306.親離れ(あきちゃん視点⑩)
私たちが会議室を出ると、光枝姉様(花ちゃん)の専属執事の鶴崎さんが正ちゃんのもとに来て何やら耳打ちをした。すると正ちゃんは鶴崎さんについて行ってしまった。あぁ、姉さんが来ているのか。姉様は正ちゃんが心配だったんだな。2人はうまくいっているんだな・・・。
「いいな・・・。」
思いがポロリと口から漏れてしまった。私はもうナヲちゃんをあきらめたのだから。私は慌てて自室に向かった。
私は自室に戻ると風呂に入った。風呂から上がり全身を鏡で見ると、太ももと膝に痣ができていた。天照の世界と家庭科室を行き来するときにできたものだろう。・・・・ナヲちゃんや正ちゃん、大川さんに守ってもらったおかげで私はほぼ無傷・・・。私はナヲちゃんや井沢団長の姿が目に浮かんだ。守ってもらってばかり・・・。自分の身も自分で守れない私が祠に行けば又皆を危険にさらし迷惑をかけてしまう・・・。情けない・・・。私は寝巻を着て、ベッドに向かった。
ベッドに入ってもなかなか眠ることができない。考えるのはナヲちゃんのこと、これからのこと。色々なことが頭の中でぐるぐる回っている。早く眠らなければ・・・。部屋の中に響く時計の針の音を聞きながら私は眠れない夜を過ごした。
「おはようございます。」
三木さんに起こされて私は時計を見た。時計は7時を指している。なかなか眠れず結局3時間程度しか眠ることができなかったが、頭はすっきりしている。
「光明様。今日のご予定をお伝えいたします。朝9時から帝国議会の参加。11時から病院での検査。14時からは騎士団との打ち合わせがございます。お疲れであるとは思いますがよろしくお願いします。」
「わかった。」
「食事はお部屋にご用意いたしております。温かいうちにどうぞ。」
「ありがとう。」
正直食欲はなかったが私が今体調を崩しては皆に迷惑がかかる。私はご飯とおかずを味噌汁で流し込み、何とか完食した。
「本日は帝国議会がございますので騎士団式正装に着替えてください。」
と言って三木さんは服を一式持ってきた。
「ありがとう。」
私はそれを受け取ると三木さんは
「8時半ごろお迎えに参ります。それまでに準備をお願いします。」
と言って部屋を出て行った。私は着替えをしてクローゼットの引き出しからハンカチとちり紙とナヲちゃんからもらったたぬきのマスコットをポケットに入れた。ふとクローゼットにかけてある学校の制服を手に取った。
「もう袖を通すことはないのかな。」
今は11月中旬だが、今年は例年より暖かくまだ詰襟の中にセーターを着るには暑い。しかしあと1、2週間もすれば寒くなりセーターも必要になるんだろうな・・・。結局、私は自分の過ちのせいでナヲちゃんからセーターをもらえなくなってしまったのだ。それに、そもそもこの制服に二度と袖を通すこともできなくなるかもしれないんだ・・・。もう私は学生ではない。第二皇子、角光明なんだ。しっかりしろ!!自分に気合を入れるために頬を両手で叩いた。
「よし!」
私は三木さんが来るまでの時間を使い、これから帝国議会で使用する昨日の報告書をまとめた。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
皇帝陛下→角高順 光明の父。
皇后様→角優花 光明の母。
皇太子殿下→角光輝 光明の兄。(みっちゃん)
角光枝→角光明の姉。(花ちゃん)
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。
星野由美子→天文部、部長。
一ノ瀬雄太郎→類の祖父、八咫神神社神主
一ノ瀬サツキ→類の母
一ノ瀬勇→類の父、神祇省勤務
浜田さん→皇太子殿下角輝光の専属執事
三木さん→皇居の女中頭
井沢団長→近衛騎士団団長
鶴崎→光枝(花ちゃん)の専属執事




