第7話 シャワーブース
別の時間軸の旅から戻った雪子は、実験ブースから出て来ると、歩きながら服を脱いでシャワーブースに向かった。
この研究棟の地下二階の部屋は、ワンフロアになっていて、誰にも気兼ねなく使用できる。もっとも、現在はメンバーが雪子だけなのだから当然だが。
それどころか、食糧庫、バーカウンター、アイランドキッチン、ランドリースペース、ベッドまであり、頑丈な出入り口と相まって、ちょっとした核シェルターになっているのだ。
シャワーを浴びながら、雪子はアレコレ考える。
サン・ジェルマンは西暦31世紀の未来から来たと言っていた。
彼もまた、疲れたから時間旅行はやめてしまったと言っていた。
私もいずれそうなってしまうのかしら?
肉体を別次元に飛ばすコツも教えてくれた。
でもそれはむしろ量子物理学の理論より、様々な宗教で行われている「瞑想法」に近いアプローチだった。
それに彼がやっていたのは、あくまでも同じ時間軸上での移動。
それでも彼が過去に行った瞬間に、そこから別の並行世界が始まるとも考えられるから…ああ、もうややこしい。
それから不老不死の薬剤の製法も聞けた。
必要な材料の記録を、あとでまとめておかなくっちゃ。
私が永遠の17才でいるために。
でも彼の話の中で一番驚いたのは、31世紀には「地球外のお友だち」と、仲良く交流しているという話だった。
なんでも旧式の内燃機関の使用をやめて、EMドライブや太陽風を利用した宇宙船を飛ばし始めたら、「彼ら」から声がかかったのだそうだ。
もっとも、「彼ら」は既に地球内外に昔から居て、色々な文明に関わったりしていたが、地球人類が野蛮すぎて一旦サジを投げていたらしい。
「彼ら」曰く、「キミたちは気に入らないことがあると、すぐに戦争を始める。いつまでたっても進歩しない。それに多人数が集まって組織を作ると、必ずそれは上層部から腐敗する。我々が何度手をつくしても、絶滅に向かって突き進もうとする。まったくあきれてしまうよ。」
ただ、ここまで進化した生物を絶滅させるのも忍びないと、「その時」まで辛抱強く機会を待っていたのだそうだ。まったく申し訳ないし、その根気には頭が下がる思いだ。
彼女はシャワーブースから出て来ると、髪を拭くのもそこそこにバスローブを羽織り、パソコン前に陣取る。
そして、いそいそと記録をまとめていくのであった。