ep58 戦場
轟音が空を裂き、《タイタニクス》の巨大エネルギー砲が正面から迫る魔物の編隊を爆炎に包んだ。その一撃で数多の魔物が消し飛んだものの、残された群れはなおもこちらに向かってくる。
さらに地上の九つの火口からは、炎とともに新たな魔物が次々と飛び上がっていた。それらの魔物は翼の有無に関係なく、炎弾や岩塊を投げつけて飛空艇を狙ってくる。
それを迎え撃つように、船体の側面から展開された機関砲が連射され、地上の魔物を薙ぎ払っていった。
「くそっ……! いくら倒してもまだ……っ!」
それでもなお、魔物の数は衰えなかった。
──ゴンッ!!
船体が激しく揺れた。
魔法障壁が展開されてはいたが、乗客たちにはその状況が楽観視できるものではなかった。
「な、なんだ今の!? まさか……障壁壊されてないよな……?」
「お願い、耐えて……!」
全方位から襲いかかる無数の炎の魔物。その幾体かが、甲板を目指し魔法障壁へと突進するたびに、バチバチと激しい火花と閃光が迸った。
そんな不安が甲板に満ちる中、空気を切り裂いた一条の光が、魔物へと走った。
「《火霊連弾》!!」
鋭い詠唱の声とともに、ひとりの冒険者が魔法陣を空に展開。
火柱が唸りを上げて炸裂し、魔物の一体を吹き飛ばす。
その一撃に、ざわめいていた甲板が一瞬静まり――
「よっしゃ! 俺たちもやるぞ!」
「こっちも援護する!」
「戦えるものは立ち向かえー!」
弓を構えるレンジャー。詠唱を飛ばす魔術師。
さらに、剣士たちは魔力を纏った斬撃を遠距離へと放ち、魔物の一体を叩き落とす。
「この障壁、中から攻撃しても壊れないの!?」
「そう、この障壁は《一方向魔力透過式》っていってね。内側からの魔法や攻撃は通すけど、外側からの攻撃は全部弾く構造になってるんだ。魔力の“波長”を識別して、味方か敵かを判断してる。つまり――味方の魔法だけが通れる、都合のいいバリアってわけさ」
「ほぇ〜なるほどね!」
サヤの疑問に丁寧に答えるスカイ。
ズドオォォォォン!!
冒険者達の激しい攻撃が次々に魔物を襲う。
だが、魔物たちは簡単には倒れなかった。
その凶悪さに、冒険者たちも額に汗を浮かべる。
そして──その空気を切り裂くように、音が響いた。
「……アルス・メロディアス、演奏を始めるよ」
中央甲板に立つスカイの周囲に、淡い光の波紋が広がった。
彼の手に握られた弓琴が空気を震わせ、美しくも鋭い旋律を奏で始める。
その音が、戦場に流れた瞬間――
「……なんだ……急に身体が軽く……!」
「ああ……力がみなぎってくるようだ……っ!」
「おい、みろ! スカイさんの演奏で魔物の動きが鈍っているぞ!」
冒険者たちの身体に力が宿る。魔力の流れが滑らかになり、集中力が研ぎ澄まされる。
一方で、魔物たちは演奏の中でまるで足元を取られたように動きが鈍化し始めた。
「スカイさんの演奏が……一瞬で流れを変えてる……」
ルナベールが驚愕の表情で呟き、レインが口元を緩めて頷いた。
「ああ……戦場を支配してるみたいだ」
旋律にのって舞い踊るような幻影の精霊たちが、魔物に襲いかかる。スカイは音で戦場を導く指揮者。誰もが、彼の奏でる音に引き寄せられるように戦っていた。
その中で、スカイはそっとロゼに目を向けた。
「ロゼ、僕の後ろにいて。……何があっても、絶対に君を守るから」
その言葉は静かで、けれどどこまでも強くて、優しかった。
ロゼはそっとスカイの背に身を寄せた。
レイン、サヤ、ルナベールの三人は静かに顔を見合わせ……同時に強く頷く。
「俺たちも行くぞ!」
レインが前に出る。眼前の魔物に右手を向け、低く呟いた。
「カタストロフィア!」
レインの掌が赤黒く光だすと、飛来していた魔物の一体が突如空中でバランスを崩し、仲間と衝突。
連鎖するように、数体が自身の炎に巻かれながら墜落していく。
「なんだ今のは! 魔物が急に自滅してったぞ……!」
「あれも何かの力なのか!?」
周囲の冒険者たちが目を見開いた。
続いて、サヤが髪をかき上げて笑う。
「幽終の王冠――ゴーストモード☆」
青黒い炎がその身を包み、彼女の姿はゆらりと亡霊の姿へと変貌した。浮遊するその姿に、魔物たちが本能的に身を引く。
そして《呪いの眼差し》を発動させると、一瞬にして魔物のひとつが絶命し、空中で煙のように崩れ落ちた。
「なに……!? 一瞬でS級の魔物を倒した!?」
「あれ、見たよな!? 今睨んだだけなのに、魔物が!」
「すげぇ……あいつらが、赤蓮の牙の新星! 噂のゴーストレイヴンか!」
最後にルナベールが、蒼く輝く杖を構える。
風・火・氷・雷、それぞれの属性が彼女の周囲に旋律のように現れ始める。
「《蒼環の旋律》!」
四属性の魔法が交錯する旋律となり、凍てつく氷の刃が魔物を凍結させる。轟く雷が魔物の羽を焼き、そして火と風が踊るように巨大な炎の渦を巻き起こした。
「なんだあの威力、尋常じゃない……!」
「さすが蒼閃の戦姫だ! 魔物を次々と倒してくぞ!」
三人の圧倒的な戦いぶりに、甲板中がどよめく。
戦場の空に、希望の風が吹いた。




