第5話 リピーター
実験室に戻って来た照和の雪子には、かねてから計画していたことがあった。
それは、もう一度「同じ時空の続き」に行くことである。
これは、節目を終えた11回目の実験にふさわしく思えた。
軽い食事を終えると、先ほどのデータをもとに、機器を調整した。
そして、もう一度ヘッドセットを着けて座席についた。
慎重にスイッチを入れる。
さっきの正和の雪子の、ちょっと未来へ…。
しばらくして雪子は、ゆっくりと目を開けた。
随分暗い。いや、窓の外に星が輝いている。
夜なのか?
ふと視線を落とすと、また座席に頑丈なシートベルト。
操縦桿もあるけど、さっきより計器類がはるかに多い。
それよりも、何だか視界が悪いし動き辛い。
なんだ?この手袋は?
「あら。また来たのね?」
外側の雪子に気づかれたようだ。
(すいません。もう一回だけ、お邪魔します。)
答える中の雪子。
「でも、コレは結構なサプライズよね?」
何だか外の雪子さんは愉快そうだ。
「今は1994年10月8日。多分、日本では土曜日。時刻は…う~ん、微妙だわ。さて、ここはどこでしょう?」
尋ねもしないのに日時まで教えてくれる。
外の雪子さん、やけにはしゃいでいる。いったい、どうして?
そこまで考えた時、窓の外に、見慣れない、やけに青くて美しいモノが現れた。
それが地球だということに気づくのに、少し時間がかかってしまった。
「!?」
「そう。ここは、宇宙船内。軌道が安定したから、今からヘルメットを脱ぐところよ。」
そう言うと、雪子はヘルメットを外してからベルトを外し、宇宙服も外側を取って、簡易なブルーのツナギ姿になった。
胸には小さく「NASA」のエンブレムがあった。
ふと気がつくと、船内にはもう一人の人物が居た。
ずいぶんガタイのいい白人の男性だ。
さすがの私も、一人で宇宙船の操縦は無理ってことか。
「ああ、コレのこと?」
と、外の雪子がその男性を指さす。
「紹介するわ。私の夫のサン・ジェルマンよ。」
(えええええ!?け、結婚したの?しかも外国人と!?)
「初めまして。サン・ジャルマンです。」
全てを察しているかのように見える男は、中の雪子に向かって流暢な日本語で挨拶したのだった。
そして聞き覚えのあるその男の名前に、雪子は少しだけ胸騒ぎを覚えるのだった。