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『ありがとうを知らない聖女』  作者: 音香(Otoca )


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戻れない光

王宮からの呼び出しは、突然だった。


名目は「確認」


だが、その言葉を信じる者は誰もいない。




謁見の間。


重厚な扉が閉じられると同時に、空気が変わった。



玉座には国王。



その左右に宰相、魔道主、大神官。



王宮の“意思決定”が、すべて揃っている。



――逃げ場はない。


レオナルトは一歩前に進み、片膝をついた。


「第七騎士団団長、レオナルト・フォン・アイゼン。

 本日の召集理由をお伺いします」



国王は、静かに視線を向ける。



「単刀直入に聞こう。

 聖女ミアの状態は、このままで問題ないのか?」



続けて、宰相が口を挟む。


「感情の欠落。

 前例のない“共有魔力接続”。

 本当に、聖女としての役割を果たせるのか?」



大神官の視線は、より鋭かった。


「神殿としては、危うい状態だと見ている。

 このまま放置するのは、神意に反する可能性もある」



矢継ぎ早の言葉。


だが、レオナルトは一切言葉を濁さなかった。



「――できます」



即答だった。



「聖女ミアは、回復の途上にあります」

「聖力の流れも、安定に向かっています」

「聖女としての役割に、支障はありません」



断言。



一切の迷いを含まない声。

それは、事実であると同時に――

守るための言葉だった。



国王は、しばらく沈黙したあと、静かに言った。



「団長が聖女ミアを気にかけていることは、聞いている」


一拍。


「では、こうしよう」



その一言で、空気が張り詰める。



「一月だ」


「一月の間に、聖女ミアを“完全に回復”させられるなら、

 我々は今後一切、口出しをしない」



レオナルトの瞳が、わずかに揺れた。



「だが――」


国王の声が、低くなる。


「それが叶わなければ、聖女は神殿預かりとする」

「悪い話ではあるまい。管理も、保護も、神殿の役目だ」



“保護”

“管理”



どちらも、ミアの意志は含まれていない。


(……確かに) 


レオナルトは、内心で息を整えた。



(上手くいけば、圧は消える)

(だが、失敗は許されない)



今のやり方。


外部から、慎重に、段階的に馴染ませる方法では――


(……間に合わない)



ミアへの負担。

自分の魔力の損傷。



そのすべてが、頭をよぎる。


それでも。


「……わかりました」


静かな声。


「その条件、受けます」


そして、はっきりと続けた。


「では、契約魔法書を、お願いします」


宰相がわずかに眉を上げる。


だが、誰も止めなかった。


魔法書が差し出され、

レオナルトは迷いなく署名した。



一月。



その言葉が、胸に深く沈む。



王宮を出たあと、レオナルトはすぐにロイを呼び出した。

場所は、団長執務室。


扉が閉じられると同時に、簡潔に告げる。



「一月だ」



ロイが、瞬時に理解する。


「……王宮からの条件、ですね」


「ああ」


レオナルトは、必要最低限だけを説明した。



失敗すれば、神殿預かり。

成功すれば、介入は終わる。



「協力してくれ」


命令ではない。


頼みだった。


ロイは、迷わず頷いた。


「当然です」

「ミアを、取り戻すためなら」



準備は、静かに、だが確実に進んだ。




半月が過ぎた。


ロイは、ほぼ毎日ミアに魔力を流していた。


以前よりも、ずっと繊細に。


少量ずつ。


感情を混ぜすぎないように。


その成果は、確かに出ている。


ミアは、少量であれば一人でも馴染ませられるようになってきていた。


だが――


レオナルトは、はっきりと感じていた。



(……足りない)



完全回復には、届かない。



このままでは、一月に間に合わない。



(内側から、深く共有しなければ)



だが、それは――



ミアへの負担が大きい。


そして、自分の魔力は、すでに傷ついている。



(下手をすれば……)

(俺は、魔力を失う)



騎士団長として。

盾として。

致命的な代償。


それでも。


レオナルトは、一人で動いた。



向かった先は――第一騎士団。


王直属の精鋭部隊。


その団長室の扉の前で、立ち止まる。



「……お久しぶりです、師匠」



中にいた男は、ゆっくりと振り返った。



レオナルトよりも、なお深い魔力。



技術も、経験も、すべてが上。



「……生き急いでいる顔だな」



その一言で、すべてを見抜かれた気がした。


レオナルトは、一歩進み――


深く、頭を下げた。


第二騎士団では、

誰にも見せたことのない姿。



「お願いがあります」


声は、揺れない。


「私の魔力量を、一時的に増やしてください」

「傷ついた流れを、補佐してほしい」



師匠の視線が、鋭くなる。



「……分かっているだろう」

「その処置のあと、一気に力を使えば」

「二度と、魔力を扱えなくなる可能性がある」



沈黙。



だが、レオナルトは顔を上げなかった。



「……承知しています」


即答。


「覚悟の上です」



長い沈黙のあと、師匠は深く息を吐いた。



「……本当に、面倒な弟子だ」



そして。


「わかった」


短く、重い了承。


「一度きりだ」



レオナルトは、もう一度深く頭を下げた。




処置が始まる。


体の奥で、魔力が軋む。

補強され、押し広げられ、

同時に――壊れる感覚。


それでも、歯を食いしばる。


流れを整えられるほど、逆に“欠けている場所”がはっきりする



(……間に合わせる)



ミアのために。



“共有”を守るために。


自分が壊れる覚悟で。


静かに、しかし確実に――



歯車は、取り返しのつかない方向へ回り始めていた。

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