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ep23 魔獣ガルグルス

 採取袋の中には《リヴァイアストーン》がぎっしりと詰まり、任務としては十分な成果が得られた。ルナベールが小さく頷き、二人に声をかける。


「これで任務達成ですね。日没までにはまだ余裕がありますが──そろそろ戻りましょうか」

「おっけー☆ 初任務、大成功ってやつ~!」

「……無事に帰るまでが任務、だろ」

「家に帰るまでが遠足ってやつね?」


 レインが苦笑しながらツルハシを収めた、その時だった。


 ──ぐらり。


 ダンジョン全体が、まるで海の底からうねるように、低く唸りながら揺れた。


「きゃっ!」

「っ……地震!?」


 サヤが壁に手をつく。岩肌に走る細かいひび割れ、その先の暗闇から、ぞろぞろと小さな影が走り出してくる。


「スライムと……さっきのフィッシュグールも混じってます!」


 ルナベールが即座に詠唱へ入る。


「《サンダーレイン》──!」


 ズババババババッ!!!


 雷の矢が降り注ぎ、小型の魔物たちを次々と仕留めていく。


 ──だが、その直後。


「っ……!? 天井が!」


 鈍い音とともに、天井の一部が崩落。大量の瓦礫が降り注ぎ、背後の通路を完全に塞いだ。


「くっそ、閉じ込められた……!」

「いや……これは──!」


 ルナベールの目が鋭くなる。その視線の先。洞窟の奥、潮が滲み出す裂け目から、何か巨大な影が蠢いていた。


 ──ズズズ……ズン……!


 水音をともなって姿を現したのは、巨大な甲殻を持つ海棲の魔物だった。全身を覆う黒鉄のような硬殻、鋭く湾曲した爪、左右の目が独立してギョロリと動く。顎からは泡を吹き、背中からは潮を噴き上げている。


「深海魔獣──ガルグルス!」


 ルナベールが叫んだ瞬間、ガルグルスの巨大な爪が、轟音とともに空間を薙ぎ払った。


 ──ズガァァァン!!!


 風圧と衝撃が空気を震わせ、岩壁が軋む音が響き渡る。


「きゃっ!!」


 サヤが短い悲鳴を上げて、反射的に後方へ飛び退く。金と赤の布帯がひるがえり、シャラリと鈴の音が揺れた。


「くっそ、でかすぎんだろ……!」


 レインも間一髪で横へ転がるように避けた。地面が抉れ、砕けた岩が雨のように飛び散る。その爆風に呑まれれば、即死は免れなかっただろう。


「二人とも、下がって!」


 ルナベールが叫び、両手を広げて魔力を解放する。その姿はまるで、二人を庇う壁のようだった。


「──《サンダーレイン》!!」


 青白い雷が空中から降り注ぎ、ガルグルスの甲殻に弾ける。雷撃の連打で足を止め、続けて魔法陣が展開される。


「《フローズン・ケージ》……!」


 冷気をまとった氷柱が足元からせり上がり、ガルグルスの脚を絡め取るようにして凍らせていく。


 しかし──


「──ギャァァオォオオ!!」


 ガルグルスが咆哮し、脚を踏み鳴らすと、氷の檻が砕けて飛び散った。返す爪の一閃が空間を切り裂く。


「くっ……!」


 ルナベールは咄嗟に跳躍。両足に魔力を込め、風を巻き上げるように詠唱する。


「──《ウィンド・フェザー》」


 風の魔力を纏った彼女の身体がふわりと宙に浮かび、鳥のように身軽に滑空する。地面に触れることなく、岩壁から岩壁へと素早く移動し、魔獣の攻撃を翻弄するように躱していく。


