277.親離れ㉙
「んん・・。」
あきちゃんに口づけをされながら、私は体を押さえつけられているせいで抵抗することもできません。なんで?私の目の前では目を閉じているあきちゃんがいます。私は足をばたつかせて抵抗していますがどうにもなりません。
「やめ!!」
という井沢団長の掛け声でやっとあきちゃんの唇が離れました。その瞬間
「ごめん。」
とあきちゃんは私だけに聞こえる声で謝りました。
私たちは中央に戻されました。あきちゃんは何事もなかったような顔で私の目の前に立っています。私はその事実をどう受け止めてたらいいかわからないままに残り時間2分くらいを戦わなければなりません。切り替えなきゃ・・・。
「はじめ。」
の合図に私は飛び出し後ろ回し蹴りを胴に一発入れました。その瞬間竹刀を落とし、体制を崩したあきちゃんの懐に潜り込み一本背負いをしました。そのまま時間切れになり
「それまで!」
という井沢団長の声が道場に響きました。あきちゃんは起き上がりません。私は倒れたあきちゃんを見下ろしながら駆け寄ることもせず、その場に立ち尽くしてしまいました。浜田さんはあきちゃんに駆け寄るとあきちゃんは
「大丈夫。立てるよ。」
と言って立ち上がりました。私は皇太子殿下に
「戻りましょう。」
と言ってあきちゃんを待たずに皇太子殿下の部屋に戻りました。私は自分のスペースに戻ると皇太子殿下が
「なんかあった?」
と尋ねます。私は
「張り切りすぎて疲れました。ご心配をおかけして申し訳ありません。」
と謝ると、皇太子殿下は
「それはいいんだ。ゆっくり休んで。昼食ここに持ってこさせようか?」
と言ってくださったので私は
「おねがいします。」
と答えました。
しばらくして三木さんが昼食を持ってきてくれました。三木さんは
「今日はかつ丼ですよ。」
と言って持ってきてくれました。私は
「ありがとうございます。いただきます。」
と伝えました。今日のメニューはかつ丼とお吸い物、ほうれん草のお浸しとたくあんでした。おいしそうなのに、お腹もすいているのに、あきちゃんとの口づけが頭を離れず食事が喉を通りません。私はかつ丼を二口とお吸い物を一口しか食べることができませんでした。
三木さんが食器を取りに来ると
「お体の調子が悪いんですか?」
と言って私のおでこに手を当てました。
「熱はないようですね。さっき道場から戻って汗を拭かれましたか?お風呂が沸いていますので先に入られますか?」
と心配して色々提案をしていただきましたが私は
「張り切りすぎて疲れただけです。折角の昼食を残してしまってごめんなさい。」
と伝えると三木さんは
「いいんですよ。ゆっくり休んでください。」
と言って私のスペースから出て行かれました。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
皇帝陛下→角高順 光明の父。
皇后様→角優花 光明の母。
皇太子殿下→角光輝 光明の兄。(みっちゃん)
角光枝→角光明の姉。(花ちゃん)
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。
星野由美子→天文部、部長。
一ノ瀬雄太郎→類の祖父、八咫神神社神主
一ノ瀬サツキ→類の母
一ノ瀬勇→類の父、神祇省勤務
浜田さん→皇太子殿下角輝光の専属執事
三木さん→皇居の女中頭
井沢団長→近衛騎士団団長