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6.三条家にて(前編)

 馬車のドアが開いた瞬間目に飛び込んできたのは整列した20人くらいの執事さんとメイドさん。その中央には三条様。40歳ぐらいの長身な執事さんが馬車から三条様の所までエスコートしてくださりました。


 広い日本庭園と立派な日本建築のお宅。敷地内の目に入る全てが「立派」で緊張してしまい手と足が一緒に動いてしまいます。


 今日の父と、母と兄はとてもスマートに貴族の様な立ち振る舞いでまるで別人のようです。

前世の経験を合わせると1番年上の私が1番緊張していてなんだか恥ずかしいです。

「三条さま、お招きありがとうございます。」

父に合わせ、母と兄と私が息ぴったりにお辞儀をします。(昨日家族4人で練習した甲斐がありました!)


「ようこそ!よく来てくれたね。小南こみなみくん。」


・・・そうでした!まだお伝えしていませんでした!うちの苗字と父の名前(お父さん、忘れていてごめんなさい!!)うちの苗字は小南です。父の名前は小南敏光こみなみとしみつです。



「堅苦しい挨拶はこのくらいにして、寒いから中へ。」


三条様に促されて家の中に入ると、目に見える光景全てが立派なものばかりで目が回りそうになります。うちも平民ながら比較的裕福な家ではありますが、三条様の家はその比ではありません。


 私達は庭がよく見える応接間に案内されました。


トントントン。


「どうぞ。」


「失礼致します。」


 引き戸が開くと車椅子を押す若いメイドさんと、私より小さな子を抱いたメイドさんが入ってきました。車椅子に乗っているのは10歳くらいのおさげ髪の女の子。美少女とは彼女のためにある言葉ではないかと思うほどです。紺色の少しゆったりしたスラックスに赤地に白の雪の結晶柄のセーターがよくにあいます。


 メイドさんにしがみついた子は、顔をメイドさんに押しつけて固まっています。車椅子の女の子と色違いの茶色のスラックスに白地に赤の雪の結晶柄のセーターを着ています。


「この子たちは、私の親戚で花江はなえあきら。正次朗くんとナヲさんに友達になってもらえないかと思ってな。」


「花江です。よろしくお願いします」


花江さんは座ったまま丁寧にお辞儀をしました。メイドさんに抱かれた明さんはじっと固まったまま動きません。


「小南正次朗です。よろしくお願いします。」

「小南ナヲです。よろしくお願いします。」



その時、メイドさんに抱かれた明さんが顔を上げてこっちを見ました。


〜〜っ!!なんてかわいいの?!花江さんによく似てこちらも美少女。泣いていたのかしら、瞳が潤んでキラキラ光っています。まるで少女漫画のヒロインです。


花江さんも明さんも本当に可愛くて、お人形さんみたいです。 


「あっ。僕、三条様の家で暇になったら遊ぼうと思ってトランプ持ってきたんだ!!」とポケットからトランプを取り出しました。

「まぁ、兄さん、暇だなんて、三条様に失礼でしょ。」

「だって、ただ来てくれって誘われたんだよ。何をするかも知らなかったし。な〜んだ、こんなにかわいい子たちと遊べるのなら、もっとおもちゃ持ってくればよかった!!

あーー!それよりも、ナヲの誕生日会に花江ちゃんと明ちゃんを招待すればよかったんだ!そしたら予定通り今日誕生日会ができたんだ。」

「もう!兄さん、何て失礼な事おっしゃっているんですか!! 」

「コラ、正次朗。口を慎みなさい!」

「いや、正次朗の言う通り一緒にうちでナヲの誕生日会すれば。」

「あなた!!」


「わーはっはっは。」

「ふふふっ。」

「〜!!☆♪」


私達のやりとりを見て、三条様と花江さんと明さんが笑っています。(明さんは声を出さずに笑うんですね。)


「あきちゃんがが笑ってる・・・。」

「本当じゃ。」


私達家族が戸惑っていると

「ナヲさん。わしのわがままですまなかったね。」

「いえ。いいんです。誕生日会はちゃんと後日行ってもらう予定ですし。」


「・・・え?」

私の目の前に南天の枝が。

明さんは潤んだ目で南天の枝をモジモジしながら私に差しています。

明さんは顔がかわいいのはもちろんですが、同じ歳の私よりも小柄でとっても可愛い。

前世で孫やひ孫が「尊い」と言っていましたが、このような状況をいうのでしょうね。


「これを私にくれるのですか?」

明さんはこくりとうなづきました。

「私の着物の絵と一緒です!ありがとうございます!」


「あれ?あきちゃん!これって花瓶の南天じゃない?」

「すみません。私が目を離してしまって。」

アワアワしているメイドさんに


「花瓶の枝などどうでも良い。1本でも10本でも。なんなら庭の木丸ごとでも。」

「まぁ、おじ様ったら。」


「ナヲの誕生日は来週の日曜日にやるんだけど、花江ちゃんと明ちゃんも来たら?」


「正次朗くん、わしは招待してくれんのかね?」

「三条様も参加したいって。どうする?ナヲ?」

「ここはわしに是非いらしてください!というところじゃないのかね。」 


そんな私達のやりとりを明さんはニコニコしながら見ています。

そういえば、明さんの声を一度も聞いていないような・・・。私の疑問が顔に出ていたのか三条様が、


「明は2年前、花江が怪我をするところを見てしまってな。以来ショックで喋れなくなってしまってな・・・。」

「私の怪我のせいであきちゃん喋れなくなっちゃって・・。さっきあきちゃんが笑ったの事故以来初めてじゃないかな。」


「じゃあ、これから一緒にたくさん笑いましょ。」


私は戦争で大切な人を亡くしました。主人の戦地広報を受け取った時はショックで目の前が真っ暗になり、主人を追って子供たちと死のうかととてもバカなことを考えてしまいました。でもその時寝ている息子の寝顔が穏やかで笑っているように見えたんです。その瞬間生きなければこの子たちを守らなければと力が湧いたんです。


私は明さんの手を取りました。兄さんももう片方の手をとりました。すると明さんはニッコリと何度もうなづきました。

「よかったね。あきちゃん。」

花江さんはそう言って涙を流しながら優しく微笑みました。その様子を見ていた三条様は号泣していました。





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