ep9 三段階能力鑑定 ー サヤ
丸い天井には淡く光る星が散りばめられ、床には魔法陣のような文様が浮かび上がっている。空気そのものが魔力を含んでいるかのように澄んでいて、どこか非現実的な香りが漂っていた。
そんな中でフレアが歩を進め、部屋の中央に立った。
「よいかい……」
そう呟いたかと思うと、両手をパン、と一度叩く。
途端に、部屋のあちこちに設置された球体装置や水晶の柱がぼんやりと発光し始めた。柔らかい青白い光が部屋を満たし、星のような粒子が空中をふわふわと舞う。
「これが《三段階能力鑑定》じゃよ」
フレアはゆっくりと振り返り、レインとサヤに優しく微笑みかけた。
「おまえさんたちの“戦う資格”と、“どんな戦い方が向いとるか”──そして、そもそもおぬしたちが何者なのか。……それを見極めるための鑑定なんじゃよ」
「そ、そんな大げさなもんなの?」
サヤがぽかんと口を開け、周囲の光に目を奪われながらきょろきょろと辺りを見回す。金髪がふわりと揺れ、淡い光を反射して神秘的に輝く。
「……え、ちょ、これってさ……失敗したら爆発とかしないよね?」
サヤが小声で囁きながら、レインの袖をつまむ。
「そんな訳ないだろ、バラエティ番組かよ……」
レインが横目でサヤを睨みながら、眉をひそめた。
そして、声を潜めて呟く。
「……そんなことより、“正体を見極める”って、どういう意味だと思う?」
「それな!」
サヤも小声で乗っかってくる。
「あたしたち完全に転生バレしてんのかな!?」
「……まぁ、影がない時点でだいぶ怪しまれてはいる気はするけどな」
「うぅ~……マジで、あの影のこともっと早く気づけばよかった~!」
サヤが不安そうにレインの肩に手を置く。レインも、静かに喉を鳴らしながら、目の前に光る水晶を見つめた。
「……でもまぁ、せっかくここまで来たんだ。やるしかないよな」
「うん……やるっきゃないっしょ!」
二人は顔を見合わせ、ふっと笑う。
フレアはそんな二人を微笑ましそうに見守りながら、小さく頷いた。
◆第壱階【魔力測定】──《晶核の計量》
「レディーファーストってことで、ウチから行くね♪」
サヤがウィンクをしながら、ゆるりと前へ出る。
腰まで届く金髪が揺れ、露出の多いギャル服が場の空気を完全に無視している。周囲の視線が一気に集中し、受付嬢がため息をついた。
魔力測定装置アーククリスタルの前に立つサヤ。
「まずは《第壱階・晶核の計量》じゃな。魔力の総量と、属性の傾向を見る最初の段階になる」
部屋の中央に据えられた水晶球──アーククリスタルは、淡く青白い光を湛えていた。その周囲には魔術陣のような彫刻が刻まれ、装置全体が荘厳な雰囲気を漂わせている。
「さあ、この上に手をかざしてごらん。怖がることはないさ」
「はいはーい!」
サヤは軽いノリで、水晶の上に両手をひょいと乗せた。指先が触れた瞬間──
ゴォォォ……ン……!!
水晶が雷鳴のような重低音を響かせた。
「えっ、ちょ、なにこの音!? 爆発しないよね!?」
サヤがビクッと肩をすくめると、水晶の内側から一気に強烈な光が放たれた。紫紺の霧が渦巻くように広がり、その中心で真紅の閃光が脈動する──!
「なっ……!? これは……っ!」
受付嬢と巨漢の男が息を呑む。
「何このド派手なエフェクト! え、バグってない!? ウチのせいで壊れた!?」
サヤは驚きとともに水晶から手を離そうとするが──
「まだじゃ、手を放してはいかん」
フレアの声に押され、サヤはしぶしぶ手を戻す。
その瞬間、再び水晶が閃光を弾けさせ、部屋全体を紫と紅の波動が包み込む。壁の紋章が共鳴し、床に刻まれた魔法陣が淡く浮かび上がった。
水晶の周囲に表示された判定結果──
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【魔力総量:計測上限を超過】
【属性傾向:闇100% 】
【特殊判定:死霊波長、非定義領域に該当】
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「魔力量が上限を超過!? そんなことがあり得るのか!?」
受付嬢が唇を噛みしめて呟く。
「ほう……これはこれは、実に珍しい……闇の気質の中に、“呪”の香りまで混じっとるとはのう」
フレアが興味深げに目を細める。
「おぉぉおお~~っ!? な、なにこれ!? ちょ、ウチってヤバすぎ!? やっぱチート!?まぁなんとなく自信はあったほうだけどね!」
サヤがハイテンションでピョンピョンと跳ねる。胸元が揺れるたび、巨漢の男が目線をそらす。
◆第弐階【肉体・魔力適応診断】──《全身共鳴儀》
「じゃあ次ってことで……これ乗っかればいいの?」
サヤが指差したのは、円形の台座のような装置。《共鳴環陣》──魔力と肉体の親和性を診断するための魔法装置だ。装置の周囲にはいくつもの魔術式が刻まれており、中央にはうっすらと発光する紋様が浮かんでいた。
「その上にただ立つだけでええ。魔力の流れ、身体の響き、心のひだまで──すべて測られるようになっとる」
「らじゃっ☆」
軽く敬礼しながら、サヤが台座に乗る。その瞬間――
ブォン……ギィィィィィィン……!!!
