267.親離れ⑲
大川さんは私に
「左手にあまり力が入っていないみたいだね。傷口は痛む?」
と尋ねます。私は
「痛むというよ左手甲の皮がり突っ張ります。痛いというよりも違和感がありますね。」
と伝えると、
「そっか。わかった。じゃあ次にこの無名の日本刀でこっちの粘土を切ってみて。」
と言われたので、私は大川さんに
「神力を込めた方がいいですか?」
と尋ねました。すると、大川さんは
「うん、神力を込めて切って。」
と返事をしました。私は
「わかりました。行きます。」
と言って、抜刀すると、中段に構えてから
「ヤー!」
と粘土を切りました。すると粘土は上下真っ二つに切れて、粘土は自重で倒れずに立っています。大川さんは
「お見事。」
と言って切った上半分の粘土を押すと、上部だけが倒れてパカっと切り口(断面)が見えます。
「ちょっと見て。」
と言って手招きをしました。
私と皇太子殿下は大川さんの元へ向かいました。大川さんは
「見て、この切り口。ツルツルだろ。一気にスパーっと切れたってわかるだろ。この切り口だったら、斬られた幽魔は、斬られたことも、痛みすらも感じないだろうね。」
と言い、続けて大川さんは
「もう一度構えて。」
と言いました。
「今ナヲさんの左手に力が入離にくい状況だからこそこの日本刀が使い易いんだと思う。騎士団の刀は左手の小指薬指中指を使うから上手く切れないんだ。騎士団の刀は木刀を振っている感覚に近いんだよ。この日本刀はとにかく軽いんだ。だから力が乗りにくくて、逆に切りにくい。でもナヲさんは左手がうまく使えないから右手だけで、余計な力も入らずにうまく切れたんだと思う。今切るとこを見たんだけど、調整をせずにこのまま使って問題ないよ。」
と言って大川さんにおっしゃいました。
そして、
「刀に油がついたから綺麗にしてから渡すね。」
と言って私達は工房に戻りました。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
皇帝陛下→角高順 光明の父。
皇后様→角優花 光明の母。
皇太子殿下→角光輝 光明の兄。(みっちゃん)
角光枝→角光明の姉。(花ちゃん)
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。
星野由美子→天文部、部長。
一ノ瀬雄太郎→類の祖父、八咫神神社神主
一ノ瀬サツキ→類の母
一ノ瀬勇→類の父、神祇省勤務
浜田さん→皇太子殿下角輝光の専属執事
三木さん→皇居の女中頭




