80.文化祭㊸
「私達、先に帰るわね。」
「じゃあな!」
「えつ?ちょっと待って。」
2人は私を置いてさっさと帰って行きました。
私は封筒を開けて手紙を読みました。
ナヲちゃんへ
文化祭お疲れ様。私は今日、後夜祭のダンスパーティーに顔を出さなくてはいけません。申し訳ないのですが、少しの間、僕の家の馬車で待っていてもらえませんか?
君の家には遅くなることを伝えています。
ナヲちゃんの都合が悪くて無理であれば、そのままうちの馬車で帰ってください。
光明
今日茶道部で、私が山之内という輩を投げ飛ばした事が問題になっているのかしら?
私は馬車に向かい、運転手さんにこのまま待たせてもらうことを伝えました。
あきちゃんの家の馬車はクッションが上等だからとても座り心地がよくて・・・。今日は色々な事がありすぎて・・・。・・・なんだか眠たくなってしまいそう・・・。
気がつくと私の目の前に超絶の美男子が!えっ。あきちゃん?私はいつの間にかあきちゃんに膝枕をされています。
え?どういうことでしょうか?あきちゃんの黒いジャケットには金糸の刺繍が施され、見るからに高そうです。私、この高そうなタキシードによだれを垂らしてないわよね?あわてて口元を触るとギリギリセーフでした。よかったと・・・。と安心している場合ではありません。
「ごめんなさい。熟睡しちゃって。」
と起き上がろうとすると、
「このまま休んでいて。」
とあきちゃんは私の耳元でささやきます。こんな高級な生地の上では落ち着きません。
「あきちゃんこんな上等な生地の上でゆっくり休むなんてできませんよ。それに私、変な態勢で寝ていたからか体が痛くっなってきて・・・。肩もこってきて・・・。」
「仕方がないな。」
と言ってあきちゃんが起き上がるのを手伝ってくれました。起き上がって姿勢を正すとボキッと大きなが音が響きました。
「ははは。本当に体がこっていたんだね。体伸ばしたら気持ちいいよ。痛いままじゃ辛いでしょ。」
この提案は正直とてもありがたいです。でも皇族の前でこんな行為を取るのは失礼です。
「大丈夫です。ありがとうございます。」
と私が言うとあきちゃんは座ったまま大きく伸びをしたり、首を曲げたり、体を左右に曲げたりストレッチを始めました。
「一緒に、しよ。」
そこまでおっしゃってくださるならと
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて。」
と座ったまま大きく伸びをして、肩を動かすと、ボキボキボキボキ・・・。さっきよりも大きな音が馬車の中に響きます。さすがにこの音は恥ずかしいです。
「ナヲちゃんお疲れ様。今日はいっぱい頑張ったんだね。」
そういうとあきちゃんは私の頭を撫でてくれました。なんだか照れくさいです。でも嬉しいものですね。こうやってほめられたのはいつ以来でしょうか。
そんなことを考えていると馬車が止まりました。
「ナヲちゃん、着いたよ。」
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。
花ちゃん→角光明の姉。
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。




