第55話 閑話休題
(´・ω・`)「さて、クライマックスに向かう前にちょっと寄り道」
みんなはトトロでどの場面が一番好き?
サツキとメイとお父さんが一緒にお風呂に入ってる家族団らんの場面?
サツキとメイがおばあちゃんの畑で野菜を採って食べる場面?
ネコバスに乗ったサツキが迷子になっていたメイと再会する場面?
(´・ω・`)「どれも捨てがたい名場面ばかりだと思う」
他にもおばあちゃんの優しさ、カンタの男気、中小トトロのかわいさと
トトロは見どころばかりだと思う
そんな中でもボクが一番好きな場面は………
サツキとメイとトトロたちがドンドコダンスを踊ると
ドングリに芽が出て、あっという間に巨木に育つ
そしてトトロとトトロのお腹に引っ付いた2人と2匹が
コマに乗ってスピーディーな風となって爽快に飛び回る場面だ
(´・ω・`)「この場面が好きな人はボク以外にもたくさんいると思う」
でも、みんなはこのシーンで気になったことはない?
急にでてくるコマ?たしかにそれも気になる
ちなみにストーリーボードにはこのコマのことをブンブンと記載してる
他には気になるところはなかった?
………傘、お父さん用だったはずの黒い傘
そう!なぜかトトロが広げてもってる黒い傘
(´・ω・`)「ボクはとなりのトトロはこの傘が命な映画だと思っている」
その理由を説明するにはある制作過程を思い起こさなければならい………
それはそう………
サツキとトトロが初めて出会うバス停の雨のシーンから
雨の中をバス停で父の帰りを待つサツキたちの前にトトロが現れる
トトロは頭に雨よけなのかフキの葉を頭に乗せて登場するがびしょ濡れ
その姿を見たサツキがトトロに父のために持っていた傘を差し出す
ところがトトロは傘が何なのかわからない
そこでサツキは傘の使い方をトトロに教える
(´・ω・`)「しかし、それでもトトロは傘の使い方を理解できない」
トトロにとって傘は初めて手にする人間の道具であり
一種の文明の利器みたいなモノなのだから
わからないことが当然でなければ困る存在なのだ
(´・ω・`)「ではトトロはこの傘を何だと思うのか?」
この問いに宮崎さんは楽器だという画期的な答えをトトロに与えた
傘に当たる雨のしずくの非自然的な音に
トトロは体をビリビリと震わせて喜ぶ
この時からトトロにとって傘は雨打楽器となる
(´・ω・`)「するとネコバスがやってきてトトロは乗り込む」
その時に傘………楽器をくれたお返しのつもりか
ドングリのお土産をメイに渡す
ここで人間の姉妹と変な生き物のトトロとの間に関係性が生まれたことになる
この関係性が後のドンドコ踊りのシーンへの伏線となるのだ
(´・ω・`)「さて、トトロの手元に残ってしまった黒傘」
正直、サツキとメイの姉妹とトトロとの関係をつなげるパイプ役を果たし
使命を終え使い捨てで終わってもいいはずの傘
これをどうするか宮崎さんと話し合ったものだ
ある日
彡(゜)(゜)「ヒロカツくんならこの傘をサツキやメイたちに………」
彡(゜)(゜)「トトロが返しに行くと思うか?」
(´・ω・`)「ボクなら返しません。わざわざ返すなんて人間臭いですし………」
(´・ω・`)「トトロは人に自分から近づきません」
(´・ω・`)「自分のモノになったと思っているのだから二者択一です」
(´・ω・`)「出さないか、別の使い方があるかです」
(´・ω・`)「だってもう雨のシーンは作らないんでしょ?」
彡(゜)(゜)「そうやよな………」
別の日
彡(^)(^)「ヒロカツくん!ちょっと!」
(´・ω・`)「はい、なんですか?」
彡(^)(^)つ「この絵コンテを見てくれや」
(´・ω・`)「ふむふむ……」
宮崎さんに渡されたのはCパートのドンドコ踊りの場面
元々ストーリーボードで予定されていた通りの絵だな
………………いや違う
トトロが黒い傘を持ってる!
元々の予定ではトトロと中トトロと小トトロが持っていたのはフキの葉だった
その予定を宮崎さんは変えたのだ
(´・ω・`)「これは面白いです!」
(´・ω・`)「いい使い方を考えましたね!これはイケますよ!」
彡(^)(^)「ワイが考えたんやない!」
彡(^)(^)「トトロが自分で思いついたんや!!」
この時の宮崎さんはめちゃくちゃ上機嫌で笑っていた
(´・ω・`)「話しはまだこれで終わらない」
このすぐ後にあるメインの見せ場を忘れるわけにはいかない
サツキたちがドンドコ踊りをしていると
地面から突然顔を出し始めたドングリの芽
その芽吹いたドングリたちがいっせいに急成長して
一つの木となってまとわりながら巨木となって天に枝葉を広げる
そして急にコマを取り出したトトロと
トトロのお腹に引っ付いた2人と2匹が
コマに乗ってスピーディーな風となって爽快に飛び回る
(´・ω・`)「このシーンを担当した二人の原画マンを語らずにはいられない」
一人はアニメーターで唯一原画頭の名称を持つ( ゜∋゜)金田伊功さん
もう一人は自然を描かせたら並び立つ者なしの(*´0`)二木真希子さん
二木さんは芽から巨木へ至る過程を丁寧かつ繊細に
金田さんはダイナミックにスピード感あるトトロたちを描いた
(´・ω・`)「この二人の個性を最大限に活かして描かれた場面は………」
トトロの中でも最高傑作だと思う
この二人のおかげで(あ!あと宮崎さんも……)
トトロが開いた傘を手にしてご機嫌で空を飛ぶ姿は
となりのトトロのみが持ちうる独自のファンタスティックなものとなり
雨が降ってもいない、楽器としての使い方でもない開いた傘を手にしたその姿は
トトロが生きてきた長い時の流れにはなかった
それも自分が見つけた新しい楽しさの爆発に満ちている
また、サツキやメイと一体化することでの
喜びの共有、感謝、あるいは誇りさえもあふれるように感じられる
朝、サツキとメイは庭にでて芽を見るなり
「夢だけど、夢じゃない」と喜ぶ
二人の夢物語として片付けるのは簡単だが
それは人間側の夢だけでないような気をしてならない
芽を出した木が巨木へと、天高く伸びていくのは
新たなる食べ物や棲む場所としてトトロが夢見たようにも映るからだ
人とトトロが同じ夢を望まなければ成立しなかったように映るからこそ
このシーンは多くの人に爽快感を与えてくれている
(´・ω・`)「サツキの渡した一本の傘が………」
ここまでトトロの物語を広げるなんて
きっと宮崎さんも予想していなかったに違いない




