ep64 太陽の槍
激闘の末に訪れた青空の下。
傷ついた飛空艇タイタニクスの甲板には、まだ戦いの余韻が色濃く残っていた。
冒険者たちは肩を並べて座り込み、乗客たちは互いに無事を確かめ合いながら涙をぬぐっていた。
「はあ……ほんと、マジで死ぬかと思った……」
レインがドッと腰を落とす。息はまだ上がっている。
「ウチらが居なかったら、マジ終わってたよね?」
よく見ればサヤの膝はガクガク震えていた。
「俺ら、じゃなくてスカイだろ?」
「……でも、本当にすごかったすですね」
ルナベールが空を見上げてぽつりと呟く。
だがその時だった。
バタンッ
「スカイ!!」
甲板の奥から、ロゼの叫び声が響いた。
「どうした!?」
レインたちはすぐさま声の方へと駆け出した。
そこには、倒れかけたスカイを必死に支えるロゼの姿があった。
スカイの顔は青白く、額にはびっしりと汗。呼吸も荒く、今にも意識を失いそうだった。
「スカイ……! 魔力が……」
ロゼの声が震える。目元には涙が浮かび、今にもこぼれ落ちそうだった。
「大丈夫だよ……ほら、こうして……ロゼがいてくれるから……」
スカイが微笑もうとするが、力が入らず、ロゼの肩にぐったりと身を預ける。
「あなたは……いつだって、誰かのために……っ。……たまには……自分のことも……大切にしてください……!」
その一言は、張り詰めていた感情の限界を超えていた。
スカイはゆっくりと目を開け、苦しげに笑った。
「はは……ロゼに怒られちゃったね」
「……」
「じゃあ、次からは……君の言う通りにするよ」
そう言って、スカイは彼女の手をそっと握った。
ロゼは泣きながら頷いた。
「だから……今は、ゆっくり……休んで……」
しかし。
スカイが掴んだその手に、力がこもる。
「……まだだ」
「え……?」
「やらなきゃいけないことが……まだ、ある」
スカイの声はかすれていたが、その瞳には再び光が宿っていた。
レインたちも思わず息を呑む。
――そのときだった。
ドォン!!
船体の下層から、突如として鈍い爆発音が響いた。
「な……今の、何の音……!?」
「まさか……隕石!?」
スカイは歯を食いしばりながら顔を上げた。
「あの隕石を、完全にどうにかしない限り……街への被害は防げない」
ルナベールがすぐさま駆け出し、甲板の縁まで行って身を乗り出した。
そこに広がっていたのは――
「……っ! そんな……!」
ルナベールが叫んだ。
「さっきまでの隕石が……二つに割れてる!!」
彼女の声に、レインたちも驚愕して駆け寄る。
下を覗き込んだその先では、巨大隕石が真っ二つに裂け、それぞれが別の方向へと落下していく最中だった。
片方は山岳地帯、もう一方は――街の方角へ。
そして、その質量と速度は――間違いなく、街を消し飛ばす破壊力を秘めていた。
「クソッ! まだ終わってなかったのかよ……」
レインが思わず呟く。
空は晴れているのに。光は差しているのに。
終わりを告げたはずの戦いが、再び人々に影を落とそうとしていた。
「……あの街には、昔訪れたことがある。貧しい町だった。それでも……子供たちは、みんな強く笑ってた。だから……助け……ないとっ」
その街は、スカイがかつて足を運んだことのある小さな町だった。
難民や孤児が多く、貧しくとも人々は支え合い、懸命に生きていた場所。
スカイが立ち上がろうとする。だが、膝に力が入らず――崩れ落ちた。
「スカイ!!」
ロゼがすぐに駆け寄り、その体を支える。
スカイは悔しそうに床を拳で叩く。
「……ッ、くそっ……!」
その目には、涙が滲んでいた。
誰よりも人を守ろうとして、限界を超えて戦ってきたスカイが、ここにきて何もできないでいる。
自分の無力さを嘆く姿に、誰もが息を飲んだ。
乗客たち、冒険者たち――皆、スカイに命を救われた。
それでも今、何もできないのは自分たちの方だった。
「俺たち、何も……できねぇのかよ……」
呻くような声だけが、甲板に残る。
――そして、誰もが祈るように空を見上げた。
希望などないと分かっていても。
それでも、僅かな奇跡を願わずにはいられなかった。
レインも、サヤも、ルナベールも。
肩で息をしながら、黙ってうつむいていた。
そのときだった――
ピピピ……
甲板に、控えめな電子音が響いた。
「……ん?」
ルナベールがポケットに手を入れると、魔導通信具幻記結晶が光っていた。
通話を開くと、青白いホログラムが浮かび上がる。
「――あー、もしもし、ルナベールさん?」
画面に映ったのは、どこか呑気な声の少年だった。
「レ……」
「レックス!?」
サヤが食い気味に叫ぶ。
「お、サヤっち? 今、すっごい大変らしいじゃん! シェリルさんから聞いたぜ?」
いつもの調子に、思わず空気が止まる。
ルナベールが口を開く。
「……ええそうなの、レックス。でもごめんなさい……今はそれどころじゃ……」
気落ちした声で言いかける。
――が。
「……隕石でしょ?」
その言葉に、ルナベールの目が見開かれる。
「レックス……なぜ、それを……?」
「安心してくれルナベールさん! 今から助けに行くから!」
「……っ!」
レインが横から顔を出す。
「おいおい、レックス。今から街が……その、消滅しかけてるって時にお前、助けに来るったって……」
その瞬間――
ギイィンンンンン!!!
遥か後方。彼方の空が黄金に光った。
「な……なに、あれ。空が白く……」
ルナベールをはじめ、乗客たちも柵から身を乗り出す。
そこに見えたのは――
まるで天を裂くような、太陽の槍。
極太の黄金の光が、隕石の中心を――
ズドオォォォォンッ!!!
撃ち抜いた。




