「あぁ、そういう。じゃあ、ちょっと待っていて」


 期待のこもった視線を受けて、私の意識は夢の世界へと移動する。


『選択は、事態の解決ですね?』


 タイハクオウムの問われ、私は頷く。すると、デスクに四つのサイコロが現れた。


 選択の重要度、難易度によって変わるサイコロの数。四つは最高難度。簡単にはクリアさせてやらないぞ、という意思表示。


『一のゾロ目でクリア。それ以外は失敗です。ファンブルはありません』


 ファンブル、それは致命的な失敗。事によっては最悪の事態を引き起こすそれがないのは、気が楽でいい。サイコロを掴み、私は振った。


 出目は、一、二、四、五。


 あえなく失敗で、私は現実世界へと帰還した。


「一発成功は無理だった。やっぱり、現地へ行かないと、かな」

「残念です。問題が問題ですので、諸々の経費は役場から支給されます。申請に必要な書類はそちらの――」

「りょーかい、です」


 指示されるがままに受付を転々とし、必要な書類に記入をして、旅の資金を得る。そうして役場を出たら駅まで戻り、再び列車に乗って目的地へ。


 長い道のりではあったが、個室の寝台車を用意してくれる優しさはあった。鉱山の街マルスへ到着だ。


 岩山をくり抜いて出来た街並みを少し観光し、役場で話しを通して問題の場所へ向かう。少しばかりの登山と、乗り心地の悪いトロッコ。


 ぽっかりと口を開けた坑道には電気が通っているようで、等間隔に電球が吊るされていた。


 剣を構えて中に入る。逃げ遅れた人は居ないらしい。目撃情報によれば、トラの頭を持ったゴリラのようなモンスターとのこと。


 役場でもらった地図を確認しながら、奥へと進んでいく。


 分かれ道の曲がり角。私は夢の世界にいた。


『モンスターからの攻撃です。選択を』


 タイハクオウムに問われる。


「回避」


 現れたのは二つのサイコロ。


『一のゾロ目はファンブルです。六のゾロ目は回避と同時に反撃をします。四以下は失敗。五以上で成功』


 サイコロを振るう。出目は一と四。


 現実世界に戻ると、直ぐに私の身体は動く。死角から繰り出された剛腕を躱し、現れた巨体と見つめあった。


 背丈は坑道の天井とそこまで変わらない。邪魔そうに振り払われた電球が不気味に揺れている。


 つまり、倒さなければ先へ進めない。モンスターはモンスターで動きにくいのだろう、腕を振るうにも窮屈そうだ。


 行動を起こすなら、私の方が早い。夢の世界で、再びサイコロを振るった。


『一のゾロ目はファンブル。六のゾロ目はクリティカルヒット。四以下は失敗。五以上で成功』


 出目は二と四。


 ギリギリの展開が続くのは、私の実力不足か、あるいはモンスターが強いのか。


 剣で斬りつけると、モンスターはたたらを踏んだ。こちらのターンはまだ続きそうだ。それならば。


「一撃で倒せる攻撃を」


 現れたのは二つのサイコロ。


『一のゾロ目でファンブル。七以下で失敗。八以上で成功』


 出目は五と三。なんだ、ツイているじゃないか。


 モンスターに剣を突き立てると、霞のように消えていく。死して冥界の戦士となる。大した実力を持っていないことを願おう。


 一キロほどの坑道の中で、三匹のモンスターと出会った。いずれもサイコロ運に見放されることなく倒し、異常のないことを確認した私は、分かれ道まで戻ってその先に進もうとした。


