291.親離れ㊸
トントン
「はい!」
「失礼します」
一ノ瀬くんはこちらの様子を伺いながら
「ナヲさん今いい?」
「大丈夫だよ。」
一ノ瀬くんはこちらにやって来ると
「休んでいるところ、すみません。一言お礼が言いたかったのでお見舞いに来ました。」
と言って紙袋を(私に)渡すと、
「気に入ってもらえるといいんだけど。」
中を見るかわいい花柄の紙袋が入っていました。私はそれを出すと
「開けてもいいですか?』
と一ノ瀬君に尋ねると
「うん。」
と一ノ瀬くんは恥ずかしそうに答えました。袋を開けると紅茶と焼き菓子の詰め合わせが入っていました。
「ナヲさんがお好きかと思って。」
「ありがとうございます。紅茶も焼き菓子もおいしそうですね。退院したらいただきますね。」
「はい。・・・ナヲさん。あの時は・・・。僕を助けてくれてありがとうございました。」
「一ノ瀬さん、頭を上げてください。一ノ瀬さんを助けたのは兄さんと大川さんですよ。私は力不足で・・・何も・・・。」
「そんなことはありません。ナヲさんがいてくれたから僕はここにいるんですから。」
「そう言ってもらえるとありがたいです。そういえば、一ノ瀬くんは天照に穢れを祓う役目を託されていましたよね。今とても忙しいんじゃないですか?」
「今日はここで怪我の処置と診察と検査もあったし、家族と相談して身体を休めてから祭祀の準備を始めることになったんです。だから忙しくなるのは明後日からです。だからその前にナヲさんにお礼が言いたかったからナヲさんに会いに来たんです・・・。」
「そうなんですね。」
「天照直々に託された使命ですからしっかりつとめます。ただ、私にそれができるか不安・・。」
「一ノ瀬さんなら大丈夫です。天照もそう思ってこの役目を一ノ瀬さんに託したんですから。」
「ナヲさんにそう言って頂けると心強いです。」
私達はしばらくの間、世間話をして過ごしました。一ノ瀬くんとは二人きりでゆっくりはなしたことがなかったので、彼がよく笑うこと、一度笑い出すと止まらなくなる事など新たな側面を知ることができました。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
皇帝陛下→角高順 光明の父。
皇后様→角優花 光明の母。
皇太子殿下→角光輝 光明の兄。(みっちゃん)
角光枝→角光明の姉。(花ちゃん)
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。
星野由美子→天文部、部長。
一ノ瀬雄太郎→類の祖父、八咫神神社神主
一ノ瀬サツキ→類の母
一ノ瀬勇→類の父、神祇省勤務
浜田さん→皇太子殿下角輝光の専属執事
三木さん→皇居の女中頭
井沢団長→近衛騎士団団長




