284.親離れ㊱
「一ノ瀬さん大丈夫ですか?」
私が一ノ瀬さんのもとに駆け寄ると、一ノ瀬さんは
「ありがとうございました。大丈夫です。助かりました・・・。」
と言って頭を下げます。私は
「怪我はありませんか?」
と尋ねると、
「大丈夫です。」
と答えます。私は
「ちょっと見せて。」
と言って、一ノ瀬くんの体を確認すると黒い袴の裾が濡れて、かかとに血が付いています。私は袴をめくり確認するとふくらはぎの側面を広くすりむいています。私はたすき掛けにしていた風呂敷の中から傷薬を出し消毒し、ガーゼを当てて包帯を巻きました。一ノ瀬君は
「ありがとう。ナヲさん。ところで角様の胸が光っていますがこれは?」
と尋ねます。あきちゃんは
「あの満月に反応しているようなんだ。そしてあの満月に幽魔らしきもやがかかっているんだ。」
と言って満月を指差します。一ノ瀬さんは
「又、八咫烏が関係しているのでしょうか?」
と言って満月を見つめます。私は、
「八咫烏の事はわかりませんが、一旦休みましょう。水分をとって、武器と防具のチェックをして万全の態勢で向かわないと、もしこの世界に来たのが私たちだけだったら、あの幽魔の群れに勝つことはできませんから。」
と言うと、二人は了解してくれてしばらく休むことになりました。
一ノ瀬君は家庭科室からこの採掘場に飛ばされたそうです。足のけがは飛ばされた際、採掘場のかたい岩場で擦りむいたそうです。
「よりによってなんでこんなところに飛ばされたんだろ?運が無いなって思ってたところに幽魔に襲われてさ。正直、もうダメだって思っていたところにナヲさんたちが助けに来てくれたんだ。神社の跡取りが言うのもなんだけど、神様っているんだなって思ったよ。」
と言って一ノ瀬さんは微笑みました。
「そろそろ、出発しよう。」
とあきちゃんが立ち上がると、私達は採掘場近くの脇道に出て再び満月に向かって歩き出しました。私達は時折「おーい!」、「誰かいますか?」など呼びかけますが、全く返事はありません。満月に近づくにつれて少し気温が下がってきました。満月に向かって歩いて行くと線路に出ました。私達は線路に入り、(線路を歩きながら)満月に近づいて行きます。線路は一旦短いトンネルに入り、トンネルを抜けると満月とそれを覆うもやの様な幽魔がすぐそこに見えます。私達は線路脇に街道らしき広い道と町が見えます。私達は線路から街道降りて、満月から幽魔がいつ襲ってきてもいい様に刀の鯉口に手をかけ慎重に進みました。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
皇帝陛下→角高順 光明の父。
皇后様→角優花 光明の母。
皇太子殿下→角光輝 光明の兄。(みっちゃん)
角光枝→角光明の姉。(花ちゃん)
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。
星野由美子→天文部、部長。
一ノ瀬雄太郎→類の祖父、八咫神神社神主
一ノ瀬サツキ→類の母
一ノ瀬勇→類の父、神祇省勤務
浜田さん→皇太子殿下角輝光の専属執事
三木さん→皇居の女中頭
井沢団長→近衛騎士団団長




