第1話 パイロット
雪子の並行宇宙への旅「正和」編です。
精神体移動実験の10回目。
はたしてどうなることやら…(^_^;)
高校生の雪子がゆっくり目を開ける。
目の前が眩しいくらいに明るい。
それに一面の青空だ。
いや、待てよ。雲が視線以下にあるぞ。
全ての景色は窓の外だ。
目線を下げるとたくさんの見慣れない計器類。
どうやら椅子に座っているようだ。
実験室の寝そべり方の物とは違う、ガッチリした形のものだ。
それに頑丈なシートベルト。
両手で何かを掴んでいる。
操縦桿だ。
足元にもペダル状のものがある。
頭にはインカム付きのヘッドフォンが…。
ああ、ここは恐らくコクピットだ。
多分、小型の航空機…セスナか?
今回は精神体として浮遊せず、いきなり対象の同位体の体内に入ってしまったようだ。
状況を考慮して、しばらくの間、中の雪子は黙って静観することにした。
隣の席に見知らぬ白人男性が居る。
年齢は40歳くらいか?
レイバンのサングラスをかけてニッコリ笑っている。
「How‘s it going ?」
ヘッドフォンから男の声。
「Everything is fine!」
インカムで答える外の雪子。
「We are going to land soon.」
教官からの指示。
「Roger, sir!」
にんまり笑う外の雪子。
水平飛行から機体を右旋回し、徐々に高度を下げる。
空港が見えてきたらスロットルを絞り、速度をだんだん落としていく。
地上に近づいたら、70ノット前後まで。
滑走路を正面にとらえたら、侵入角に注意して操縦桿を少し引く。
速度60ノット前後でタッチダウン。
今日も無事に着陸した。
「Thank you so much, sir!」
挨拶もそこそこに練習場を後にする雪子。
ロングヘアをポニーテルにして、服装は白いTシャツに洗いざらしのジーンズといったラフなファッションだ。
事務所前に止めてあったベスパに跨ると、すぐ近くのアラモアナショッピングセンターに向かった。
どうやら昼食にするようだ。
外の雪子がロコモコを食べ終えたタイミングで、中の雪子は慎重に声をかけてみた。
(えっと…突然すいません。)
「!?」
ビクッとなる外の雪子。
そしてあたりをキョロキョロ見回す。
(まあ、そうなりますよね?)
「誰?どこにいるの?」
(え~、貴女の中から話しかけています。)
「それは…また…奇妙ね?」
外の雪子が冷静さを取り戻す。
(さすが、私の同位体。劇的な変化にも即座に対応するのね。)
「私は…二重人格になってしまったのかしら?」
(そうではありません。私は今、別の時間軸から、精神体を通信に近い形で貴女に送っています。つまり私は別の世界の貴女なのです。)
「なるほど。つまりアナタは別の並行宇宙から来たワタシなのね?」
(そのとおり!説明が省けて助かります。)
「量子物理学的に考えればいいのよね?」
(そうです、そうです。素敵な思考力です。)
「…実は私、ちょっと疲れ気味で、タイムリープをやめていたのよねえ。」
(えっ、貴女も?)
「ってことはアナタ、コレをもう何度も繰り返してやっているのね?」
(はい。実は今回が記念すべき10回目なんです。)