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7.三条邸で(後編)

 「いただきます。」


 前菜、スープ、魚料理、肉料理、ソルベと、味付けも見た目も素晴らしい料理が次々と運ばれてきます。素材の質も味付けも、もちろん一級品ばかりです。


 花江さんは兄の1さい年下で初等学校の3年生、9歳。

明さんは私と同じ5歳だそうです。


 私達はすっかり打ち解けあって、花江さんを「花ちゃん」明さんを「あきちゃん」兄を「しょうちゃん」私を「ナヲちゃん」とお互いを呼び合うことになりました。あだ名呼びは花江さんが提案されたのですが、流石に平民の私達が貴族の花江さんと明さんをあだ名で、しかもちゃん呼びをしていいのかと戸惑っておりましたが、三条様もそれは良いことだと快くお許しいただきました。

 お許しをいただく前から誰かさんは花江ちゃんとか明ちゃんとか呼んでいましたが。


 

 食事を終えた兄と私は、おもちゃなどがある子供部屋に誘われました。

 私達は食卓の席を立ち、メイドさんに介助をされながら食卓の椅子から車椅子にゆっくり移乗をしている花ちゃんを見守りながら待っていますと、ゆったりしたスラックスがフットレストに引っかかって裾がめくれて痛々しい赤黒い傷跡があらわになりました。車椅子に座った花ちゃんはフットレストに右足を両手でもちあげて乗せ、裾を直しながら、

「あっ。怖かったよね。ごめんね。」

と泣きそうな顔で私達に微笑みました。

「別に謝らなくていいよ。痛そうだなって思ったけど。別に僕怖くないよ。」

「うそ・・。」

「うそじゃないよ。」

「でも、私の傷跡を見た子たちは私のことお化けだって・・・。私の傷を見た子たちは、みんな怖がって遊んでくれなくなったもん。私の怪我のせいであきちゃんはしゃべれなくなったんだもん。それに私の婚約がなかったことになったって!お父様とお母様は背中と腕と足にあんなひどい傷跡が残った私は不幸でかわいそうだって!!もうお嫁の貰い手がないって!!!お父様とお母様は病院の廊下で泣いてたもん!!!!私は、私は・・・!!!!!」興奮した花ちゃんはこれまで我慢していた思いを泣きながらお兄様にぶつけます。


「えっ?僕と、ナヲは友達じゃないの?あきちゃんもいるじゃん。あきちゃんのことも花ちゃんのせいじゃないよ。それに花ちゃんがお化けなはずないじゃない。こんなにかわいいのにさ。嫁の貰い手がないなら僕がもらうよ。」



お兄様の発言に興奮して泣いていた花ちゃんは鳩が豆鉄砲を食らったようにポカンとして、兄を見つめています。あきちゃんも、父も母もメイドさんたちも三条様も同じ表情です。きっと私も同じ表情をしています。(鏡がなくてもわかります。)


 私は我にかえり、

「兄さん。大事なことを忘れてます。花ちゃんは貴族です。平民の私たちとは結婚できませんよ。」

とお兄様に耳打ちすると、

「あぁ、そんなこと? 平民は兵部省に入って、功績を上げて、剣術大会で優勝して、大勲位最高戦士賞を取れば、士族になれるだろ。ナヲは小さいから知らないんだな。」

「知ってます。兵部省に入るだけでも大変なのに、功績を上げて、剣術大会に優勝して、大勲位最高騎士団賞を取るなんて無理ですよ。だからまだ、誰もなし得ていないのですよ。」

「ナヲはそんなところを気にしてるの?」


私達のやりとりを見て、みなさんますますポカンとした顔になっています。

「しょうちゃんは面白いですね!冗談ばっかり。」

「え?冗談じゃないけど。本気だよ。僕、こう見えて剣術も勉強もそこそこ得意だし。」


 兄さん・・・。そこそこでは無理です。そして嘘でも「大丈夫だよ」って言うところですよ!!心の中の私がツッコミを入れています。


「あっ。ごめん。花ちゃんの意見も聞かず勝手に決めちゃって。」

「・・・嫌じゃないです・・・。・・嬉しい・・。」

「それに次に会うのはナヲの誕生日会だよ。もう約束してるじゃん。忘れたの?」

「でもでもしょうちゃんは良くてもお父様やお母様は足が悪くて気持ち悪い傷がある私なんかがお嫁に来たら困るでしょ。」


「父さん、母さん、ナヲ。困る?」

急に呼ばれた私達は首をぶんぶんと左右に振ります。


「じゃあ、きまりね。士族になって迎えに行くから、花ちゃんもお父さんとお母さん許可をもらっといてね。あっ三条様の許可もいるんだっけ?」


すると三条様は腕で大きな丸をつくり、しゃくり上げながら大泣きしています。


「あきちゃんもいい?」

あきちゃんも泣きながら満面の笑みで腕で大きな丸をつくりました。


兄さんのお陰で素敵な食事会になりました。


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