「すっげぇ……! まるで飛んでるみたいだ……!」


 レインが思わず呟くほど、その動きはまさに魔導の技術の極致だった。


 ──だが。


「──っ!」


 ガルグルスが地面を踏み砕く。激しい衝撃で跳ね上がった岩の破片が、凄まじい勢いでルナベールの背中を直撃した。


「……あぐっ!」


 小さな悲鳴とともに、ルナベールの身体が弧を描いて地面に叩きつけられる。


「ルナ!!」

「ルナちゃん!」


 レインが叫ぶ。サヤが目を見開いた。


 倒れたルナベールは、痛みに顔をしかめながらも必死に身体を起こそうとするが、腕が震えて上がらない。


 ガルグルスが再び咆哮し、爪を振り上げた。狙いは、動けないルナベール。


「……ッ!!」


 レインが即座に飛び出した。


「サヤ!! ルナを助けるぞ」

「分かってる! 行くよ、レイン!」


 二人の足が同時に駆ける。


「レイン! ウチが囮になる!」

「……いけるか?」

「うちらの大切なルナちゃんを傷つけたあいつ、マジで許せない」

「頼んだぞ、サヤ」

「うん」


 風を切る音とともに、サヤの瞳が深く妖しく染まり、深く息を吸う。


 スウゥゥゥゥッ────


 それと同時に、全身にふわりと黒い靄がまとわりつく。空気がピリリと張りつめ、風もないのに金髪がふわりと舞い上がった。褐色の肌に、ほんのりと冷たい透明の光が浮かび上がる。


 そして──


幽終の王冠(ファントム・クラウン)、ゴーストモード──」


 青黒いオーラが、サヤの全身からぶわっと吹き上がった。空間が彼女を中心に揺らぎ、空気の流れすら反転するような錯覚を覚える。金髪は漆黒に染まり、褐色の肌は青白く変化。服装はいつの間にか白装束へと変わり、額には白い三角巾。

 サヤは、霊魂の化身そのもののような“幽霊(ゴースト)”の姿へと変貌していた。


 重く踏み込む音とともに、ガルグルスがサヤに向かってその巨大な爪を振り下ろした。


「華麗に回避……じゃなくて」


 ズドォンッ!!


 ――爪は確かに命中した。だが、サヤの体は霧のようにふわりとすり抜け、何もなかったかのようにその場に立っている。


「ウチ、物理攻撃無効なんだよねぇ~、残念でした♪」


 ガルグルスの無数の目がわずかにうごめき、困惑したように爪を引く。だが再び怒りに燃えるように、もう一撃を振り上げる──


 ドォンッ!!


 ──そして、またもやすり抜ける。


「も~、しつこいってばぁ☆ 当たんないの、理解してくれないかなぁ~?」


 クルリと宙でターンするように跳ね、挑発するサヤ。その鮮やかな身のこなしと不可思議な存在感に、ガルグルスは完全に意識を向けられていた。


「……あの無茶な性格も、今はありがたい……!」


 レインは素早く駆け出し、倒れているルナベールの身体を抱き起こした。驚いたルナベールがかすかに目を開ける。


「今は何も言うな……!」


 サヤの陽動が成功し、爪がサヤを通過するたびに「ズバァッ!」「ゴォンッ!」という衝撃音が辺りに響くも、サヤは軽やかに笑いながらすり抜け続けた。


「……ほらほらぁ、当たんないよ~ん?」


 レインはルナベールを安全な岩陰へと抱え込み、背中で守るようにして息を整えた。


 岩陰から覗いたガルグルスの巨体は、ますます怒りを募らせ、振り下ろす攻撃の一撃一撃が荒々しさを増していた。


「あれ? 避けてないでさっさと倒しちゃっていいのか! ハイッ、デスゲ……」


 サヤの瞳が殺気を伴い、赤く光り始めた瞬間――


 ガルグルスは本能で何かを察知したように、体を激しくねじ曲げて視線を逸らした。殺気に反応した獣の直感。凶悪なはずの魔物が、恐怖に突き動かされたような動きだった。


「はあ!? 外れた!?」


 サヤが目を剥き、イラつきを隠せずに舌打ちをする。


「ならもう一発ッ!! こっちを見ろカニィ!!」


 怒号と共にもう一度《呪いの眼差し(デスゲイザー)》。だが――避ける。さらにもう一度――視線をそらす。


「なんなのこのカニッ! まるで分かってるみたいな動きしてる! これじゃ当たんない!!」

「俺がフォローする! 打ち続けてくれ!」


 レインが岩陰から身を乗り出しすぐさま構えた。


「カタストロフィアッ!」


 地面に淡い紫の光がうねり、ガルグルスの足元にヒビが走る。


 だが――それだけだった。


「あ、あれ……!?」

「ちょっとちょっとー! 早くなんとかしてよレイン―!」

「わかってる……! もう一発!!」


 レインが叫び、二度目の《厄災招来》が放たれた。その直後――。


ゴガァンッ!!


