307.親離れ(あきちゃん視点⑪)
「光明様、そろそろお時間です。」
三木さんが迎えに来て、私を馬車に誘導をする。帝国議会は議事堂で行われるため、ここから馬車で10分ほど揺られなければならない。
「おはよう光明。」
馬車には既に兄様が乗っていた。兄様は正装(騎士団式正装)がよく似合う。私は兄様の姿に一瞬見とれてしまった。
「おはようございます。」
と私は挨拶をすると馬車の椅子に腰掛けた。
「光明、昨夜は眠れたか?」
「いえ。あまり・・・。」
「そっか。」
議事堂に向かう道中、私は先程作成した報告書を読み返していた。
「光明、私も見せてもらっていいだろうか。」
「はい。どうぞ。」
兄様は私が書いた報告書をじっくり読み、
「よくできている。私が寝込んでいた時には、光明に公務を手伝ってもらってたもんな。ありがとな。」
「うん。・・・兄様、体の調子はどう?」
「調子はすごくいいよ。でも私と八咫烏が一つになってから数時間しかたっていないけど、隣にナヲちゃんがいないことが寂しいな。」
私は、何て返事をしたらよいか考えていたら、
「そういえば、昨日午後の会議の時にナヲちゃんがわき目もふらず光明にセーターを編んでたけど、たぶん聖なる祠に行くまでには間に合わないだろうね。帰ってからのお楽しみかな。」
と言って兄様は私を見た。ナヲちゃんは私があんなことをしたのに律儀にセーターを編んでくれているのか・・・。でも私は貰えない・・・。あんなことをしてしまったから。それにナヲちゃんは完璧主義者だから単に中途半端になるのが嫌で惰性で作っているだけかもしれないし・・・。そんなことを考えていたら、
「光明、無事に帰って来なきゃな。」
と兄様は笑って言った。
「うん・・。」
そう私は返事をすると、これ以上兄様に話しかけられないように寝たふりをした。馬車にいる時間がとても長く感じた。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
皇帝陛下→角高順 光明の父。
皇后様→角優花 光明の母。
皇太子殿下→角光輝 光明の兄。(みっちゃん)
角光枝→角光明の姉。(花ちゃん)
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。
星野由美子→天文部、部長。
一ノ瀬雄太郎→類の祖父、八咫神神社神主
一ノ瀬サツキ→類の母
一ノ瀬勇→類の父、神祇省勤務
浜田さん→皇太子殿下角輝光の専属執事
三木さん→皇居の女中頭
井沢団長→近衛騎士団団長
鶴崎→光枝(花ちゃん)の専属執事




