308.親離れ(あきちゃん視点⑫)
議事堂に着いた私たちは一旦皇族控室に案内された。控室にはすでに両親と三条のおじさんがいた。
「おお、来たか。」
父様が私と兄様に言った。兄様は
「お待たせして申し訳ありませんでした。」
と言って頭を下げた。父様は
「よいよい、私たちが早く着いただけだ。光輝も光明もよく休めたか?」
と尋ねた。
「はい。昨夜八咫烏と一つになったことで体調がすこぶるよくて。おかげでよく眠れましたし、食事も今まで以上においしく頂いています。」
「そうか。それは良かった。光明は?体の調子はどうだ?今日はこの後受診だろ?」
と今度は私に尋ねた。
「はい。ご心配をおかけして申し訳ありません。私は大丈夫です。」
と答えた。すると三条のおじさんは
「その割には冴えない顔をしておるな。」
と言った。なんだよ・・・・。おじさんは両親よりも私と長く過ごしている。そのせいか私の心を簡単に見抜くのだ。今、私が一番会いたくない相手だ。私は
「そんなことはありません。もしかしたら昨日の疲れが残っているのかもしれません。」
と答えた。すると
「今朝、光枝(花ちゃんの本名)が正次朗くんが無事に帰ってきてよかったと喜んでたぞ。昨夜戻ってきた正次朗くんに会いに行っておったから。光枝は正次朗くんが学校の音の調査に行くとわかった日からずっと正次朗くんのことを心配しておったからな。光明も嬉しいんじゃないか?一緒に帰ってこれたんじゃし。2、3日の入院と聞いておるがの。それなのに光明は浮かない顔をしておるから気になっての。」
と三条のおじさんはあえてナヲちゃんの名前を出さずに言った。そういうところも嫌なんだよ。何かあったって思うのならほっといてくれよ。そう思いながら
「そうですか。」
と私は答えた。
「受診はあそこだろ。大学病院じゃろ?」
と三条のおじさんは母様に尋ねた。すると母様は
「そうです。帝大の大学病院です。」
と答えた。
「彼女も今、そこにおるから見舞いに行ってくるといい。」
と三条のおじさんは提案すると、兄様も両親までもがこの提案に賛成した。議会が始まるまでまだ10分ちょっとある。私はここにいるとナヲちゃんのことを考えてしまうと思いトイレに行くと言って席を立った。私は警備員とトイレに向かっていると三条のおじさんが
「光明。連れションだ。」
と言って警備員と共にやって来た。私たちはトイレに入り並んで小便器前に立つと、三条のおじさんは
「光明。祠への道中は命がけだ。後悔しないよう行動しなければ・・」
「わかってる。」
私はおじさんの話を遮って答えた。
「わかってる。・・・わかっているから・・・。」
と用を足し終えてズボンを整えながら答えると、用を足し終えたおじさんはズボンを整えてから私を抱きしめた。
「光明はよくやっている。他の誰かと比べる必要はない。自分のできることを一つづつやっていけばそれでいいんだ。」
と言って私の頭を撫でた。
「おじさん先に手を洗ってからにしてください。」
「おお、すまんかった。」
それからおじさんは(太政大臣なので)先に議会場に行き、私は控室に戻った。
トントントン
「お時間です。」
私達は呼ばれて議会場に向かった。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
皇帝陛下→角高順 光明の父。
皇后様→角優花 光明の母。
皇太子殿下→角光輝 光明の兄。(みっちゃん)
角光枝→角光明の姉。(花ちゃん)
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。
星野由美子→天文部、部長。
一ノ瀬雄太郎→類の祖父、八咫神神社神主
一ノ瀬サツキ→類の母
一ノ瀬勇→類の父、神祇省勤務
浜田さん→皇太子殿下角輝光の専属執事
三木さん→皇居の女中頭
井沢団長→近衛騎士団団長
鶴崎→光枝(花ちゃん)の専属執事
 