 ガルグルスが振り上げた巨大な爪が天井に激突し、天井がぐらつく。そして――


ドガアァァン!!


 レインが作ったひび割れを狙いすましたかのように、岩の塊が落下。それは、ガルグルスの足元を完全に崩壊させた。


「……きた!!」


 バランスを崩した巨体が崩れ、ガルグルスが仰向けに倒れ込み、硬質な甲殻が地面に激突し、ダンジョン内に轟音が鳴り響いた。ガルグルスは足をバタバタさせるだけで、身動きがとれなくなっていた。


「サヤッ!! 今だ!!」

「了解! いっちょ決めてくるわッ!」


 サヤが一気に跳び出す。青白い霊気をまとい、白装束の影がダンジョンの薄暗い空間を疾駆する。


 巨大な敵の目が、ふと動いた。


「はいはーい、注目ぅ! 今度こそ逃がさないからね?」


 目が合った。その瞬間、サヤの瞳に光が宿る。


「デスゲイザー!……直☆撃☆」


 閃光のような殺気が放たれた。


 その瞬間、魔物の視界に“異形”が現れた。


 長く黒い髪。血の通わない白すぎる肌。

 ぐちゃぐちゃに乱れた髪の隙間から覗く、“目”。


 “それ”は音もなく地を這ってくる。

 骨が軋むような「ギチ……ギチ……」という音とともに、確実に、ゆっくりと。


 魔物は本能で理解した。

 逃げられない、と。


「……ア、……グ……」


 ぬめった何かが身体にまとわりつく。

 見ると、影の中から白い腕が何本も伸びていた。

 無数の手が、肉を裂き、筋を抉る。


「ギィィィィアアアアッ!!!」


 自らの爪で目を潰そうとする。

 見なければ助かる、そう思って。


 だが、“それ”はもう目の前にいた。

 顔の半分を髪に隠しながら、頭をコクンと傾ける。


「……ィ……ア"……ア"ア"ア"ア"ア"ァ"」


 その“口”が開いた。

 音とも言葉ともつかぬ、不快な呻きが耳の奥にめり込む。

 脳が震え、思考が崩れ落ちる。


 そして──


 ずるり。


 白い指が、喉の奥を撫でるように滑り込む。

 魔物は窒息し、肺が破れ、心臓が凍る。


「怖いねぇ……可哀想に……」


 サヤの声が届いたときには、魔物の肉体は痙攣し、意識は“死”の底へと堕ちていた。


 数秒後、そこに残っていたのは、巨大な甲殻の残骸と、重たい静寂だけだった。


「やったか」


 レインが息を呑む。


「ふぅ〜……普段中々使えない分、張り切っちゃった!」


 サヤが肩に手を当ててポーズを決める。口元にはいたずらな笑み。


「けどやっぱレインの運ゲーあってこそだね。ナイスアシスト☆」

「サヤもよく立ち向かったな。お疲れ」


 ふらふらと起き上がったルナベールが、そんな二人のやり取りに苦笑を浮かべながら、そっと呟いた。


「お二人のおかげで……助かりました。ありがとう」

「大丈夫か!? さっきの……けっこう痛そうだったぞ……!」


 駆け寄ったレインが、息を切らしながら声をかける。


「……どこか折れてたりとかしてない?」  


 サヤも顔を覗き込み、真剣な眼差しで問いかけた。


 ルナベールは、小さく微笑みながら首を横に振った。


「ご心配ありがとうございます……大丈夫、そこまで重くはありません。──持ってきた回復薬が、ちゃんと役に立ちました」


 彼女は腰のポーチから取り出した小瓶を軽く振り、その蓋をあけて一口。淡い光が体表に滲み、痛みを和らげていく。


