280.親離れ㉜
「大事な会議なんですよね。私のような平民の学生が近くにいてもいいものなんですか?もちろん聞こえてくる話の内容は口外しないと約束はしますが。」
と伝えると、皇太子殿下は
「こういうことを理解しているナヲちゃんであれば問題ないよ。」
と言ってくださいました。私たちは会議室に入ると、私は会議室の隅に用意されている仕切りの向こう側に座りました。そして集中して自分の世界に入りやすい編み物を始めました。・・・これあきちゃんに作っているんでだった・・・。私は頭を切り替えて無心で編むことにしました。怪我は完治したとはいえ手先を動かすと、傷跡が突っ張って未だ違和感があります。まっ、そのうちなれるでしょう。
「・・・昨年より幽魔の被害が帝都近郊の農村にも現れています。各支部から応援隊を出してもらっていたが負傷兵が増えてそれも困難な状態になっています。」
仕切りの向こうから話し声が聞こえます。・・・幽魔被害が増えているのは知ってたけれど騎士団の方々の被害がこんなに深刻な状況だったなんて・・・。いけない。編み物に集中しなきゃ。私が聞いていい内容じゃなかった。私は再度編み物に集中します。
「団員の士気高揚のために皇太子殿下が現場の騎士たちとともに戦っていただけたら。」
との提案の途中で
「その役目、私が引き受けます。」
・・・あきちゃん?私は聞いてはいけないと思いながら聞き耳をたてます。
「皇太子殿下は次期皇帝になられます。体調も戻られ、これまで以上に元気になられましたが今無理をして体調を崩されては元も子もありません。私は成人しておりませんがこれまでも皇帝陛下や皇太子殿下の公務を手伝ってまいりました。今後のことを考えましても私が適任かと思います。」
と言うと、
「その件については本日の極秘任務の結果を見て検討しよう。」
と皇帝陛下の声がしました。
私はまた黙々と編み物を始めました。どれくらい時間がたったのでしょうか。セーターの後見頃が完成しました。ちょうどそのタイミングで、
「お待たせ。」
と皇太子殿下の声、続けて
「手編みのセーターか。誰かにプレゼント?」
と尋ねます。私は
「あきちゃんに。」
と答えると、
「そっか。光明にか。」
と言って微笑みました。会議室には私と皇太子殿下と浜田さんしかいません。皇太子殿下は
「これから着替えてナヲちゃんの自宅に寄って正次朗くんと合流してから学校に向かうから。」
とおっしゃいました。
私達は、皇太子殿下の部屋に一旦戻り、道着を着て防具と刀など必要なものを用意し、馬車に向かいました。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
皇帝陛下→角高順 光明の父。
皇后様→角優花 光明の母。
皇太子殿下→角光輝 光明の兄。(みっちゃん)
角光枝→角光明の姉。(花ちゃん)
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。
星野由美子→天文部、部長。
一ノ瀬雄太郎→類の祖父、八咫神神社神主
一ノ瀬サツキ→類の母
一ノ瀬勇→類の父、神祇省勤務
浜田さん→皇太子殿下角輝光の専属執事
三木さん→皇居の女中頭
井沢団長→近衛騎士団団長




