150.訓練
4時過ぎ頃に、あきちゃんとかえでさんと富さんがお見舞いに来てくれました。あきちゃんは高齢のエツ子さんの代わりに私の介助までしてくれました。あきちゃんが親切で体位交換をしてくれているのに、あきちゃんとの距離感にドキドキしてしてしまって・・・。あきちゃんはとても美しい容姿をしているので、顔が近くに来るだけでもとても緊張してしまいました。親切で介助してくれているあきちゃんに対してこのようなことを考えるなんてとても申し訳ない気持ちになりました。
対位交換をしてもらい、バラの花のお礼を伝えると、あきちゃんは私たちが小さい頃に三条邸の庭を散歩した話をしてくれました。今もあのお庭は素敵なんでしょうね。真っ赤なバラが3本。前世ではバラにの花言葉とか送る本数に意味があったりしましたが、この世界にはこのようなジンクスがあるんですかね。あきちゃんの話を聞きながらこのようなことを考えていたら、突然あきちゃんが、
「ナヲちゃん、昨日馬車でさ・・・。私がいじけてしまって・・・。あの。ごめん・・・。」
と伝えてくれたんです。でも私は今の今まで忘れていました。そのことがとても申し訳なくなって、私は「気にしてないよ。」と声を出しましたがうまく言えません。頭を撫でればきちんと気持ちが伝わると思い手を伸ばしますが頭には届きません。大丈夫だからと言いながら手の届いた頬をなでると、あきちゃんはその手に自分の手を重ね、私の手にキスをしました。その瞬間、麻痺をしている体に一気に血流れ出すようなそんな感覚が全身を襲い、心拍と脈拍が上がりのぼせてしまいそうになりました。私は試合でのダメージよりも、あきちゃんから手にもらったキスという一撃の方が身体に効いたきがします。退院したら三条邸のバラ園に行こうとあきちゃんに誘ってもらいましたので、余計なことは考えずに体を休めることだけに専念しましょう。
あきちゃんからの手のキスにあたふた(麻痺で行動には出せませんでしたが)していたら、売店に行っていた富さんたちが帰って来て、私は何とか平常心を取り戻せました。
富さんとかえでさんは、今日の授業のノートとプリントを持ってきてくれました。明後日から試験期間(2週間)に入るのでとても助かります。それまでには体を治して勉強しなくてはいけません。それにしてもかえでさんと富さんがいると部屋がにぎやかになりますね。たくさん元気を頂きました。かえでさんと富さんには試験が終わったらお礼に周南堂で甘味セットをご馳走しようと思います。試験が終わるのが10月中旬だからさつま芋と、カボチャの商品が売り出されているはずです。2人はさつまいもとカボチャが大好きなのできっと喜んでいただけると思います。
三人が帰った後、入れ替わるように父が見舞いに来てくれました。修理に出した眼鏡は今週末に出来上がるそうです。父はエツ子さんと一緒に帰りました。一人きりになった病室はがらんとして寂しい気持ちになりました。私はあきちゃんからいただいたバラを見ながら寂しさを紛らわせました。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
花ちゃん→角光明の姉。
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。




