54.文化祭⑰
狸からいつもの私に戻った私は、調理担当の瀬川君と、佐藤さんと三人で黙々とクッキーにのラッピングに使うリボンづくりをしています。調理担当者は文化祭前日と当日までもう仕事はほとんどないので、私たち三人以外は人手の足りないところの手伝いに行っています。
「俺、なんか目がチカチカしてきた。」
「私もこのような作業は初めてで、時間がかかってしまいすみません。それにしても小南さん。あなた器用に作るわね。とっても上手。私のリボンの2倍は作ってるんじゃない?」
「私、細かい作業をするのが好きなの。たまに家でも手芸をしたりしているから。」
・・・確かに、たまに手芸をしていますが、前世で子供の学費を稼ぐために内職も結構やっていたんですよね。昼間は勤めに出て、夜はラジオを聞きながら内職をするのが私の30代から40代の頃の日課でした。だから年期が違います。
「そういえば、二日目、日曜日の後夜祭のダンスパーティーには瀬川さんと、小南さんは参加されないのですか?」
「俺はパス。そもそもダンスを踊ったこともないし、踊る相手もいないからさ。」
「右に同じです。私、自慢じゃありませんがリズム感というものが全くなくて。中等教育学校の体育の授業でダンスを踊ったんですが、センスのなさに愕然としてしまいました。」
「小南さんにも苦手なことがあったのですね。学業優秀、スポーツ万能、お料理も手芸も上手でいらっしゃって。私尊敬していましたの。」
「ありがとうございます。ほめていただいても何も出てきませんよ。」
・・・とポケットを探すと、あ、ラムネがあった。ラムネのブドウ糖が脳にいいからいつも持ち歩いていたんだった。今朝ポケットに入れたことを忘れている時点で私の脳にブドウ糖が効いているのかはわかりませんが。
「あ。ラムネが出てきました。佐藤さん、瀬川さんラムネを食べながら少し休憩しましょう。」
私たちはラムネを食べながら休憩をして再び作業に戻りました。リボン作りは何とか今日中に終わらせることができました。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。
花ちゃん→角光明の姉。
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部なんですよ
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。