第36話 超難度カット②
(´・ω・`)「さてお次はBパートの超難度動画のオタマジャクシだ」
場面は水溜まりに群れるヒキガエルのオタマジャクシを
メイが「オジャマタクシ!」と叫ぶシーン
これもまた「いやいや、どこが大変なシーンなの?」と疑問に思うだろう
「ごくごく普通のオタマジャクシじゃん」と
だがそのごく普通の自然なオタマジャクシが曲者中の曲者だったのだ
実物を見たことがある人は分かると思うが
オタマジャクシは微妙な楕円形を保ち尻尾の動きで頭を左右に振って泳ぐ
(´・ω・`)「何度も言うがこの頃のアニメ制作は手描きだ」
ウジャウジャといるオタマジャクシの一匹一匹が
薄いリボンの如く尻尾をひらひらさせながら泳ぐ
なんだったらオタマジャクシたちは水溜まりを好き勝手に泳ぎ
水溜まり底に集まる、空気を吸いに上がる、吸って潜る、ウロチョロしたりと
その行動に統一性もない
(´・ω・`)「そんな困ったやつらを一匹ずつ描かないといけないのだ」
加えて水面の波紋も表現せねばならず………
さらにメイが水溜まりに手を突っ込んでくれちゃうものだから
四散するオタマにさらなる波紋を加え、水の濁りも表現することになっちゃう
(´・ω・`)「この想像以上に超難度の原画を担当したのは………」
(´・ω・`)「自然を描かせたら並ぶ者なしと謡われた二木真希子さん」
(´・ω・`)「ラピュタでもハトにキツネリス、ミノノハシを描いている」
(´・ω・`)「でも、その二木さんでさえ苦戦していた」
ある日
(;*´0`)カキカキカキ
(´・ω・`)「進捗はどうですか?」
(;*´0`)「オタマジャクシばかりで嫌になるわよ」
(´・ω・`)「そうですよね………」
(´・ω・`)「どうです?5、6匹減らしません?」
(;*´0`)「もう!忙しいんだからそんな冗談につき合えないわよ」
(;´ᴖωᴖ`)「アハハハ………そ、そうですよね………」
けっこう本気で言ったんだけどな………
少し時間が飛んで
(;*´0`)つ「ふぅーやっとできた」
(´・ω・`)「お疲れさまです」
(;*´0`)「木原くん、これを動画にするのはかなり大変よ」
(;´・ω・` )「そうですよね………」
(;´・ω・` ) .。oO(さあ困った)
さすがにもう宮崎さんに頼るわけにはいかない………
反対覚悟で誰かに頼まなくちゃ………
はぁ……気が重い
(;´・ω・` )「あの……このオタマジャクシの動画なんですけど……」
( ⁎ˆᴗˆ⁎ )「私やりたいです」
( ⁎ˆᴗˆ⁎ )「あ、私も!」
(´・ω・`)「え!?いいんですか?」
( ⁎ˆᴗˆ⁎ )「はい!」
( ⁎ˆᴗˆ⁎ )「もちろん!」
(´・ω・`)「このカットは大変なのにどうして?」
( ⁎ˆᴗˆ⁎ )「だって尻尾がフリフリしててカワイイもんねー」
( ⁎ˆᴗˆ⁎ )「ねー」
(´・ω・`)「だったらお願いします」
へーカワイイから描きたいってなるんだ………
うれしい誤算だ
だが、ものごとはそう順調にいかないものだ
後日
(; ⁎ˆᴗˆ⁎ )( ; ⁎ˆᴗˆ⁎ )「木原さん………終わりません、この動画……」
(;´・ω・` ) .。oO(まあ、そうなるよね………)
でも、他の人たちも別の動画制作で忙しいから増員はできない
なんとか彼女たちに頑張ってもらわないと
現金な話だけどモチベーションアップには報酬を上げなきゃ
(;´・ω・` )「今の動画の単価を上げるし………」
(;´・ω・` )「簡単なカットの動画も回すようにするから頑張って」
動画マンの給料は歩合制
仕上がり枚数=収入になる
だから枚数を稼げる楽なカットを用意することで
少しでも労をねぎらうよう心をくだいたつもりだ
(´・ω・`)「仕事は任せて、はい終わりではいけない」
アフターケアは大事です
(; ⁎ˆᴗˆ⁎ )「あの……木原さん、楽なカットもいいんだけど………」
(; ⁎ˆᴗˆ⁎ )「トトロやネコバスも描いてみたいなって………」
(´・ω・`)「え!?トトロとネコバスを!?」
トトロとネコバスはそれほど楽な連中ではない
どちらかと言えば難しい方だ
トトロは線1本分の違いでニュアンスが変わる繊細なキャラだし
ネコバスは足が6対12本もあり、複雑な足運びで走る面倒なキャラだ
だから彼女たちが自らリクエストするのは不思議だった
(´・ω・`)「どうしてですか?」
( ⁎ˆᴗˆ⁎ )「だってせっかくトトロの仕事をやるんだから………」
( ⁎ˆᴗˆ⁎ )「メインのキャラを描きたいじゃないですか」
(´・ω・`)「なるほど……」
このトトロやネコバスを描きたいという気持ちは他の動画マンも一緒だった
描きたいモノを描く………
これほどアニメーターにとって楽しいことはない
楽しいんだから気晴らしになるし、集中力も上がる
そうすると質や速度も上がる
いいことづくめだ
ボクはなるべくみんなが希望するトトロやネコバスを振るようにした
このリクエスト作戦は大成功だった
(´・ω・`)「覚えているだろうか?」
ボクが提案し採用されたジブリの新システム
基本的に全カット、動画チェックを原画の人にやって貰って
リテークを改善しクオリティアップに繋げようという案だ
でも、しょせんボクの案は机上の空論だった
システムを作ったはいいが、あまりにも不満が出るようでは
廃止の恐れだってあった
しかし、実際にやってみると一応は機能していた
動画マンが上手い原画マンと直接アドバイスやお話ができたりしたおかげで
チェックが面倒くさい、大変だという気持ちは軽減されていた
それでも軽減するに留まった
原画のチェックを何度も必要としがちな面倒な作業を楽しんでやってもらう
宮崎駿が望んだ楽しい制作現場を実現するのは無理難題であった
(´・ω・`)「それが、描きたいモノを描く………」
(´・ω・`)「リクエスト作戦のおかげでスタジオには笑顔が見えた」
トトロやネコバスの魅力が不可能を可能にしたのだ
奇跡と言っていいだろう
もしもトトロとネコバスがいなかったら………と思うと
(´・ω・`)「って!この2キャラがいなければそもそも映画にならないか」
そんなこんなでA、Bパートが完成したとき
宮崎さんは……
彡(゜)(゜)「これは本当に大変な作業やった………」
彡(゜)(゜)「なんでもないことがちゃんとしてないとトトロではないんや」
と動画マンの丁寧な仕事にたいして感謝の気持ちを口にした
まではよかった………




