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ep59 覚醒

 甲板の上空を埋め尽くしていた魔物たちが、三人の活躍によって次々と撃墜されていく。

 その光景を見届けながら、中央に立つスカイの指が静かに動きを変えた。


「やるね、三人とも」


 演奏の手を止めず、スカイがにこりと笑った。その瞬間、音が変わる。空気が振動し、甲板全体が微かに揺れた。


 演奏が――解き放たれる。


「そっちが本気を出すなら、こっちも応えなきゃね……《ファイナル・レコード・アンリーシュド》!」


 スカイが弓琴をかき鳴らすと、音符が煌めく光となって舞い上がり、精霊たちが空に踊り出す。周囲の空間がまばゆく輝き、音の波が黄金の奔流となって放たれた。


 その輝きが、レイン、サヤ、ルナベールの三人に降り注ぐ。瞬間、三人の身体が金色のオーラに包まれ、力が溢れ出した。


 レインの瞳がギラリと鋭く輝く。


「なんだ、この感じ……とんでもない力が溢れてくるようだ……!」


 彼は手を高く掲げ、掌を空へ向ける。


「いくぞ……カタストロフィア!!」


 バリバリバリッ――!


 空が割れた。黒雲が一瞬で渦巻き、稲妻が交差する。


 ゴォォォン……!!


「な、なにこれ……!? さっきまで晴れてたのに、急に空が……!」

「雷雲だと!? なんだこの異常気象は!」

「空が……怒ってるみたい……! まさか、これもあいつの力なのか……!?」


 そして――


 ズガァァァンッ!!!


 雷鳴が爆ぜ、魔物の群れを引き裂くように閃光が降り注いだ。雷柱が立て続けに数体を貫き、爆発を巻き起こしながら地上へと墜としていく。


「うぉおおお……! 雷が……魔物を薙ぎ払った……!」

「まるで空が味方になったみたいだ……!」


 バリバリと震えるその手を、レインはじっと見つめた。


「凄い力だ……スカイの演奏、とんでもない効果だな」


 その目には、畏怖と驚愕、そして微かな高揚が滲んでいた。


「この旋律はね、君たちの“すべて”の力を極限まで引き出す効果があるんだ。魔力、肉体、精神、技術……そのすべてを、限界のその先へ押し上げる。

さあ、響かせよう――君たちの真の力を!」


 スカイが一歩踏み出すと同時に、彼の足元から光の粒が立ち上がる。

 その旋律は、まるで世界そのものを震わせるように空間を満たし、音符の光が空に舞い踊った。


「はぁい、次はウチのターンね♡ 初めての技披露してあげる!」


 サヤがくるりと空中で一回転し、指を天へと掲げる。


「死した魔物たちよ、我が傀儡となれ!《黄泉(よみ)繋ぎ》!」


 地上の火山帯に墜ちたはずの魔物たちの亡骸が、不気味な音を立てて蠢き出す。黒炎がその身体を包み、空へと逆流するように舞い戻る。骨を軋ませ、肉の破片を引きずりながら、彼らは飛空艇の周囲へと集結した。


 幽炎を纏った魔物たちは、飛空艇を守るように亡霊の軍勢として空中に整列する。


 サヤが指を突き出して叫ぶ。


「いっけーっ! 突撃ぃーっ!!」


 亡霊の群れが咆哮を上げ、再び空の戦場へと舞い上がる。鋭い牙で噛み付き、蹄で敵を叩き伏せ、凶暴な本能のままに生者の魔物を食い荒らしていく。


「ひっ……! な、なんだあれ!? さっき倒したはずの魔物が……!」

「嘘……死者を操ってる……!」

「やばい……あの子、いったい何者なんだ……!?」


 そして――


 ルナベールの身体を取り巻く魔力が、一段と強く脈打つ。風・火・氷・雷。それぞれの属性が鮮やかな光となって旋回し、次第に集束し始めた。


「スカイさんの力のお陰で、今なら……“万象”を支配できそう……!」


 右手に集まる風と火が交わり、まばゆい光を生む。左手に集まる氷と雷は、深く重たい闇となる。


 彼女の瞳が鋭く細まり、両手を交差させた。


「《カオティック・ノヴァ》!」


 空に放たれた魔法が、光と闇の二重螺旋を描いて宙を走る。幾何学模様の魔法陣が広がり、空間ごと巻き込むかのような爆発的衝撃。


 ――ドオォォォォォン!!!


 光が炸裂し、辺りを白く染めた。直後、闇がその余韻を抉り取るように広がり、魔物の一帯を虚無へと引きずり込む。


「は、はああああ!? 今のなんだ……!? 光と闇が……混ざって……!?」

「意味がわからない……でも、すごすぎる……! あの娘、もうチートとかの次元じゃねぇ……!」

「こいつら、本当に人間かよ……!」


 乗客や冒険者たちは息を呑み、誰もが目を見開いたまま、三人の背に宿る光を見つめていた。


 希望が、絶望を打ち払う形でそこにあった。タイタニクスの戦いは、いま新たな高みへと突入していく――。

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