180.夜の学校⑯
ドスン!私たちは床に倒れこみました。私はあきちゃんに庇ってもらい痛みはありませんでした。
「あきちゃん大丈夫ですか?」
私はあきちゃんに問いかけると
「大丈夫だよ。」
と言ってニコッと笑いました。
すると、
「ナヲ!角様、一ノ瀬君?!」
「おい、大丈夫か?」
「えっ、ちょっと、どういうこと?」
「角様?! 角様!!」
私たちのもとに富さんと、信くんと、かえでさんと(あきちゃんの)警備の方が駆け寄りました。私は何があったのか尋ねると、かえでさんが、
「急に隣にいたナヲが消えちゃって。それで慌てて電気をつけたら角様も一ノ瀬君もいなくなってて。それで警備の方が廊下にいたから事情を説明してナヲ達を探しに行こうって話をしていたところなの。よかったすぐに見つかって。」
と私たちが家庭科室から消えたときのことを話してくれました。ということは、私達が別の空間に飛ばされてからここに戻るまで、そんなに時間はかかっていないということですね。すると突然、
「え?!何ナヲあんた腕。血だらけじゃない。大丈夫なの?」
「ナヲさん。ごめんなさい。私のせいでこんな事に。早く保健室に!」
「2人とも落ち着いて、血は止まっているわ。大丈夫だから落ち着いてください。大した事ないんです。」
と伝えると、とりあえずは落ち着いてくれました。私は立ちあがろうとしましたが、
「ナヲちゃんフラフラでしょ。もう少しこのままで。」
と言ってあきちゃんは私を抱きしめたまま起き上がって私をあきちゃんのあぐらを組んだ足の上に座らせました。
「あの・・・。角様、離してもらえます。」
と言うと、
「やだ。」
と言って離してくれません。そしてあきちゃんは、
「渡辺さんちょっと外してくれないか?」
と警備の方に伝え、彼が教室の端に移動したことを確認すると私たちだけに聞こえる声で、私たちが体験したことを話しました。私は
「この子がその八咫烏ちゃんです。」
とみんなに見せると、驚いた八咫烏は私の手から逃げて、私とあきちゃんの間に隠れました。するとあきちゃんは、
「これは皇室の重大な案件が関わっているんだ。だからみんなこのことは口外しないでほしい。」
と真剣に伝えると富さんと、信くんと、かえでさんは了解してくれました。
「じゃあ、音の正体も分かったことですしそろそろ帰りましょうか?」
と私が言うと、一ノ瀬さんは
「申し訳ないんだけど、角様と小南さんはこのままうちの神社に来てもらえないでしょうか?八咫烏を祀るうちの神社は皇室に係わる祭事をすべて担っています。今日起きたことについて何かわかるかもしれません。それに今日の出来事は皇帝の耳に入れなければいけない案件だと思うんです。八咫烏もそのまま小南さんが連れ帰るわけにはいかないと思いますし・・・。」
私とあきちゃんは一ノ瀬さんの提案に了解しました。一ノ瀬さんが家に電話をしてくると立ちあがろうとした時、
「一ノ瀬さん待ってください。あの・・・。私が興味本位でナヲさんを巻き込んでしまったから、ナヲさんにけがをさせてしまって。そしてみんなを危険な目に合わせてしまって・・・。本当にごめんなさい。」
と富さんは頭を下げました。
「ちょっと切っただけですから。気にしないでください。」
と私が富さんに伝えると、あきちゃんは
「ナヲちゃんの怪我の件はしっかり私が責任をとるから大丈夫だよ。」
といって私の腰に回した手にきゅっと力を入れます。
「水木さんのおかげで八咫烏を助けることができたんです。だから気にしないでください。それと角様の発言も気にしないでください。」
と一ノ瀬さんは富さんに伝え、家庭科室を出ていきました。
「じゃあ、俺は荷物を取りに行って天文部に異状なかったって伝えてくる。」
「信くん、私も行きます。」
信くんと富さんは屋上へ向かいました。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
花ちゃん→角光明の姉。
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。
星野由美子→天文部、部長。




