第3話 バッドガイズ
背後には、黒人の男が二人いた。
どちらも痩せぎすでサングラスをかけている。
向かって左側の男はナイフを握っていた。
右の男が口を開く。
「Hey, take your wallet out!」
(カネを出せですって。面倒なことになりましたね。)
「そうね。でも、まかせて。幸いなことに、あたりに人目も無いしね。」
そう言うと、外の雪子さんが両手を開いて着きだすポーズをする。
「!?」
女の謎の動きに面食らう男たち。
そのまま空中を掴むポーズをすると、両腕をゆっくり上げ始めた。
すると目の前の二人の男たちは、空中に浮かび始めたのだ。
「Oh!☆♯§×!?」
高さ10mほどの空中で、男たちは聞き取れない言葉で叫びながら、空中でジタバタしている。
その様子を眺めていた雪子は、そのまま素早く両手を近づけた。
二人の男たちは、空中で頭をぶつけ合い、左の男はナイフを落とした。
雪子は両手を合わせたまま、左に両腕を振ってパッと手を広げた。
伸びかけの芝生が生えた、リゾート開発の空き地に、勢いよく二人は放り出された。
サングラスはどこかへ飛んでしまい、したたかに腰を打った男たちは、恐怖を顔ににじませながら、ほうほうのていで逃げて行く。
「Look, you forgot something!」
雪子は叫びながら、落ちていたナイフをチカラを使って拾った。
そしてそれを、逃げて行く男たちに向かって飛ばした。
飛んで行ったナイフは手前の男の右の手の甲に刺さった。
「Oh, my…!」
それ以上何も言えず、全速力で彼らは逃げて行った。
男たちの姿が完全に見えなくなるまで見送ると、雪子は満足したように部屋に向かった。
部屋に入ってソファーに腰を落ち着けると、二人の会話が再開する。
(やることが徹底してますね。)
「ああいうヤカラたちは、説得に応じないからね。私だって最初のうちは、穏やかに済まそうと何度も努力したのよ。」
(最後のナイフのくだりは、ちょっとショッキングでした。)
「大丈夫よ。幸いサバイバルナイフじゃなかったし、上手に抜けば傷跡が残るだけで済むように刺したわよ。」
(チカラのコントロールに長けているんですね。)
「まあね。傷跡を仲間のヤカラたちが見れば、当分の間、❝あそこの日本人は魔女だ❞ってことになるでしょ?」
「でも、そろそろ潮時かもねえ。オンナの外国一人暮らしは難しいわ。」
(…そうなんですね。)
中の雪子は少しがっかりした。
「まあ。そういう意味でも、語学力だけじゃなくて、資格と体力は身に着けておきたいわよねえ。」
(とても参考になります。)
「…夕飯、作るわよ。中で味わえるんでしょ?」
(お邪魔じゃなかったら、そうさせて下さい。今回のタイマーは12時間で切れるのでまだ余裕があります。)
夕食を済ませて他愛もない世間話をした後、23時に中の雪子は帰って行った。