 気が付けば、夢の世界。


『トラップがあります。一のゾロ目でファンブル。八以下で回避、九以上で回避失敗』


 出目は、――残念ながら六のゾロ目。こういう時に、引きが悪いのか。


 踏み出した一歩によって、地面は無情にも崩れていく。穴の深さがそれほどでもないのは僥倖であり、服が破け、所々擦りむいただけで済んだ。


「クケケッ」


 奇妙な声が穴の上から届く。

 見上げれば、大きな岩を持つモンスター。


「穴を塞いで閉じ込める気かっ!?」


 視界が変わり、夢の世界。現れたサイコロは二つ。


『三以下で脱出失敗。四以上で脱出成功』


 つまり私の実力から考えれば、脱出に成功する確率は高いということか。しかし、サイコロ運はどうだろう。


 出目は四と二。


 現実世界戻った私は、軽やかに穴から飛び出し、振り下ろされる岩を眺めた。


 視線が合う。

 私は夢の世界へ移動する。


「一撃で倒せる攻撃を」


 サイコロの指定は、先ほどと同一。一のゾロ目でファンブル。七以下で失敗。八以上で成功。


 出目は六と一。


 現実世界に戻れば、相手のターン。回避の選択も、先ほどと同一の指定だ。


 出目は五と五。


 回避に成功すればまた夢の世界へ戻り、一撃で倒せる攻撃の成否を確かめる。


 三と四、失敗。

 二と五、失敗。

 五と五、成功。


 四度目でサイコロ運に恵まれ、何とか一撃でモンスターを倒すことに成功する。なんだかんだ回避は確実に成功させているのだから、運自体は悪くはないのだろう。


 分かれ道の先は落とし穴以外の異常はなく、モンスターの姿も見られなかった。


「ふぅ。やっぱり日差しって大事だなぁ」


 坑道から出てきた私は、燦々と輝く日差しを浴びながら伸びをした。


「おぉ、もう終わったのですか!?」


 人がいるとは思わなかったので、伸ばした体勢のまま肩が跳ねる。


 線の細い老人だった。岩の陰に立っていたため、気が付かなかったのだろう。


「あ、はい。一通り見て回りましたよ」

「それはそれは、噂に名高い冒険者様だて」

「どんな噂です?」

「最後の頼りのギャンブラー。最速頼りのギャンブラー」


 それは悪名スレスレじゃないかなぁ。と、私は口の端を引きつらせながらお礼を言っておいた。


「いえいえ、お礼を言うのはこちらですじゃ。私、一応鉱山の責任者なんてものをやっておりますのでな、個人的にもお礼を差し上げたいのですが……」


 その発言に、更に口の端が引きつる。


 個人的な、お礼。労働の対価ではない、お礼。それはつまり――。


 気が付けば、夢の世界。


『お礼を受けつけますか? 六以下で辞退。七以上で受け入れる』


 お礼くらい、問答無用で受け入れさせてくれよっ! そう叫びたい気持ちはあるけれど、目の前にいるタイハクオウムが可愛らしくて、なんだか毒気を抜かれてしまって怒鳴る気もしない。


 そんな自分にため息をつきながら、現れたサイコロを掴んで振るう。


 出目は、三と四。ギリギリ、ギリギリッ!


 こうした何気ない展開で、単純にも脳汁が溢れてテンションが上がってしまうのだから、なまじギャンブラーというのは否定できないか。


 そんな自分に呆れつつも、頂けるというお礼に期待をしつつ、夢の世界を離れる。


 お礼として振る舞われた豪華な食事を堪能し、金貨を頂いて双六のお題もクリア。ホクホクとした笑顔を浮かべて、懐の痛くならない宿で休む。


 そうして、またサイコロを振るうのだ。


 自分の意志で進んでいく人生において、全く自分の意志ではどうにもならない展開にもなる。けれど、自分の思うように進むような選択を自分で考え、選び取るまで根気よくサイコロを振るう。


 それが嫌になることもある。けれど、自分の選択がバシッと決まった時の爽快さと言ったら……。


 私はソファーに身を沈め、広げられた双六を眺める。


 次のお題はなんだろう。サイコロは気を利かせてくれるのか。自分の一投でドキドキハラハラ。


 まさに、人生は最大の娯楽。娯楽こそは最大の人生。ゴールまでは急がずに、もう少し、戻ってみても良いかもね。

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