53.文化祭⑯
「白雪姫!目をしゃまして!」
あぁ。やってしまいました。セリフを噛んでしまいました。あれほど練習し、役作りをしてきたのに。失敗してしまいました。
こうして通しのリハーサルが終わってしまいました。
「はぁ。」
「小南さん。大丈夫ですよ。かわいい狸でしたよ。」
「中村さん、せっかく素敵にメイクしてもらったのに。すいません。」
「そこの狸さん。何落ち込んでるのよ。リハなんだからさ。」
「白雪姫様ごめんなさい。本番は失敗しないように頑張ります。」
中村さんと、かえでさんに励まされながら教室に戻っていると、
「あ。」
注意力が散漫になっていたせいか段差につまづいてしまいました。着ぐるみを着ているせいで手が前に出せません。受け身をとろうと体を傾けたところ
「おっと、危ない。小南さん大丈夫?」
「その声は・・・。九条さん?」
「けがはない?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
九条さんに受け止めてもらい、倒れずに済みました。支えられながらなんとか体を起こすと、
「小南さん。かわいいね。狸の演技も良かったよ。」
「そんなことありません。私台詞を噛んでしまって・・・。でもこの狸」
「そうなんだ、白雪姫が目を覚まさなくて動揺している演技かと思ったよ。」
「え?」
「なんか、必死な感じが伝わって。」
「ありがとうございます。」
「眼鏡をしてないと危ないから教室まで送るよ。」
「大丈夫ですよ。もう元気になりましたから。眼鏡がなくても大丈夫です。」
「元気になっても視力は回復しないから。さ。行こう。」
九条さんは親切にも私の手を引いて、教室まで送ってくれました。
教室に戻った私に、かえでさんと中村さんは、九条さんとどういう関係か、お付き合いをしているのか、九条さんの行動に対してどう思ったかなど立て続けに質問をされます。
「私たちはお付き合いしていませんよ。倒れるところを助けていただいて感謝しています。それとたない演技を評価してもらいとてもうれしかったです。本番ではもっといい狸の演技ができるように頑張ろうと思いました。」
「で、」
「で。って?何?かえでさんの『で』の意味が分からないのですが。」
「小南さん、私は意味わかります。分かりやすく言いますと九条さんのことをどう思ってますか?」
「礼儀正しくて、誠実で、社交ダンス部だからでしょうか。姿勢も良くて。優しい方だと思います。」
2人からの尋問はメイクを落としている間、着替えている間しばらく続きました。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。
花ちゃん→角光明の姉。
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。




