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31.馬車の中で(男同士の会話①)

[正ちゃんは、もう姉様には会いましたか?」

「今朝、会いに来てくれたよ。一緒に周南堂にも行ったよお団子たくさん買ってたよ。花ちゃん、杖をついて歩けるようになってて驚いたよ。」

「姉様は正ちゃんのために頑張ったんだよ。独逸に行って初めの1、2年は痛みが強くてリハビリのたびに泣いていたけど、正ちゃんの手紙を見ながら正ちゃんに歩いているところを見せたいって頑張ったんだよ。」

「うん。今朝聞いた。それにしてもあきちゃんが男の子だったなんてね。」

「やっぱり正ちゃんも私を女の子と思ってたの?」

「あきちゃんを男の子と思っている人は誰もいなかったよ。今のあきちゃんを見たら、父さんも母さんも、周南堂のみんなも腰を抜かすよ。」

「ははは。そっか。ねえ、正ちゃん、私たちの家のこと聞いた?」

「あぁ。今朝花ちゃんに聞いたよ。」

「どう思った?」

「どうって?何が?」

「何がって・・・。」

「別に花ちゃんは花ちゃんだし、あきちゃんはあきちゃんだし。2人の本当の姿っていうのかな。身分とかさ・・・。三条様と親しくて、お宅に一緒に住んでいて、苗字は秘密で名前しか知らされなくて、手紙を個人的にやり取りできない人ってどんな人だろうとって色々考えたらさ僕たち平民が親しくできるような方々じゃないんだろうなって思ったし。第一皇子が体調不良になって政治がごたごたした時から花ちゃんとあきちゃんからの手紙が来なくなったし。・・・父さんと母さんは花ちゃんとあきちゃんが高貴な身分の方だって知ってたみたいだけどね。俺と花ちゃんのことも心配していたみたいだし。」

「正ちゃんは姉様のことが今も好きなの?」

「好きだよ。正直な話をすると、今考えたら、花ちゃんとあきちゃんが独逸に行ってから、俺が花ちゃんを本当に好きだったんだって改めて実感したかな。」

「会っていない時に?」

「うん。会えない間、花ちゃんに会いたい、寂しい、恋しいって気持ちが積もってきてね。・・・花ちゃんやあきちゃんの立場とかなんとなくわかったのに諦めきれなかった。はなちゃんと再会出来るかもわからなかったけど・・・。再会したときにがっかりされたくないって思ってさ。すんごく頑張ったんだ。身分のこととか色々あるけど、俺が貴族にならなければ花ちゃんとのこと、話を進めることはできないからね。」

「正ちゃんはかっこいいね。姉様が好きになるのも納得だよ。」

「そうだろ。あきちゃんが女の子だったら俺を好きになって、花ちゃんとあきちゃんで俺を取り合いしていたかもな。あー。あきちゃんが男でよかった。」

「ははは。そうかもねー。・・・ナヲちゃんの顔色、よくなってきたね。よく寝てる。よかった・・・。」

「ちょっとちょっと、恋する男の子の目になってるよ。」

「あっ・・・。」

「ダメだよね〜。第二皇子がそんな視線を平民に向けちゃ。今、皇帝の跡継ぎ問題でお偉いさんたちが揉めてるでしょ。」

「私は兄様が跡を継ぐのが一番いいと思ってる。これまで兄様が国の為国民の為にどれだけ尽くしてきたか・・・。私はそんな兄様を皇太子として支えたい。」

「それは第二皇子、光明様の考えですよね。第一皇子の光輝みつてる様は、体調が悪くもう5、6年公務ができていないよね。皇帝は第二皇子の光明様を後継に考えるのは当然の事。そして国のお偉いさんたちも同じ考えだと思うよ。何より幽魔が増えた今、体調が優れない第一皇子の光輝さまが皇帝になる事に国民は賛成するだろうか?」

「そっそれは・・・。」

「皇帝にしても皇太子にしても、お相手になる方が平民というわけにはいかないよね。そもそもナヲが貴族になる為の試練をクリアしなければお相手候補にすらなれない。加えてナヲはあきちゃんを女の子と思ってたし。恋愛感情も持っていない。将来についても叔父や叔母が経営している出版社か金属加工業を継ぐことを考えていて貴族になりたいなんて微塵も感じていない。」

「そっか。」

「ナヲは自分が考えたり、作ったもので人々の暮らしや心を豊かにしたいんだと。」

「ナヲちゃんらしいよね・・・。私は、小さい頃に三条のおじさんの家で初めてナヲちゃんの名前を聞いた時、顔を見た時、声を聞いたとき、匂いを感じた時、優しさに触れたとき・・・・。何か体中がこう・・・ってなんて言えばいいんだろう。うまく言葉にできないんだけど、何かが溢れてきたんだ。はじめはこの気持ちがよく分からなくて。でも何度か会っているうちにこれが恋なんだって、なぜか確信したんだ。私はあの頃姉様のこと、自分が話せなくなったこと、家のこと色々あって心が潰れそうになっていたんだけど、ナヲちゃんといると落ちついて、なぜか懐かしい気持ちになったんだ。心のパズルが少しづつ埋まっていくような。だから・・・・。自分が自分でいるためにはナヲちゃんと一緒にいたいって思うのは私のわがままだってわかっている。何度もあきらめようとした。ナヲちゃんが望まなくても私のものにしたいって思ってしまうんだ。そんなことを考える自分が間違っているってわかっている・・・。でもこの気持ちどうしようもできないんだ。」


登場人物

小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。

角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。

小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。

花ちゃん→角光明の姉。

坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。

水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部

長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。

吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。

野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。

野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。

三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。

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