9.お絵かき
あきちゃんと私は、兄と花ちゃんのおままごとを邪魔しないように、部屋の隅でお絵かきをすることにしました。
「ナヲ様、お召し物が汚れますので。」
一張羅の着物を着ている私を気遣ってメイドさんが白い大人用の割烹着を着せてくれました。
割烹着のポケットには可愛らしい桜の刺繍がしてあります。
私が前世で主人と初めて会ったのは春。お見合いの席。
「後は若い二人にお任せして。」
というお見合いあるあるの展開で部屋に残された私達。お互いに固まっていたら、突然主人が
「こっ。ここの庭は素敵ですよ。ちょっと散歩しませんか?」
って誘ってくれて。そしたら庭の桜が三分咲きくらいで。
「満開になるにはまだもう少しかかりそうですね。桜が満開になったら又一緒に見に来ませんか?」
ですって・・・。こんなふうに、主人と思い出は色々と思い出すことはできるのですが、主人の顔は前世で90歳を過ぎたあたりから忘れてしまって。主人の顔を思い出したくても写真は空襲ですべて燃えてしまいましたし、何度も思い出そうとしても老化による脳の衰えなのか結局思い出すことができませんでした。生まれ変わった今もなぜか主人の顔は思い出せないんです。私のこと、子供たちのことをとても大事にしてくれたのに。私は主人だけを愛していましたから、自分が死んだ後は主人の元に行けるとだと思ったのに・・・。花ちゃんとお兄様が仲睦まじくままごとをしている景色を見ていたら、つい昔のことを思い出してしまいました。
『おねえさまたちのなかまにはいりたいの?』
とあきちゃんはクレヨンで書いたスケッチブックを私に見せました。
「いいえ。若い2人が楽しそうにしているから。私も嬉しくなって。つい2人を見つめてしまったの。」
『ナヲちゃんはおねえさまたちよりわかいよ。』
・・・あっ!そうでした。私は5歳の女の子でした!
「あはは。ちょっと大人の真似をしました。」
とおどけると、あきちゃんニコニコして笑っています。
そのあとあきちゃんは
『さくらがすきなの?』
「うん。とっても好き。」
『すきなたべものは?』
「周南堂のお団子かな。」
『なにあじがすき?』
「ん〜。周南堂のお団子はどれも美味しくて、みたらしも好きだし、あんこも磯部も絶品で・・・。ひとつに選ぶのは難しいな。あきちゃんの好きな味は?」
『みたらし』
「即答!!」
思わずツッコミを入れてしまいました。
『はるになったらいっしょにはなみをしませんか?ここのにわのさくらはとてもきれいだよ。』
「じゃあ、周南堂のお団子持っていくわね!このお店は私と兄さんの幼馴染の家なの。涼介くんは兄と同級生で、妹の柚木ちゃんは私とあきちゃんと同じ5歳よ。私の誕生日会に来るから紹介するね。」
『はなちゃんはあしがわる
私はあきちゃんが文字を書いている途中で
「大丈夫。心配しないで、2人とも優しくていい子たちだから。」
と私が手をつなぐとあきちゃんはうんうんとうなずきました。
このように私は声で、あきちゃんはスケッチブックに字を書いて色々話をしました。あきちゃんには大学生のお兄様と中等学生(今でいう中学生)のお姉さまがいらっしゃるそうです。お二人は海外に留学しているそうです。あきちゃんのお父様とお母様はいつもお忙しいそうで、家にいることが少ないので、親戚の三条様の家にいらっしゃるそうです。
その後も、
『すきなどうぶつは?』
「ん〜。象かな。」
うんうんとあきちゃんは笑顔でうなずきます。
『しゅみなはに?』
「読書。あっちょっと待ってて。」
私はハンカチとちりがみをいれているちりめんの巾着につけていたうさぎのピンバッチをあきちゃんに渡した。
「これ、あげる。」
『もらっていいの?』
「えぇ。もちろん。」
このピンバッチ、私が企画した絵本のキャラクター「メーメーちゃん」このピンバッチは「ガチャ」にして売り出す予定の試作品なんです。この世界にはガチャのマシーンはないので今、私の叔父さん夫婦が経営している金属加工工場に作成を依頼しているところです。服につけることを考えるとピンバッチだけではなく缶バッチも作った方が・・・など考えていると、
『たいせつにするね。ずっとなかよしでいてくれる?』
「もちろんよ!」
私には前世で歳の離れた妹がいました。なんだかあきちゃんが幼い日の妹と重なり、懐かしい気持ちでいると
『ナヲちゃんだいすき。』
なんて可愛らしいのでしょう!私は思わずあきちゃんを抱きしめて、
「私も!」
と答えました。