148.訓練(あきちゃん視点⑱)
私は手順通りにナヲちゃんを横向きにしてクッションを背中に当て体を安定させた。布団をゆっくりかける。ナヲちゃんと別れるのが名残惜しくなって彼女の頭を撫でる。愛している。そう心の中で呟きながら。
「あいやとう。」
ナヲちゃんが私の目を見つめそういうと、私は、別れたくない気持ちを振り切るように、
「どういたしまして。じゃあね。」
と答えた。
エツ子さんに見送られ私たちは部屋を出て、面会者名簿に退出時間を記入し病院を出た。
「今日は色々ありがとう。君たちのおかげで色々と・・・。」
「いいってことよ~。」
「角様、言いましたよね。応援するって。私達はただ、お2人を応援したいだけなんですよ。」
と吉田さんと水木さんは笑った。
私達は馬車に乗ると、2人は私が日本にいなかった間のナヲちゃんとの思い出を色々と話してくれた。吉田さんは初等、中等教育学校もナヲちゃんと一緒だったので、彼女の話は私が知らない彼女のおてんばな一面を知るきっかけにもなった。
例えば、友人がボールを木に引っ掛けたときに高い木に登って取ってあげたり、大きな野良犬に追いかけられている友人を助けたり、市電で痴漢被害にあっている女性を助け、逃げる犯人を捕まえて警察に突き出したり、ひったくりに常習犯を現行犯で取り押さえたりと正義感の強い彼女らしい武勇伝や、中学校の時のダンスの授業で上手に踊れなかった彼女は、先生にお願いをして毎日放課後練習をしていたことなど努力を惜しまない彼女らしいエピソードも色々と聞かせてもらった。(ダンスについては私との秘密のレッスンで、条件付きで踊れるようになったけどね。)
「送ってくださってありがとうございました。失礼します。」
吉田さんを送り届けると、今度は高等教育学校に入学してから私が転校して来るまでの話を水木さんから聞かせてもっらった。特に面白かったのは、夏休みにクラスの友人たちと泊りで海に行った際に、スイカを買いに行ったら売り切れていて、がっかりしていたクラスメイトのためにその日に行われた遠泳大会に出場して優勝し、スイカを10個手に入れて戻て来たと言う話だ。
「ナヲったら面白いんですよ。「ちょっと待ってて、1時間くらいしたら戻るね。」って、どこに行くかとついていったら遠泳大会の参加受付のテントに行ってゼッケンをもらってきて、「私113番だった。」なんてのんきに戻って来て。で大会に出場して総合で確か8位か9位だったかな、女子では1位になって賞品のスイカを持って帰って来たんですよー。しかも10個も。すごくないですか?」
水木さんは楽しそうに話をしてくれた。ナヲちゃんの面白話をもっと聞きたかったが残念ながら水木さんの家に到着した。
「今日はありがとうございました。」
と言って水木さんは馬車を降りた。
今日は、吉田さんと、水木さんと、エツ子さんのおかげでいい一日になった。
登場人物
小南ナヲ→前世で100歳まで生き、その記憶をもったままこの世界に生まれてきた。この物語の主人公。神力を持つ。
角光明→日之本帝国第二皇子。幼い頃に遊んでいたあきちゃん(明)。
小南正次朗→ナヲの5歳歳上の兄。あだ名は正ちゃん。神力を持つ。
小南敏光→ナヲの父、工部省に勤めている。姉が経営しているセイコウ出版社副社長。神力を持つ。
小南カヨ子→ナヲの母。
花ちゃん→角光明の姉。
坂上信雪→貴族(士族)。正義感が強くて優しくて力持ち。柔道部期待の星。
水木富→貴族(華族)。気さくな性格で心優しい子。茶道部
長井隆→平民。九州の長崎出身。実家は長崎で貿易商、英語、仏蘭西語、独逸語が堪能。私が企画部部長を務めているセイコウ出版社で翻訳のアルバイトをしている。。
吉田かえで→平民。曲がったことが大嫌いな明るい活発な子。帝都の下町朝草生まれ朝草育ち。
野島柚木→あだ名はゆずちゃん。両親が営んでいる周南堂で働いている。午前中は購買で、午後は周南堂の店舗で働いている。ナヲとの幼馴染。
野島涼介→あだ名は涼くん。柚木の兄。
三条礼司→日之本帝国の上院、太政大臣。20年前は文部大臣だった。光明と花ちゃんの叔父。
市川先生→1年C組の担任。担当教科は数学。英国に留学経験があり英語が堪能。
相田さん→ナヲのクラスメイト。貴族
九条 善高→貴族。父は立法省の大臣 善成。社交ダンス部。
春日フジ→金属加工の春日工業副社長。竹男の妻。ナヲの父敏光の姉。ナヲの伯母。
春日竹男→金属加工の春日工業の社長。フジの夫。ナヲの伯父
中村邦子さん→クラスメイト。文化祭の演劇のメイクを担当。
木田さん→クラスメイト。文化祭では衣装班。
佐藤美香さん→クラスメイト。文化祭では調理班。貴族。ダンス部。
瀬川くん→クラスメイト。文化祭では調理班。平民。
一ノ瀬類→あきちゃんのクラスメイト。
大川大地→騎士団の団員。自宅は武器や防具の工房で以前は職人として働いていた。平民。