共鳴環陣が低く唸りを上げ、魔法陣全体が血のように濃い赤紫に輝き始めた。
「うわっ、なにこれ!? ちょ、ウチ踏んだだけだよ!?」
「大丈夫、壊れてはおらん……たぶんな」
フレアの微妙な返答に、レインが思わず顔をしかめる。
装置の周囲に、次々と鑑定結果がホログラムで浮かび上がる。
測定結果
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【魔力循環効率:異常値(霊体結合型)】
【魔法制御精度:測定不能(人外構造)】
【身体反応速度:人類基準比+300%】
【耐久力:霊質変動のため安定せず(物理無効領域あり)】
【特殊耐性:毒・呪い・炎・冷気 ⇒ 完全無効】
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「んー何がどうなのかイマイチピンとこないな……」
「見て! “完全無効”だって!? ウチ無敵なのやばくね!?」
結果を見たサヤは嬉しそうに叫ぶが、周囲の大人たちはそれどころではない。
「こ、これは……!?」
受付嬢が読み上げるパネルの数値に思わず震えた声を出す。
「物理無効……まるで霊体みたいじゃないか」
巨漢の男が、低い声で呟いた。
「というか、霊だしね? 元」
サヤがニッコリ笑う。
「こりゃ……普通の冒険者じゃ相手にもならんのう」
フレアが難しい顔で魔力の波を見つめる。
そのとき――《共鳴環陣》の中心から、風もないのに立ち昇る黒煙のような魔力の柱が発生した。
「ひぃっ……な、なにコレ……」
「……ふむ、“死の波動”じゃな。しかもこれは、生まれつきのものじゃない。おぬしの魂が、無意識に放ちよるもの……」
「え、アタシ、無意識で死の波動出してんの!?」
「死神かよ。迷惑すぎる」
レインがツッコミを入れた。
しかし、その声も霞むほどに、周囲の空気が張り詰めていた。サヤの存在自体が、《死の濃度》そのものを高めていたのだ。
「記録、完了じゃ。……霊的な存在でありながら、肉体と一体化し、魔力の通路までも掌握しとる。こんなこと、ありえるはずがないんじゃがねぇ……」
フレアがぽつりと漏らしたその声は、どこか震えていた。
サヤが装置からぴょんと飛び降りると、共鳴環陣はバチッと火花を散らして停止した。
「はいっ! どうだった? ウチ、イケてた?」
胸を張るサヤに、誰もすぐには返事できなかった。
「お前ってやつは……」
レインが呆れ気味に言うと、サヤはニヒッと笑った。
◆第参階【職業適性・記録登録】──《運命写し》
「ふぅ〜っ。最後のやつだっけ? じゃあ、サクッと決めちゃいますかぁ!」
サヤはノリノリで《運命写し》の前に進み出る。
そこに据えられていたのは、古代の文様が刻まれた楕円形の鏡──《魔刻の鏡》と、横に設置された自動筆記具《封印写筆》、そして淡く光る一枚の羊皮紙《能力書》。
部屋の灯りがふっと落ち、鏡の前だけが神聖な輝きを放つ。
「これに……こうやって、映るんだよね──ってあれ?……何も映んないけど」
サヤが鏡の前に立ち、正面から向き合った瞬間──
ズン……!
鏡面が、まるで深い水面のように波打ち、うねり始めた。
まばゆい光と闇が交錯するように揺れ、その中心から、一人の女性の影が浮かび上がる。それはまるで、サヤ自身のシルエット。しかし、髪は黒く染まり、不気味な蒼白の肌色をし、白い装束に身を包んでいた。
鏡の中の影は微笑みながら、サヤと全く同じ仕草で指を立てる。
その指が、見る者すべてに『死を選べ』とでも言っているように錯覚させる、不気味で美しい仕草だった。
「な、なんだ……これは……」
受付嬢が思わず後退る。
「“魂の中に死を宿す者”……いや、死がそのまま形になっとる……」
フレアの声にも、かすかな恐れが滲んでいた。
その瞬間──《封印写筆》が激しく動き出した。
魔法文字が走り書きのように《能力書》へ記されていく。
測定結果
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【職業適性:未知体カテゴリ(コード:R-00)】
【特例職業:幽魂転生者】
【系統分類:死霊術/精神干渉/実体変異系】
【職業特性】
-霊質身体:影・鏡への反応なし
-恐怖拡散:周囲の精神力を自動侵食
-幽霊特性:壁抜け・浮遊・低温無効 等
【特記事項】
-単独では“存在不安定”だが、幽鬼 霊院と精神的なリンクを保っているため、 幽魂転生者としての肉体維持が可能。
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「 幽魂転生者……こんな職業は聞いたことがない。一体この子はなにものなんじゃ……」
「えっ、なんかヤバいこと書かれてない? あたしそんなつもりないのにぃ〜」
サヤが苦笑気味に首を傾げるが、そこには“生きた幽霊”──いや、死を超えてなお魂を保つ者の圧倒的な存在感があった。
「サヤ……お前、ほんとに幽霊だったんだな……」
レインが真顔で呟く。
「え、ちょっと今さら!? あたし何回も言ったじゃん!」
「いや、なんか……今はギャルっぽいから、忘れかけてたというか……」
小声でやりとりをする二人のやりとりをよそに、部屋の空気は凍りついたように重かった。
「この力、一体どこで、どんなふうに芽吹いたのか……こりゃあ、えらいことになってきたね……」
フレアが、鏡に映った死霊の残響からそっと目を逸らしながら呟いた。
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