199.八咫烏①
私とあきちゃんと八咫烏は着替えをして食堂に向かった。
食堂には一ノ瀬君のおじい様がすでに座って新聞を読んでいました。
「おはようございます。」
と私とあきちゃんは挨拶をすると、
「おはようございます。昨夜はよく眠れましたかな?」
「はい。」
と返事をするとおじい様は
「先ほど連絡があって皇帝陛下と皇后様、皇太子様10時頃に、ナヲさんのご両親と三条様は9時半ごろにお見えになるそうじゃ。それまでゆっくりなさってくださいな。」
「ありがとうございます。」
「カアーーー。」
私たち+1羽はおじいさまにお礼を言うと、
「みんなが揃うまで先にこの子に食事をさせましょう。」
と一ノ瀬さんのお母さんが八咫烏の食事を持ってきてくださった。八咫烏は私に食べてもいいと聞いているような表情で
「カア?」
と尋ねました。
「いただいていいんですよ。」
と答えると喜んで食べ始めました。
「よう食べるのぅ。」
私たちはみんなが揃うまで八咫烏の食事を観察しながらお茶をいただきました。
「おはよう。」
「おはようございます。」
一ノ瀬さんと一ノ瀬さんのお父様が食堂にやって来ました。
「おはようございます。」
私とあきちゃんがあいさつをすると、
「小南さん。傷は痛まないかい?」
と深刻な顔で一ノ瀬君のお父さんは突然私に尋ねます。
「はい、昨日先生に処置していただきましたし、お薬も飲んでいますし大丈夫ですよ。」
「今小南さんが来ているブラウス、昨日来ていたものでしょ。血の跡がついているよね。その血の跡を見たら傷の深さとか想像できるよ。昨日私は寝巻きに着替えた君しか見ていなかったからここまでひどい状況だったとは知らなかった。改めて言わせて、ありがとう。類を助けてくれて。」
「そんな、頭を上げてください。私はただ、自分のできることをしただけです。」
「小南さんは勉強も学年1位なんだってね。文武両道ですごいじゃないか。昨夜も角様と遅くまで勉強をしていたんだろ?君みたいに文武両道で、礼儀正しくて、心優しい子が類のお嫁さんになってくれたらなって。」
と言うと、お茶を飲んでいたあきちゃんはそれを噴き出しました。私が慌てテーブルを拭いていますと、
「父さん、やめてください。小南さんにはきっといいお相手がいらっしゃいますよ。」
と、一ノ瀬さん。すると、
「八咫烏が類とナヲさんの縁を繋いでくれたんじゃとわしも思うとる。祭祀の仕事もナヲさんならそつなくこなしてくれるじゃろうて。今日、ご両親もいらっしゃることじゃし、お願いしてみようと思うんじゃ。」
「ありがたいお話ですが、結婚よりもやりたい仕事がありますし。一ノ瀬さんには私なんかよりふさわしい方がいらっしゃると思います。」
私はテーブルを拭き終わると、
「もう、やめてよ!小南さんが困っているだろ。」
一ノ瀬さんの声は届かず、
「うちに嫁いでもらっても、仕事は続けてもらっても構わないよ。女中もいるし、妻も協力してくれるから。」
「私は・・。」
私が返事に困っていると、あきちゃんが湯呑みをおき、突然立ち上がりました。何か言おうとして言葉を探しているようです。すると、
「小南さんごめんなさいね。家の男たちが。あなた、父さん、ほんとーにわかっていませんね。はいはい、この話はおしまい。類の命の恩人を困らせるんじゃないわよ!!角様も類もごめんなさい。嫌な思いをさせてしまって。」
と言って一ノ瀬さんのお母様は、一ノ瀬さんのお父様とおじい様を笑顔で睨み、
「さっ、朝ごはんにしましょう。」と言ってテーブルにお皿を並べ始めました。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
花ちゃん→角光明の姉。
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。
星野由美子→天文部、部長。
一ノ瀬雄太郎→類の祖父、八咫神神社神主
一ノ瀬サツキ→類の母
一ノ瀬勇→類の父、神祇省勤務




