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39.文化祭④

「小南さん、このあたりで買い物できる場所はあるのかい?」

「ここから歩いて5,6分の所に商店街があるからそこでを買い物をしましょ。」

「わかった。ところで、君はよく一人で買い物に行ったりするのかい?」

「ええ。一人でも行くし、お友達と一緒に行くこともあるわ。」

「そうなんだね。・・・僕は、一人で買い物に行くことも友人と買いもに行ったこともなくてね。だから・・・初めてなんだ。・・・初めての買い物に君と二人で行けたこと・・・うれしく思う。」

「まあ。そうなんですね!九条家の御子息ともなるとお忙しくてなかなか外出もできませんよね。それにお買い物は使用人の方々がなさるんでしょ。」

「・・・まあね。」


先ほどから九条さん、顔が真っ赤になっています。きっと初めての買い物に心が躍ってるんですね。前世で幼い子供がお使いにチャレンジする番組がありましたが、九条さんはあの番組で一生懸命買い物をしていた子供のようです。きっと今九条さんは、初めての買い出しに対してワクワクしたり、不安になったりしているんでしょうね。この買い出しが九条さんにとって思い出深いものとなるように(あの番組のスタッフさんたちのように)私がしっかりサポートしなくては!!



「あ。たくさんのぼりが見えた。あれが商店街かい?」

「はい。そうです。賑やかでしょ。」

そう答えて九条さんの顔を見ると、緊張した顔をされています。よいパフォーマンスをするにはまず緊張をほぐすところから始めないといけませんね。よし!


「九条さん、まだ時間はありますし、買い出しの前にちょっと寄り道しませんか?」

「寄り道って。どこに?」

「ついてきてください。」



私は九条さんを連れてお肉屋さんに来ました。

「あら。いらっしゃい。ナヲちゃん。あら?あら?おとーさん!おとーさん!!ナヲちゃんが彼氏連れてきたよー!!」

「あ。いや。僕は・・・。」

お肉屋さんのおばさんに圧倒されて九条君は真っ赤になっています。

「いらっしゃい。おっいい男じゃないか。俺の若いころにそっくりだ。」

「でしょ。あー嬉しいねー。小さかったナヲちゃんが彼氏を連れてきてくれるなんてね。」


「い。いや。・・僕は・・。」

「おじさんおばさん。残念ながら九条さんは彼氏ではないんですよ。」


私はお肉屋のおじさんとおばさんに文化祭で使う金型のことや、買い出しに来たことを説明すると、

「なーんだ。うちの母ちゃんはおっちょこちょいだからな。悪かったね。」

「い、いえ・・。」

九条さんは赤くなってうつむいています。お二人の勢いに圧倒されたようですね。


「おじさん、コロッケふたつください。」

「はいよ。」

九条さんがお金を出そうとしたので

「私がお誘いしたんで。」

「いや。僕が支払うよ。」

「いいえ。私が。」


「二人とも仲良しだね~。」

おばさんはニコニコしながら私たちを見ています。

「じゃあ。割り勘にしましょ。」

私たちは各自でコロッケ代を支払いました。



「ごめんね~。私てっきりナヲちゃんが彼氏を連れて来たんだと勘違いしちゃってさ・・・。」

「あばさん、気にしないでください。全然気にしていませんから。ね。九条さん。」

「あ。ああ。」


「はいよお待たせ。」

「おじさん。メンチカツは頼んでませんけど。」

「サービスだよ。はい。これお茶。天気もいいからそこで食べていきな。」

「じゃあ。お言葉に甘えて。ありがとうございます。」

「ありがとうございます。」




私たちは店の脇にあるベンチに座り、コロッケとメンチカツを頂くことにしました。

「いただきます。」

「いただきます。」


「う。うまい。 」

「でしょ。ここのコロッケ最高なんです。この味を九条さんにもぜひ食べていただきたくて。」

「素敵な店を紹介してくれてありがとう。」

「いえいえ。喜んでいただけてうれしいです。」

「僕はこうやって君と・・・」

「ナヲちゃーん。デートかい?」

食料店のおじさんから声をかけられたとたん九条さんはまた顔が真っ赤になってしまいました。ただでさえ初めての買い物に緊張しているのに、突然知らない男性から声をかけられたら戸惑ってしまいますよね。


「おじさんこんにちは。これからお店に伺おうと思ってたんです。」

「こ。こんにちは。」

九条君は姿勢を正しておじさんに挨拶をすると、

「二人で夕飯の買い物かい?おあついね。」

九条さんはまたまた真っ赤になって固まってしまいました。九条さんは人見知りなのかしら。確かに、入学当初の彼は、中学校からの友人たちとばかり交流して平民の私たちが話しかけてもそっけない態度をとられていましたね。あっ。私ったらすっかり失念していました。平民の私と付き合っていると勘違いされることに迷惑されているんだわ。冷静に考えると貴族の方々は、婚約者がすでにいらっしゃることもあるんですよね。うっかりしていました。私はここに来ている事情をおじさんに説明すると、


「なんだい、お似合いだと思ったんだけどよ。」

「残念ながら、九条様とはただの友人、クラスメイトです。」

これでよし。九条さん、しっかり誤解は解いておきましたよ!九条さんもう大丈夫ですよ。彼を見ると、何とも言えない暗い顔に・・・。私との仲を勘違いされたのがよほど堪えたのですね。貴族の方々の交際や結婚は家同士のつながりや、政治にまで影響するといいますものね。これからは気を付けないと。


「文化祭か、青春だな。俺は初等教育学校しか出てないから文化祭とかやったことねーんだよ。うらやましいぜ。」

「おじさんも文化祭ぜひいらしてください。」

「そうか!うれしいね!」

「では、食べ終わったら伺います。」

「じゃ、待ってるぜ!」

おじさんは手を振りながら行ってしまいました。


「九条さん、すみませんでした。」

「えっ?何が?」

「私との仲を勘違いされて、居心地が悪かったでしょ。」

「いや、そんなことは。ただ、先程のご主人も、肉屋のご夫妻も気軽に異性との交際について私達に話をされるものだから驚いてしまってね。」

「そうですよね。すみません。みなさん私が小さい頃から仲良くさせていただいていまして、あのようなやりとりは挨拶みたいなものなんですよ。だから、右から左に受け流してください。」

「わ、わかった。・・・あの。小南さん、ぼ、僕は、君の彼氏に間違われたこと、嫌ではなかったから。」

「そうなんですね。よかった。貴族の方々はすでに婚約されている方もいらっしゃるからこのような誤解を受けるのはまずいのではと心配していました。じゃ。食べ終わった事ですし,買い出し済ませちゃいましょう。」

「わ、わかった。」


私たちはお肉屋さんのご夫婦にお礼を言って食料店にむかいました。


登場人物

小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。

角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。

小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。

花ちゃん→角光明の姉。

坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。

水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部

長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。

吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。

野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。

野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。

三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。

市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。

相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族

九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。

春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。

春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父。

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