34.朝一の教室で
誰もいない教室って、なんか神聖な感じがしますね。今日も一日頑張りましょう。窓を開けて、空気の入れ替えをしてからいつも通りに勉強の準備をします。昨日倒れてしまって午後の授業を受けることができなかったから今日は数学と英語を学びましょう。
私は数学の復習をしていると
「おはよう。」
「おはようございます。角様。」
廊下には警備員の方々がいらっしゃいます。
「朝から熱心だね。」
「はい。昨日は体調不良で午後の授業を受けることができなかったから復習をしようと思いまして。ちょうどよかったです。昨日は大変お世話になりました。角様の馬車に乗せていただいた上に部屋まではこんでくださって。本当にありがとうございました。これ、周南堂のパンです。」
「こんなにたくさん、ありがとう。」
「蜂蜜パンとジャムパンは涼くんからのサービスです。」
「うれしいな。今日の昼食にいただくよ。」
「ぜひ。最初に私が甘いパンばかり選んでしまって・・・。涼くんから角様が胸焼けするって言われてしまいました。」
「ははははは。私も甘いパンには目がないよ。ちなみにこの中でナヲちゃんのおすすめは?」
「やっぱりアンバターですね。」
あきちゃんはパクリとアンバターパンを食べました。
「周南堂のあんこは世界一だね。ナヲもどーぞ。はい。あーん。」
「ありがとうございます。でもこれは角様に差し上げたものですし、お食べください。角様に食べてもらうために買ってきたものですから。あっ。お茶、お入れしますね。」
「ははは・・・。そっか。そうだよね。ありがとう。」
「いえいえ。はい。お茶。どうぞ。」
私はお茶をあきちゃんに渡すと、
「ナヲちゃんは再会してから他人行儀になったていうか・・・。警備の者は廊下にいるけど、今は二人きりだよ。角様って呼ばれるのは、寂しいよ。名前で呼んでくれないのかな?」
「あっ。そうでしたね。」
その時、
「おはようございます。」
クラスメートの間さんが教室に入ってきました。
「おはようございます。相田さん」
「おはよう。」
私たちが挨拶を返すとあきちゃんを見た相田さんは
「角様がなぜ・・こちらにいらっしゃるのですか?」
「私の留学していた独逸の学校より、この学校は英語と数学の授業が進んでいてね。先生に個人的に教えて頂くことになっているのだけど、いらっしゃらない時は、学年主席のナヲさんに教えてもらうようにと言われていてね。早速教えていただいているわけさ。」
「そうなんですね。私、昨日角様がナヲさんを訪ねていらっしゃったので、お二人はどのような関係かしらと気になっていたんですが・・・。」
「ああ、英語と数学を教えてもらうこと、先生からナヲさんに伝えるとおしゃって頂いたんだけど、私が習うのだから私の方からきちんと伝えたくて。それで昼休みにナヲさんに勉強を教えてくれないかとお願いしにきたんだ。そしたら廊下に人だかりができてしまって、C組のみなさんに迷惑をかけてしまうし、勉強を教えてもらえる状況ではなかったから、静かなところへ移動させて貰ったんだ。」
「そうなんですね。すみません。角様にこんなことお尋ねして。」
昨日あきちゃんが私を訪ねてC 組に来たのは数学と英語を私に習いに来ていたんですね。それなのに、私、あきちゃんが男性で、しかも皇子であったことに戸惑い、さらに倒れてしまって・・・。あきちゃんにとても迷惑をかけてしまいました。昨日私が倒れてしまったばっかりにあきちゃんは勉強を習えなかったんですね。こうしてはいられません。
「角様、数学はどこまで学んだのですか?昨日は体長不良でお教えすることができませんでしたから、早速始めましょう。相田さんも一緒にどうですか?」
「私、数学が苦手なんです助かります。」
「では、角様、相田さん、授業を始めましょう。」
私は教室の黒板を使い正弦定理と余弦定理をあきちゃんと相田さんに教えました。始業開始5分前には公式やグラフで黒板がびっちりになってました。今朝の私の授業には登校して来たクラスメイトもぞくぞくと参加し、終了時にはC組の半分くらいの生徒が私の授業を受けていました。朝のホームルームにいらっしゃった担任の市川先生が今朝の授業のことを聞き、希望者に朝補習をしていただけることになりました。
「角様よかったですね。明日からは先生が教えてくださいますよ。」
「あ・・あぁ。」
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。
花ちゃん→角光明の姉。
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族




