32.馬車の中で(男同士の会話②)
「あきちゃん怖いよ・・・。あきちゃんのナヲへの思いは十分に分かった。俺は、妹であるナヲはもちろん、将来の弟であるあきちゃんにも幸せになってほしいと思ってる。だってあきちゃんが幸せになってくれないと花ちゃんが悲しむからね。」
「え?」
「とりあえずあきちゃんがナヲと結ばれるには、ナヲがあきちゃんを男性として意識して恋をしないと話は始まらないんだよね。これが一番難しいんだよね。」
「え??貴族になることよりも?」
「ナヲは初等学校6年の時の検査で神力もちだってわかってさ。そのころ幽魔が増えた時期だったからこの力を役立てたいって俺と訓練に行くようになったんだけど・・・。中等教育学校に通う頃には兵部省からスカウトが来るようになってさ。・・・神力も剣の腕前も超一流なんだよね。あまりにも強くて今は兵部省の騎士の方々にまじって訓練をしているよ。だから兵部省に入って、功績をあげて、剣術大会で優勝して、大勲位最高戦士賞を受賞することはそんなに難しくなさそうなんだよね。」
「え????」
「だから、俺のかわいい妹は、俺以上に文武両道で貴族になれる資質も十二分にあるってこと。ただ、とても残念なことに異性や恋愛には全く興味はなくて、さらに言えば、高齢の神官かっていうくらい達観しているっていうか・・・。わかりやすく言うと枯れてるんだよね。そんなんだから、これまで彼氏なんかできたことないんだよね。」
「え?????」
「だから、早い話あきちゃんの頑張り次第ってこと。ナヲに対してもそうだけど、皇族としてもね。せっかくナヲが振り向いたとしても皇族としての力がなければ反対されてそれで終わりだしね。まっ。後悔しないように頑張れよ!」
「うん。」
「・・・そうだ、いいこと教えてあげようか。ナヲは毎朝学校が開門される時間、朝一番で学校に行って勉強しているよ。友人たちと学校で学べることが何より幸せなんだって。」
「ありがとう、正ちゃん。」
「さっ。そろそろナヲを起こさないとな。」
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。
花ちゃん→角光明の姉。
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。