「っ……ふぅ。これで……帰還には支障ありません。けれど……皆さんがいてくれて、本当に良かった」

「バカ言え。助けられたのは、こっちもだって」


 レインが笑いながら肩を貸し、サヤが頷く。


「ルナちゃん、マジで頼りになるって。あんなんウチらだけだったら秒で死んでたし」


 そんな中、ルナベールが手早く装備を整え、残されたガルグルスの亡骸へと近づく。


「素材の剥ぎ取りを始めます。レア素材があるかもしれません。手分けして周囲も確認を」


 二人は頷いて立ち上がった。

 魔物の体表からは、深海の甲殻、雷耐性を持つ膜、そして中央からは鈍く輝く魔核が取り出された。


「これ、売ったらめちゃくちゃ高かったりしない?」


 サヤが目を輝かせると、


「レア素材は魔素税がかかるけど……それでも結構な報酬になるはずです」


 素材を袋に詰め終えた三人は、封鎖されていた背後の通路が崩落の反動で開いた隙間を見つけ、そこから慎重に脱出。




 そして──




「戻ってきたーっ!!」


 夕焼けが差し込む街の門をくぐった瞬間、サヤが両手を上げて叫んだ。


「……もう二度とあんな水びたしのとこ入りたくない……」


 レインは馬車の荷台で力なく天を仰ぐ。


「でも、無事に帰ってこれてよかったですね」


 ルナベールのその一言が、何よりの“初任務成功”の証だった。ギルドに帰還した三人は、受付でシェリルに報告し、正式な報酬と共に初任務の完了を伝えられた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「よぉ〜し! 新米冒険者たちの帰還、祝ってやろうじゃねぇか!」


 夕暮れのギルド食堂。シャルロードが両手に大皿を抱えて現れた。豪快な笑顔を浮かべ、料理をテーブルにドンと置くと、白い湯気が立ちのぼる。


「無事に戻ってきたんだから、うまいメシと酒で乾杯だな!」

「うわっ、でっかい肉ー! さっすが姉さん!」


 サヤが目をキラキラさせて手を叩く。


「……その前にあたしの帳簿の補填が先でしょ! こんなにギルドの食材使ってもうー!!」


 シャルロードの背後から、ため息混じりにサンシャインが現れた。手には大量の未記入食材リストが握られている。


「ふっ、経理の女神は今日も忙しそうだな〜」


 とぼけた顔で皿を持ってきたのはモンベルン。なぜかエプロン姿で、お玉を片手に腰に手を当てている。


「おう、サヤちゃん大活躍だったらしいじゃん。これ、“特製ド根性スープ”だ。酒ちょっぴり入り♪」

「えっマジ?! モンちゃん気が利くー!」


 サヤはスープを一気に煽ると、頬を紅くしてバンとテーブルを叩く。


「っは〜〜〜! おいしっ!!」

「お、おい顔赤いぞ、大丈夫かよ」


 レインが顔をしかめるが、サヤはもう上機嫌で肩を組んでくる。


「レイ〜ン! うちってば、今日めちゃがんばったよね〜!?」

「……わかったから、近い近いっ」


 そんな二人を見て、ミランダが笑いながらグラスを傾けた。


「いいパーティかもね、あんたたち。これからもっと厳しい依頼もあるだろうけど……その調子でな」

「ルナベールさ〜〜ん!」


 レックスが皿を持ったままルナベールの席に駆け寄ってくる。


「ルナベールさん! あの魔獣ガルグルスを倒したって本当なんですか!? あんなでっかいヤツ、どんな魔法でやったんですか!? やっぱり《クリムゾン・ノヴァ》とか……!? それとも新技ッ!?」


