231.八咫烏㉝
「じゃあ、そろそろ休もうかな。おやすみナヲちゃん。」
「おやすみなさい。」
皇太子殿は私のスペースから出ていかれました。それから私は英語の問題集の続きをする気にはなれず、眠たくもないのであきちゃんのセーターの続きを編む事にしました。私は机の上を片付けて編み始めました。やはり手の甲の傷が突っ張っていつものようにテンポ良く編む事ができません。それに毛糸に包帯にが引っかかっていちいち毛糸を整えながら編むのも面倒です。
「はぁ、うまく編めないな・・・。」
ぽつり独り言が漏れてしまいました。あきちゃんが楽しみにしてくれているので頑張って作らないと・・・。
「よし!」
と小さな声で気合いを入れると、
「これってこの前買った毛糸?」
びっくりして振り返るとあきちゃんが口に人差し指を当てて
「シーー!」
と言いながら近づいて来ました。私は頷くとあきちゃんは安心した顔をして、
「よかった。びっくりさせてごめん。」
と小さな声で言いました。
「いえ。それよりどうしたんですか?」
「用がなくちゃ来てはいけないの?」
「いえ、そういう訳ではありませんが・・・。」
「これって私のセーター?」
「はい。でも毛糸が包帯に引っかかるし、傷口が突っ張って上手く編めなくて・・。冬には完成させたいのですが・・・。」
「ありがとう。でも無理はしないで。ナヲちゃんの傷口が開いたら困るから。」
と言ってあきちゃんが私の手をそっと両手で包み込み、私を見つめながら怪我をした手にキスをしました。今日のあきちゃんは赤ちゃん返りをして駄々っ子になったり、急に大人っぽくなったり、ついていけません。私は
「なな・・?」
と大声が出そうになるとあきちゃんは又、
「しー、しー。」
と言って慌てます。急にいつものあきちゃんに戻って安心しました。それからがセーターを編んでいるのをあきちゃんは嬉しそうに見つめています。
「そんなに嬉しそうにされたら頑張らないといけませんね。」
「あ、ごめん。そんなつもりは。・・でもナヲちゃんが作ったセーター、早く・・着たい・・です。」
とあきちゃんは遠慮がちに言って顔を真っ赤にしました。「あきちゃん、もう12時半よ。明日は学校だし寝なきゃ。」
「ナヲちゃんはねむい?」
「ん〜。正直なところ目は冴えています。」
「私もお昼寝したから眠れないんだ。だからナヲちゃんがまだ編み物をするのなら、このまま見ていたい。」
「じゃあ、あと30分。1時になったら寝ますからそれまで付き合ってもらえますか?」
「もちろん。でもナヲちゃん無理はしないでね。」
「承知しました。」
後書き
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
皇帝陛下→角高順 光明の父。
皇后様→角優花 光明の母。
皇太子殿下→角光輝 光明の兄。(みっちゃん)
角光枝→角光明の姉。(花ちゃん)
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。
星野由美子→天文部、部長。
一ノ瀬雄太郎→類の祖父、八咫神神社神主
一ノ瀬サツキ→類の母
一ノ瀬勇→類の父、神祇省勤務
浜田さん→皇太子殿下角輝光の専属執事
三木さん→皇居の女中頭




