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 自分のことほど、よくわからないものである。



 動物は、水面に映った自らの姿を見て、"それ"が何かと考えることはあるのだろうか。

 自分とは、いったい何者なのかを、知る機会はあるのだろうか。



 誰かに言われないと気付かないことなどいくらでもある。







「おねーちゃんのせなか、大けがしてるよ!」


 少年は、彼女のことを心配したのだろう。

 今までみたこともないほどのけがをして、大丈夫なのかと。


 背中は大きく切り裂かれ、白い背骨まで見えていた。

 血こそ垂れていないが、赤黒い肉が覗いていた。


 動転したのだろう。

 こんな酷い怪我をして、死んでしまわないだろうか。

 座り込んで、目を見開いて、彼女を見つめる。

 握りこんだ手のひらが、ぐっしょりと濡れていた。


 ゆっくりと、彼女は振り向く。

 

 少年の心配とは裏腹に。

 彼女は少し驚いた顔をしていたのみだった。


「えー、ほんと? 自分じゃ見えないや」


 自分の背中を覗き込みながら、そう言った。

 まるで、何事もないように。

 怪我など、していないように。


 彼女は、探るように背中をゆっくりと撫でた。

 そして、目的の場所に手が届き――勢い余って、指先から、ぬちゃり、と音を立てた。


「え?」


 瞬間、彼女の顔が強張る。

 何があったのかわからないようで、指先の感覚が信じられないようで。


 頭が真っ白になったのか、微動だにしない。



 

「痛く……ないの?」


 少年のか細い声が彼女の耳に届く。

 とたんに、背中から手を放し、少年を見つめた。

 


 一瞬の静寂が訪れ、すぐに。

 彼女は目を反らした。


「い……痛い、いたいいたい!!」


 思い出したように、そう言った。


 何かをごまかすように、大きな声で、なんどもなんども繰り返した。





 

 初夏、昼下がり。

 

 彼女、アリア・クラウゼンは、新しい気付きを得た。


 もしかしたら、自分は、人間ではないのかもしれない、と。

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