 食堂に響くレックスの声。ルナベールは少し困ったように微笑みながら、スプーンを置いた。


「いえ……私じゃありません。ガルグルスを仕留めたのは──レインさんとサヤさんなんです」


 その言葉に、食堂の時が一瞬止まった。


「……え?」


 レックスがぽかんと目を瞬かせたかと思えば──


「おいおい、マジかよ!? あの“深海魔獣ガルグルス”を仕留めたって!?」

「ありえねぇだろ!? あれ、下手すりゃ上級冒険者でも苦戦する魔物だぜ!? 新米が倒せる相手じゃねーぞ」

「なんだよ、《トライデント》ってとんでもねぇやつらじゃねーか!」

「くっそー、俺らの初任務なんて、スライム討伐で終わったのに!」


 瞬く間にギルドの冒険者たちがざわめき、食堂中が再び賑わいに包まれた。


「え、え、じゃあアレか!? レインって、見た目地味だけど実はめちゃくちゃ強いタイプ……!?」

「ていうかさ、二人の職業って何なんだっけ? 見たことないタイプだったけど」

「スキル名、なんだっけ!?」


 レインはフォークを持ったまま固まった。


「え、えーっと……俺は、“イレギュリスト”っていう……不幸を操る職業、みたいな? 《カタストロフィア》っていうスキルがあって、不幸を、こう、うまいこと……こう、ぶつける感じで……」

「説明ヘタかよ!!!」

「アッハッハハハ!!」


 即座に誰かのツッコミが飛ぶ。


「ふふっ。ウチのはもっと分かりやすいよ。《デスゲイザー》。目が合ったら、即死!」


 サヤがウインク混じりに指をピッと突きつけると、周囲の冒険者たちはどよめいた。


「なんだそれ!? やばくね!?」

「即死系!? どこの魔族だよ!」

「おい、下手に目を合わせたら殺されるんじゃ……」

「いや、ギルド内は非殺傷ってルールだろ」

「でもあれ、視線合わせないと効かないんでしょ?」

「そうそう。敵がビビって目逸らすと効かないから、そのときは俺の出番になるわけで……」


 レインが苦笑まじりに補足すると──


「カッコつけてんじゃねーぞ、ラッキースケベ王子!」

「爆発しろー!」

「くそっ、ギルドのアイドルまで持ってきやがって!」


 誰かが叫び、他の誰かがグラスを掲げる。


「ともかく! 初陣であの魔獣撃破はすげぇよ、マジで!!」

「おめでとう、《トライデント》!!」


 仲間たちの祝福が、次々と上がる。拍手と歓声が、食堂中に響きわたった。


 そんな賑やかな中でクリスティンが音もなくやってきて、ルナベールに話しかける。


「……上位の回復薬が欲しかったら言って。準備してあげるから」

「……ありがとう、クリス。必要になったら声掛けさせてもらいますね」


 そして――


「無事に戻ったこと、それが何よりの成果だ」


 静かに、けれど確かにエジールの声が響く。


「……今夜は、祝ってやる」


 レインとサヤは顔を見合わせ、ルナベールを見た。


「……仲間っていいですね!」

「だね♪」


 サヤが笑ってうなずき、ルナベールも静かに微笑んでいた。


 レインは、自分の手のひらがかすかに震えていることに気づく。


 こんなふうに誰かの輪の中にいることが、昔の自分には想像すらできなかった。父に見捨てられ、母を失い、自分が関わることで人が不幸になるのを恐れて、ずっと一人でいた。隣に誰かがいてくれる日常なんて夢のまた夢。

 だけど今、自分の隣にはサヤがいて、ルナベールがいて、仲間たちがいて――ただの気まぐれや同情なんかじゃなく、“一緒にいていい”と、自然に思わせてくれる空間があった。


 胸の奥が、じんわりと温かくなる。


 人々の笑い声と食器の音、そして、確かな絆の芽吹きが、静かに夜を彩っていた。

もし少しでも「続きが気になる」と感じていただけましたら、ページ下の☆ボタンを押していただけると嬉しいです。

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今後も楽しんでいただけるよう精一杯頑張ってまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


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