表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/32

第九話-2

自動ドアが開き、来客を知らせる電子音が流れる。

ふわりと店内の空気が頬を撫でるのと同時に、


「いらっしゃいませーっ!」


と、元気の良い、可愛らしい声が跳ねる。

目の前のレジで、ちょっと小柄な可愛らしい店員さんが、お客にレジ袋に入った商品を渡す。


「ありがとうございましたっ!」


元気な声と、愛らしい笑顔を向けて。

お客の影が俺の横を通り過ぎて視界が開けると、レジの見知った顔がよく見えた。

可愛らしく、元気な笑顔。

バイト中だからか、目立たぬように小さく手を振って、俺の入店を迎えてくれる。


「いらっしゃい、如月くんっ」

「やあ、バイトお疲れ様。秋山さん」


お互い短く言葉を交わし、彼女に向かって軽く手を振って、入り口から少し右奥手に足を運びだす。

あまり私語を交わすのも良ろしくはあるまい。

もう一歩、奥へと足を運ぼうとした時、レジから少し身を乗り出し手を挙げる彼女。


「お次でお待ちのお客様ーっ!こちらへどうぞーっ!!」


彼女の明るい声が、また跳ねる。


『秋山柚葉』と言う女の子の持つ、『可愛らしさ』『愛らしさ』『人懐っこさ』を感じさせるような、良く通る声。近くでいつまでも聞いていたいと感じさせるような、心に響いてくる声。


でも。


奥側のレジに並んでいる、次の人は動かない。

少し顔を彼女の方に向けるが、すぐにまた前にあるレジに向く。

前にあるレジでは、まだ会計が終わっていないのだから、すぐに会計の出来る彼女の方に向かうのが道理のはず。

でも、その男は動かない。


伸ばした手に躊躇いが籠る。綺麗に伸ばした指先が、まるで求めた事を拒まれたかのように力を失い、僅かに項垂れる。目線だけが僅かに俯き、口角に寂しさが滲むようだ。

それでも、改めて声を掛けるが、その男は反応しない。

後ろに並んでいる客が些か怪訝そうな顔をしているが、気に掛けた風は無い。


その態度には、明らかな『柚葉ちゃんへの拒否』が滲んでいた。


伸ばした指先が力なく宙を掻き、レジ台に戻って行く。

少し肩を落とし、伏せ気味な目が彼女には似合わない。


何故・・・?


そうは思っても、声に出す事は憚られる。

ここは彼女のバイト先であり、しかも双方の当事者が揃っている。

そこで今の状況を問うなど、騒ぎを起こすだけの事。


それは彼女も望むまい。


俺は気付かぬ風を装い、店奥へとレジを背にする。

彼女が何時までバイトをするのかは知らないが、平日でもあり、そう遅くにはならないだろうと予測は付く。

俺は、温かいコーヒーのペットボトルを2つ手にする。

ひとつは微糖、もうひとつは甘いカフェ・オ・レ。

そして、小さいクッキーが5つ入ったパック。

アーモンドのような主張の強いナッツではなく、柔らかく香りの良いマカダミア。

さっくりと軽い口当たりのクッキーを選んで、レジに並ぶ。


幸い、並んでいる客は少ない。


丁度、電車やバスの到着時刻とはズレていて、このコンビニを利用する人の少ない時間帯なのだろう。

特に何もなくレジは進み、俺の番となる。


「お次のお客様ーっ!こちらへ・・・っ」


その言葉が終わり切らぬ間に、足早に彼女の前へと進む。

特別急いだつもりはないけれど、それでも早く彼女の前に進み出たかった。

先ほどの『男』の意識を消して貰いたい思いがあったのだろうけれど、それが思わずも露骨に出てしまっただろうか?


彼女は、少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに笑顔を見せてくれる。

いつもの明るい笑顔ではなく、少し照れたような優しい笑顔。


そして、少しだけゆっくりと商品のバーコードを読ませる。

ふうっと、ひと呼吸おいてから、ひと言。


「レジ袋はどうされますか?」


ちょっとだけ小首を傾げながら、柔らかな笑顔で。

その笑顔に、先ほどの『男』が残した影のようなものは無い。


・・・いや、もしかしたらその笑顔の裏には、まだ影が残っているのかもしれない。けれども、それは俺

からは見る事が出来ない。


きっと、見せたくは無いのだろう・・・。


俺は少しだけ戸惑いを見せたのかもしれない。


「え・・?あ、ああ・・・ください」と、ぎこちなくなってしまった。


くすりと小さく笑いながら、商品を袋に入れ、手渡してくれる。俺も小さく微笑みながら受け取り、少しだけ手を振ってレジを後にするが、


「如月くんっ」


小さな声で、彼女に呼び止められる。

何事かと思い振り向けば、多分、バイト中一番の笑顔を俺に向けてくれた。


もちろん、俺はずっとバイト中の彼女を見ているわけじゃないけれど、でも何故かそんな感じを持ってしまった。

作ったような笑顔じゃない。

秋山柚葉という女の子の持つ魅力のような笑顔。

もし許されるなら、その笑顔をずっと見ていたい・・・そんな笑顔。

多分、見とれていたのは一瞬だけだ。


「ありがとうございましたっ!」という、彼女のひと言で現実に戻り、また小さく手を振ってレジを後にする。


背中に彼女の笑顔を感じながら、自動ドアの電子音が流れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