表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/68

ep61 逃れられぬ絶望

 巨大な魔物は、空に向かって両腕をゆっくりと掲げた。


「な、なんだ……攻撃してくるのか!?」

「やばいって……絶対なにかしてくるよあれ……!」


 サヤが一歩引きながら、魔物の動きを注視する。


「避けようにも……こんな上空でどうしようも……」


 ルナベールが唇を噛んだ。


 ゴウゥゥゥゥン


 次の瞬間、タイタニクスの機体がグッと前傾し、急上昇を始めた。

 エンジンがうなり、甲板の床がきしむ。重力が一気に傾いた。


「うわっ、上昇してる……!」

「逃げるつもりだ……あいつから、上空へ!」


 全員が手すりに掴まりながら、飛空艇が雲の中へ突入するのを見届けた。

 濃い霧のような水蒸気が窓の外を流れ、何も見えなくなる。


「……助かる……のか?」


 レインが呟いたそのときだった。


 ──バシュッ。


 曇天を突き抜け、ついに視界が開ける。


 太陽の光が差し込み、雲の上──


 蒼天の空が広がる。


「やった……! 抜けた……!」

「さすがにここまでくればもう……」


 安堵の声が漏れる。


「よし、このまま逃げ……」


 だが、その言葉はすぐに凍りついた。


 先ほどまで降り注いでいた太陽の光が消失する。


「なんで急に暗く……」

「……っ! な、なにあれ……?」


 誰かが指をさした、その先。


 青空を覆い隠す、不自然な影があった。


 大気を歪めるほど巨大な“何か”が、遥か上空から――落ちてくる。


「……山?」

「いや……違う! あれは……」



 超巨大な隕石。



「い、隕石……!?」

「こんなのが落ちたら、街数個分が消滅するだろ……ッ!」


 誰もが息を呑む。


 雲の上に希望はなかった。


 待っていたのは、空から降る、絶望そのもの。


 甲板上の誰もが沈黙する中……


「だ、誰か……あれを攻撃して壊せないのか!?」


 乗客の一人が叫ぶ。


「こんなにも冒険者がいるじゃないか!! なあ、早くなんとかしてくれよッ!」

「このままじゃみんな死ぬぞ!! 頼む、皆を助けてくれ!!」


 次々と上がる悲鳴と懇願。


 だが。


「無理だ! あんなバカみたいな大きさ……」

「攻撃が届いたところで、どうにもならないだろ……」

「あんなの街が潰れるレベルだ……S級冒険者が十数人居ないと……!」


 冒険者たちも声を荒げる。焦り、混乱、怒りが渦巻き、言い争いが始まった。


「何とかしろって言ってんだよ!」

「じゃあお前が飛んで殴ってこいっての!」

「ふざけんな、俺たちだって限界だ!」


 そんな中。


「……あの、さっきのスカイさんの技なら……!」


 ふと、ひとりの乗客が手を挙げて叫んだ。


「さっきの演奏で、ルナベールさん達を強化してたでしょ!? あれで今いる冒険者全員を強化すれば――」

「めちゃくちゃ強力な魔法になるんじゃないか!?」


 一瞬の沈黙。


 次の瞬間、甲板のあちこちから視線が集まる。


「スカイさん……!」

「頼む! あんたの演奏があれば、俺たち――!」


 スカイは視線の中心で立ち尽くしていた。肩は上下し、弓琴を握る手はかすかに震えている。


 (……魔力が、まだ戻りきってない。正直……)


 彼の額には、再び汗がにじむ。


 だが、目の前には――不安で震える乗客たち。武器を握り締める冒険者たち。レインたちの姿も見えた。


 スカイは、ふっと微笑む。


「――やってみよう」


「スカイさん!!」

「マジで……ありがとう!!」


 歓声が上がる。


 レインが心配そうに駆け寄る。


「スカイ……無理すんなよ……!? さっきの演奏、相当消耗してたろ」

「もう休んでいいって! ウチらでなんとか――」

「いや、君たちが背負いすぎる必要はない。これは、皆で守る船なんだ」

「でも……!」


 そこへ、ロゼが声をかけた。


「スカイ、本当に……大丈夫なのですか? もう、魔力が……」


 スカイはロゼを見て、優しく微笑んだ。


「大丈夫。僕は音を奏でることしか出来ないからね。音で皆を繋ごう」


 そう言って、スカイはゆっくりと立ち上がる。


 深く、息を吸った。


 ――そして。


「《ファイナル・レコード・アンリーシュド》!」


 その瞬間、甲板が光に包まれた。

 金色の音符が空へと舞い、精霊たちが踊るように光を放つ。


 1度目はレイン達3人に。


 しかし今度は数十人いる冒険者全員に、黄金のオーラが纏われていく。


 スカイの魔力の消耗が計り知れない。

 一瞬足がぐらついたのを、ロゼが支える。


「……力が……溢れてくる……!」

「これならいけるぞ……!」

「これは凄まじい強さのバフだ……、スカイさんありがとう!」


 魔導士達が杖を構えた。

 剣士達が刃に魔力を纏わせた。


「ウチも《ダークレイ》でっ!」


 サヤが魔法陣を描き、闇の魔法を練る。


 ルナベールも先ほどと同じように、両手に光と闇の魔法。


「俺も……!」


 レインが空に向かって手を掲げて魔法陣を描く。


 だが、魔力が霧散し失敗する。


「……クソッ! こんな大事な時になっても……ッ!」


 レインが苦悶の声を漏らす。


「できない……また、俺だけ……!」


 すると……


「手を出して」

「えっ……?」


 気付けば側にロゼがいた。ロゼがレインの手に優しく触れる。


「焦らないで。魔力は“押し出す"んじゃなくて、“流し込む”の。こう、ゆっくり……シャボン玉の膜が割れないように……優しく」


 その手から、優しい光が流れ込む。


 レインの手のひらに、再び黒い魔法陣が灯った。


「で、できた……!」

「そう、その調子。あとはそこに息を吹き込むように詠唱するだけですわ」


 ロゼが小さく笑った。


 レインは今度こそと、鋭い眼差しで上空の隕石を捉える。


 そして、甲板上に一時の沈黙が流れ――




「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」



 スカイの号令が轟く。


 その瞬間、タイタニクスの甲板から、数十の魔法と斬撃が――一斉に放たれた。


 空を埋め尽くすほどの七色の光が、天から降る隕石へと向かっていく。


 魔法。斬撃。闇と光の閃光――



 ズドオォォォォン!!!!



 全てが、隕石へと命中した。


 空が爆ぜる。


 凄まじい爆音と爆風。


 煙が視界を覆い尽くした。


「……やったか……?」


 誰かがつぶやく。



 だが……



 ゴオォォォォォ!!



 風に吹き飛ばされた煙の向こう――


 なおも、落ちてくる影があった。


 ――隕石は、砕けてなどいなかった。


「うそ……」

「ほとんど……効いてない……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